016_1
トーマ「……ユウの異能力も……消えちゃったのか」
病室のベッドの上。トーマは心底残念そうな声を出した。
ユウ「ほんと……なんだったんだろうね? 一体……」
ユウはトーマのベッドの横、小さな丸椅子に座っていた。
自分の腕とつながった血液パックを見る。血液パックは点滴スタンドにぶら下がって、赤黒く電灯の光を反射していた。
カオルとの戦いのあと、ユウは気を失い、目が覚めると、この病院にいた。
そして、すぐに気がついた。
何度呼びかけても、ノクスが返事をしないことを。
トーマ「ユウは、入院しないんだよな?」
ユウはうなづいた。
この輸血が終わったら、故郷に戻るように言われたのだ。
もう、異能力者ではないから、アカシア学院に在学し続けることはできない。そう告げられた。
ユウ「もうちょっと、説明が欲しかったよ……」
結局、カオルがどうなったのか、クラスのみんなは無事なのか……なにも分からないままだ。
こんな不完全燃焼の心を、ずっと抱えて生きていくんだろうか。
ユウ「あ……」
ユウは後ろに立った看護婦に気がついた。
立ち上がって場所を空ける。
看護婦「……」
看護婦は無言で、トーマのベッド脇のテーブルに花がいっぱいの花瓶を置いた。
そして押し黙ったまま、病室を出て行った。
ユウ「……今の人……」
トーマ「ああ。いつもこの時間に、花を持って来てくれる看護婦さん」
ユウ「……なんか、ものすっごく睨まれたんだけど……」
トーマは顔を曇らせた。
トーマ「ユウ、お前……変な目で見たんじゃないだろうな?」
ユウ「し、しないよ……」
ユウにはまったく心当たりがない。
トーマ「やめてくれよ?
僕、ちょっとあの看護婦さん、気になってんだからさ……」
ユウ「ええぇ?」
トーマ「なんつーか、ずっと前から知ってる感じっつーか……」
ユウ「なんだよ、ケガして入院したはずなのに……元気だね?」
トーマは恥ずかしそうに、頭を掻いた。
トーマ「で、ユウはさ、この後どうするんだ? 故郷に戻るのか?」
ユウ「うーん……」
さっき、故郷までの路銀を渡された。遠方だから、少しまとまった金額だ。
ユウ(ノクス、どうしたらいいと思う?)
返事は、ない。
ユウ「……この近くで、生きてく方法がないか……探してみようかな。
このまま故郷に帰ったら……後ろばっかり振り返って、生きちゃいそうだから」
トーマは驚いた顔をしていた。
ユウ「……どうしたの……?」
トーマ「いや、その……なんか、完全に幻聴と話してる間だったから……」
ユウは苦笑いを浮かべた。
ユウ「ずっと、一緒だったから……染みついてるのかも」
トーマ「やっぱりさ、寂しかったり……もう一度、話したい……とか、思うもの?
その、幻聴と……」
あのとき。カオルと戦って、意識を失ったその後。
朦朧とした意識の中で、少しだけ、覚えている。ノクスの言葉。
ユウ「うん……ノクスは……
ボクの、友達だから!」
(完)




