015_2
あかりは思い切って一歩を踏み出した。
あかり「……カオルの異能力を消すけど……邪魔しないのよね?」
あかりの言葉に、ノクスは一歩下がってカオルを差し出すような仕草をした。
大げさでどこか人を小馬鹿にしたようなその動きが、あかりの神経を逆なでにする。
みっちゃん「……行くわ。時間、かかるから……
危なかったら、先生置いて逃げるのよ」
みっちゃんがカオルの元に小走りに駆け寄った。カオルの目と喉元を隠すように、両手を置く。
あかり「……そんなわけ、行かないわよ」
みっちゃんを庇うように、ノクスとみっちゃんの間に立った。あかりはノクスを睨んだ。
あかり「カオルの次は、ノクス……アンタの能力も消したいところだけど」
ノクスはニヤニヤと笑いながら、肩をすくめた。
あかり「……なん、で……そんな顔してられるのよ?!
アンタのせいで、たくさんの人が死んだんでしょ?!
ソウガだって……アンタの役に立とうとしてたのに……」
言葉が詰まる。ソウガの光を失った瞳を、あかりは思い出した。
ノクス「ユウの次は、ソウガに懸想か? お盛んなこって」
ユウの顔で、ユウの声で放たれた言葉に、あかりはカッと喉の奥が熱くなった。
バチィィィン!
あかりはノクスの頬に力一杯、平手を叩きつけた。
ノクスはゆっくりと顔をあかりに向けた。余裕の表情を崩さず、あかりを見つめる。
だが。
ノクス「お……?」
足に力が入らない。ノクスは膝から崩れ落ちた。
ノクス「……なにを、したんだ……?」
ノクスは地面に力なく横たわった。足だけじゃない。全身から力が抜けていく。
まるで、精神と体の接続が絶たれたみたいだ。
あかり「アンタ……ユウが意識を失ってる間だけ、出てこられるんでしょ?!
今、ユウの夢に働きかけて、半覚醒状態にしたわ!
どう? この状態でも動けるのかしら?」
興奮気味に、あかりはまくし立てた。
ノクス「ふーん……こんなことも、出来るんだな……」
あかりに対してノクスは、感情の乗らない声でつぶやいた。
あかり「初めてよ! わたしだってうまく行って、ビックリしてるとこ! 試したこともないわ!
だって、アンタ以外にこんなこと、意味ないもの!」
ノクスは納得して、小さく笑みを浮かべた。
あかり「もう動けないんでしょ? 残念だったわね! アンタの能力を消す許可も下りてるのよ!
アンタがユウの能力なら、キレイサッパリ人格ごと消えちゃうかもね!」
ノクス「……ああ。キレイサッパリ、頼む」
不意に、ノクスの声が穏やかになって、あかりはうろたえた。
あかり「な、なによ! 強がってるの?! 消されたくなかったら、能力を解きなさい!
まだ、まだ間に合う人がいるかも……!」
ノクス「とっくに解いてるよ」
あかり「え……?」
事も無げに言い放ったノクスに、あかりはあっけにとられた。
ノクス「カオルの意識がなくなったときには、もう、解いてた。
数分なら、ほとんど生きてんじゃねえか?
まあ、脳細胞がぶっ壊れて、後遺症が残るやつらがいるかも知れんが」
最後に、意地の悪い笑みを見せる。
あかりはもう一度平手を振り上げた。が、振り下ろさず、ゆっくりとおろした。
ノクス「勘違いすんじゃねえぞ? オレはいつでもおまえらを殺せるんだからな?
オレの気まぐれで、いつだって!」
あかり「ノクス……あなた……まさか……
消されたい、の……?」
ノクス「……」
ノクスは顔をそらせず、目だけそらした。
あかりは、振り返ってみっちゃんとカオルを見た。
みっちゃんは目を閉じて、じっと同じ姿勢のままだ。
まだ、時間がかかりそうに見える。
あかり「……あなたが、なにを考えているか……全然、分からない」
ノクス「……」
あかりのつぶやきに、ノクスは無言だった。
あかり「ねえ、教えて。どうしてこんなこと、したの? なにが目的だったの……?」
ノクスは小さくため息をついた。伏し目がちに、目を逸らす。
すこし、照れているようにも見える。
ノクス「……この会話は、ユウに聞かれてないんだよな?」
あかり「……ええ。聞こえてないはずよ」
あかりには確証がなかったが、しっかりとうなづいて見せた。
ノクス「じゃあ、教えてやるよ。
……自慢話で、わりいけどな」




