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003_2

ノクス(そうか、週に一度、補給があるか……

 どうやって補給するんだ?浮き島を地上に降ろすのか……?)


ユウ(どうしたの?ノクス?この生っぽいお肉、美味しいよ)


 情報収集に聞き耳を立てていたノクスに、ユウはのんきな声をかけた。


ノクス(そりゃローストビーフっつうんだ。黙って食ってろ)


 急に宙を見上げたユウに、トーマは尋ねた。


トーマ「……ひょっとして、今、聞こえてる?」


ユウ「……あ、うん……別に、大したこと言ってないけど……」


 気恥ずかしそうなユウ。これまで自分の幻聴について、人と話をしたことはほとんどない。

 先の騒動のあと、2人は一緒に行動するようになった。

 今、この夕食の場でも同じテーブルについて一緒に食事をしている。


 これはもう、友達と言えるんじゃないか、とユウは期待しているが、あらためて言葉にするのもなにか違うような気がして、確認が出来ずにいた。


トーマ「意外ってよく言われるんだけど……僕、異能力に興味があってさ」


ユウ「意外ではないかな……」


トーマ「将来、異能力の研究に携わりたいって思ってる」


ユウ「……かっこいい……」


 ユウには、さらりと明確な夢を語るトーマが自分よりずっと大人に見えた。


トーマ「聞かせてよ、ユウの幻聴……いや、トーンオブシャドウ……についてさ」


ゆるいパーマの少年「トーンオブシャドウ~聴こえざる福音の調べ~……」


 トーマと少年は、無言で握手を交わした。


 ゆるいパーマの少年は斑鳩ミナト(いかるがミナト)という。

 彼も、ユウとトーマの2人と一緒に行動するようになっていた。

 今も同じテーブルで夕食をとっている。


 ミナトは無口で自分からほとんど言葉を発しないが、トーマが能力名を口走るたび、必ず二つ名をつけていた。

 トーマは自らのクリムゾンコードがどのような二つ名を冠されるか、期待とわずかな不安を抱いていたが、あいにくこれまで能力名を口走るようなシーンは存在しなかった。


トーマ「その、トーンオブシャドウ~聴こえざる福音の調べ~はさ、人の声しか聞こえないの?」


ユウ「あ、もうその名前なんだ……」


トーマ「付け直そうか?」


 ミナトも、何度でも付け直す、とでも言いたげに、しっかりとうなづいた。


ユウ「ごめん。名前に不満があるってわけじゃなくて……

 これまでただの幻聴って呼んでて、そんな大したものじゃないと思ってたから、名前負けしちゃいそうで……」


ノクス(誰が名前負けだ)


トーマ「そんなことないさ!異能力は持っているだけで素晴らしいものだよ!人と違うなにかが出来る!

 それだけで誇れるものさ」


 トーマはユウの肩に手を置いた。


トーマ「社会的な利用が進んでいても、異能力の原理についてはまったく分かっていないんだ。

 発現してから変化するケースもあるし……可能性のかたまりだよ。

 今、役に立たないからって、悲観するようなことはなにもないさ」


ユウ「そっか……役に立たなくても……良いのか……」


 幼い頃、この幻聴という異能力が発現してからずっと抱えていた、ユウの悩みと劣等感……ユウの心を覆うそれをときほぐす、そのきっかけになる言葉に感じられた。


ノクス(だれが役立たずだ)


トーマ「で、聞こえるのは、人の声だけなのかい?」


ユウ「うん。これまで、ノクス……えっと、幻聴の声の主の名前なんだけど……

 ノクスの声しか聞こえたこと、ないよ」


トーマ「ノクスというのは、その声が名乗った名前?」


ユウ「ううん……ボクがつけた。

 最初はその、飼ってた犬の名前だったんだけど……」


 ユウは制服の首元を緩め、肌身離さず首に下げたペンダントを取り出した。

 ペンダントトップは小さなカプセルになっている。


ユウ「死んじゃって、今は火葬した灰がちょっとだけここに入ってる。

 大好きで、ずーっと一緒にいたいって思ってたから、すごくショックでずっと泣いてて……

 その時に初めて異能力が発現したんだ」


トーマ「それで、その犬の名前を引き継いだんだね」


 ユウはうなづいた。


ノクス(……おめー、まさかオレのこと、ペットだと思ってんじゃねーだろーな……)


 ノクスの声に、ユウは笑いをこぼした。


ユウ(ノクスは、初代ノクスほど可愛くないよ)


ノクス(ケッ!)


トーマ「……今も聞こえてる?」


ユウ「うん。ペット扱いされたと思って怒ってる。

 初代ノクスの方が可愛かったって言ったら、へそ曲げたみたい」


 トーマは腕を組んで考えを巡らせた。


トーマ「今のユウの状況が分かっていて、コミュニケーションも取れるのか……人格がある……?


 ……どうやって異能力と判定されたんだい?

 失礼に聞こえるかもしれないけど、全部、君の頭の中で起こってることだから、精神的な病と見分けがつかないように思えるよ」


ユウ「最初はずっとそう言われてたんだけど……

 なんか脳波?を調べて、外からの刺激だって話になったんだ。

 あと、ボクの知らないこと、ノクスはよく知ってたりする。さっきもローストビーフって料理の名前を教えてくれた」


トーマ「なにかと交信するような能力なのか?それとも、外付けの脳のような思考能力を別に持つような……?


 ノクスくんに自分の生い立ちとか聞いてみてくれないかな?」


ユウ(だって。ノクス教えてくれる?)


ノクス(……)


ユウ「ごめん、すねちゃったみたいで、答えてくれない」


トーマ「幼い人格なのか……?」


ユウ「そうそう。ノクスって子どもっぽいとこあってさ」


ノクス(……おめーに言われたくねーよ)


トーマ「質問は、またにしよう。

 根掘り葉掘り聞いて悪かったね。ノクスくんにも謝っておいてくれ」


ユウ「全然いいよ。自分の能力の話、あんまり人としたことなかったから……嬉しかった」


トーマ「夕食の方も、もう充分かな?

 インスタントっぽいけど、コーヒーもらってくるよ」


 トーマは2人に告げると、手早く3人分の食器をまとめて返却のテーブルに持って行った。

 その所作は事も無げで、ユウはお礼を言いそびれそうになって、慌ててトーマの背にお礼を伝えた。

 トーマは振り返らず、手を上げて返事の代わりにした。その余裕に、憧れとわずかに羨望を感じてユウはため息をついた。


ユウ「この後、どうする?寮の部屋に戻る?」


 ユウはミナトに問いかけた。


ミナト「こういう選択肢も、あります」


 ミナトは肩掛けカバンから、キレイなカードの束を取り出した。

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