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ジュノ・ジャクセル、王都の魔法学校から来ました!

連載はじめました。よろしくお願いします

✧*。٩(ˊωˋ*)و✧*。

 雪解けの気配もまだ遠い、春のはじまりのこと。


 人間の王国の北端にして、魔王軍との緩衝地帯に面した森の際にある、地図の余白に描かれたような山に、古い砦がぽつんと佇んでいた。


 石造りの防御塔キープがひとつ。

 その足元に母屋と納屋と井戸。


 そして、それらをとり巻く木で出来た高い柵と広い門。







 そんな砦に、ひとり訪ねる旅装束の少年があった。


 まだあどけなさが顔立ちに残っている。

 歳の頃は、15か16か。


 きりりと結ばれた唇。意志の強そうな眉。

 背負った荷物は軽いが、目に宿る覚悟は堅い。


 手には魔杖まじょう


 魔力を蓄え、狙いをつけて撃ち出す、鉄刀木タガヤサンから削りだした魔道士の杖だ。




 彼の名は、ジュノ・ジャクセル。

 王都の魔法学校にて主席卒業を控えた、将来を嘱望される少年。


 その彼が選んだインターン先が──


「……こんなとこだとは、思ってなかったなぁ」


 ジュノは朽ちかけた砦の柵と門を見上げ、呟いた。


 本当にここが、あの〝殿軍しんがりの英雄〟が勅命で赴任した最前線の砦なのだろうか。


 きしむ門の扉を押し開けると、そこには乾いた空気と、冷たい風と、そして──


「……誰? お前」


 ひとかかえの薪を小脇にした、冴えない中年男が……門の後ろから顔を出した。


 くたびれた防寒着に無精髭。覇気のカケラもないその姿は、まるで崩れかけたこの砦の一部のようだった。


 男は斧を手にしている。


「こ。……こんにちは、僕は王都のウィンゲート魔法学校から来た──ジュノ・ジャクセル……」


「あー、聞いてないね。帰りな」


 中年男は、まるで煙たがるかのように手を振りながら言った。


 ジュノはポケットに紹介状を探しながら言った。


「……え、いや、だって、本日より三ヶ月、インターンとしてこちらでお世話になる予定で……」


「だって俺インターンとか聞いてないし。弟子とかそーゆうの、ウチはもう取ってないんだよね」


「ちょ、ちょっと待ってください! ここはあの〝殿軍しんがりの英雄〟ゼブラ・ゴーシュ様の砦ですよね?」


 中年男は、曇らせた目を逸らした。


「……そうだけど。英雄はもう、いないし」


「へーー!?」


 ジュノは旅装束でのけぞった。


 じゃあ、あんたこそ誰!?…… とは口にしないものの──


 王都を出て一ヶ月。海では嵐に遭い、雪山を越え、山賊と魔物に追われて、なんとか期日の今日に間に合わせて辿り着いた。


 そんな辺境の砦に、お目当ての英雄がいないとなると、それはどう言った行き違いなのか。


 ジュノは、折れかけた心で思った。


 そもそも、校長が紹介状を出しているはず──。出発した以上、手ぶらで帰るわけにはいかない!


「……僕、ゼブラ様のことを尊敬してるんです! 薪割りでも掃除でも皿洗いでもなんでもしますから! どうかここで、お帰りを待たせていただけませんか……!」


 腰を折り曲げるようにして頭を下げるジュノに、男は、ため息混じりで言った。


「じゃあ……。薪でも割ってもらおうか」


 目を上げると、斧が差し出されていた。



 それが彼の生涯忘れえぬ三ヶ月の始まりにして、殿軍の英雄、ゼブラ・ゴーシュとの最初のやりとりだった。



 


 ◇


 


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