003_3
ミナトが取り出したのは、既製品のカードゲームだった。
一枚一枚、キャラクターやモンスターなどのイラストが描かれている。
ルールは単純。一人ずつ順番にカードをめくり、イラストに名前をつけるだけ。そして出てきたイラストに、すでに名前がついていた場合は……
ユウ「あ!こいつ、さっき出てた!暗黒……暗黒騎士の……?」
ミナト「暗黒に応えし騎士の誓いですよ」
ユウ「く~……見覚えはあったのに……!」
最初に名前を呼んだものがカードを獲得できる、という即興の記憶力ゲームだった。
ユウ「こいつも、こいつも見た!えーと、ドラゴン……」
ミナト「……なんとか、ドラグ、リヴォーク……」
トーマ「……僕が、つけた名前……あ、あ、あ……?
ア……なんとか、ドラグ・リヴォーク……ダメだ、もう忘れた!」
ユウ「二人とも、長い名前つけるから!」
だれも名前を思い出せなかった場合は、新たな名前をつけて次のカードに移る。
次にユウがめくったカードには、未来的な戦闘サイボーグのイラストが……
ユウ・トーマ・ミナト「「「太郎!」」」
三人の声が完全に重なり、その後、三人とも堪えきれずに爆笑した。
トーマ「あっははは……なんで、こいつが太郎になるんだ……」
ミナト「ふふっ、ふふふっ……極めて特殊なセンスです……」
ユウ「いや、その、なんか浮かんできて……」
ミナトはゲームを始めるとなった途端、饒舌になった。
こういうカードゲームやボードゲームが好きで、いろいろと集めているらしい。
肩掛けカバンの中にそのコレクションの一部を持ってきており、他にもいろいろと入っているようだ。
自らも新たなゲームを作成中で、今度、テストプレイに付き合って欲しい、と言っていた。
田舎暮らしで、年の近い友人がいなかったユウは、せいぜい家族とトランプで遊んだ経験があるくらいだ。
同い年の友人とこうして遊ぶ、というのは強烈な体験で、すぐに夢中になった。
大柄な男「なあ、オレも混ぜてくれないか?」
大盛り上がりのユウ達のテーブルに、一人大柄な男が声をかけた。
ユウ「カオルくん!美味しかったよ!料理ありがとう!」
大柄な男の名は、来栖カオル(くるすカオル)。
夕食の準備の役割に率先して手を上げ、今日の夕食をほとんど一人で作った、料理好きを自称する男だ。
トーマ「これだけの料理を用意するのは、大変だったんじゃないか?」
カオル「気にしないでくれ。趣味だから。
配膳や片付けは別の生徒が持ち回りでやってくれるからな。逆に助かったよ」
カオルは笑顔でこたえた。
この浮き島には、生徒の他に乗っているものはいない、と昼の説明でエレナは言っていた。
そこで、共同生活を営むため、生活のさまざまなことを役割分担したのだ。
ちなみにユウは、洗濯係に任命された。
カオル「ずいぶん盛り上がっていたな、なにをしていたんだ?」
ユウは手に持ったカードを見せて、簡単にルールを説明した。
カオル「へー。こんなのがあるんだな」
カオルは物珍しそうにカードをかかげて見た。
こはく「ね、あーしらも一緒にやりたいんだけど」
ユウ達のテーブルのみんなに、というよりは、トーマ個人に向かって、こはくが声をかけた。
どうやら、声をかけるタイミングを見計らっていたらしい。
なお、先ほどのタブレットは、明日もう一度渡す条件で、エレナに没収された。
夕食もとらず、ネットショッピングに夢中になっているこはくを見かねた結果だ。
ユウ「もちろん!」
ユウの元気な声に、こはくは、ユウとトーマ間に椅子を割り込ませて座った。
ましろは双子の姉の行動にまゆをひそめたが、何も言わず、テーブルから少し離れた場所、ユウたちのやや後ろに椅子を持ってきて座った。
ましろのとなりに、あかりも座る。
ユウ「エレナさんもどうですか?」
三人の女生徒が席を移動したため、取り残された形になったエレナに、ユウは声をかけた。
エレナは声をかけられるとは思っておらず、一瞬、きょとんとした顔を見せた。
エレナ「私は……いや、お誘いいただき、ありがとう」
断りの言葉を飲み込み、エレナも席を移した。
トーマ「……君も、どうかな?」
トーマが近くのテーブルで、じっと座っていた女生徒に声をかけた。
内気な少女「え……?えっ、え……?」
エレナ以上に声をかけられると思っていなかった少女は、おどおどとうろたえた。
内気な少女「わた、わたしは、その……見てるだけで……」
その言葉を聞いて、トーマは自分の斜め後ろにイスを置いた。
トーマ「じゃあ、ここどうぞ」
内気な少女はもじもじと手を動かしていたが、おずおずとトーマの用意したイスに座った。
こはくは、トーマが自分以外の女生徒に優しくするところを見て、露骨に嫌な顔をした。
ユウ、トーマ、カオル、こはく、ましろ、あかり、エレナ、内気な少女……
ミナトはテーブルに集まった面々を見回した。自分を入れて9人。
ちょうどこのクラスに集められた生徒の半分だ。
このテーブルに収めるにはどう考えても人数が多い。
実際、半数はテーブルから少し離れて座っており、一列目の生徒の間から頭をのぞかせるような形になっている。
ミナト「人数が多いから、今度はこっちのゲームをしよう」
ミナトは肩掛けカバンから、別のカードの束を取り出した。
さっとカードを混ぜて、一枚をトーマに手渡した。
ミナト「出題者は、自分だけカードを見て、そこに書かれた言葉をカタカナなしで説明するんだ。
出題者以外の人は、なにを説明しているか分かったら、自由に答えて。
一番早く正解を言えた人が勝ちだよ」
トーマはカードに書かれた言葉を見て、苦笑いを浮かべた。
トーマ「これ、カタカナなしで説明するの、難しいな……」