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神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
014_覇王の卵

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014_3

カオル「エレナ……大丈夫なのか? おまえ……」


 カオルの口調は本当にエレナを気にかけているようで、エレナは吹き出しそうになった。


エレナ「それはこっちのセリフだろう。

 どうしたんだ? ちょっと見ない間に、ずいぶん素行が悪くなったな?

 イメチェン失敗か?」


 エレナはゆっくりとカオルの方に歩み寄った。

 カオルは苦笑いを浮かべる。


カオル「デビュー成功って言ってくれよ」


 エレナはカオルに向けて、拳を構えた。


エレナ「ユウから聞いたぞ。多種の能力を使えるようになったらしいな」


カオル「ああ。最強になったぜ」


 エレナは不適な笑みを浮かべた。


エレナ「それは楽しみだ。ぜひ手合わせ願いたい……


 ユウ! 手を出すんじゃないぞ!」


 エレナは身を潜めているユウに聞こえるよう、大声を出した。


カオル「二人がかりの方が、いいんじゃないか?」


エレナ「お気遣いありがとう。だが不要だ」


 カオルは歪んだ笑みを浮かべた。

 なめやがって。ただ速いだけの異能力に、今の自分が負けるはずがない。

 【加速】。自らの時間を加速。さらに別の異能力を発動させようと、振りかぶり……


カオル「ぐっ!」


 カオルが動き出すその一瞬前。エレナの掌底がそのアゴを打ち抜いた。


カオル「てめえ……!」


 【加速】。同時に、【風じ……


カオル「ごっ……! ぐ……」


 再び、カオルの動きが形になる前。エレナの拳がカオルの脇腹にめり込んだ。


エレナ「……負けてみるものだな……」


 エレナはかぐらとの戦いを思い出していた。

 異能力を使った戦闘……特に、1対1の格闘には絶対の自信を持っていた自分が、かぐらには手も足も出なかった。

 それは動き出しの一瞬をことごとく潰されたからだ。


 武道には、後の先、という言葉がある。

 相手の攻撃を待って、その初動の隙を攻め、逆に先手を取る戦い方だ。


 自分には、そして、自分の異能力にはこの戦法がピッタリと合った。エレナにはそう感じられた。

 ふと、気がつく。レクリエーションの後半で、こはくと一緒に勝ちまくった戦法も、同じだ。


カオル「てめえ……なに笑ってやがる……」


 いらだちを隠そうともせず、カオルは歯をむき出しにした。


エレナ「怒るな。余計に動きを読まれるぞ」


カオル「うる……せえ……」


 【加速】。ならば動き出す前から自分の速度を高め……


カオル「う……が……ごほっごほっ……」


 カオルは咳き込んだ。


エレナ「……加速状態で呼吸をしたのか?

 やめておけ。加速しながらだと、空気の粘度が高過ぎる。加速が有効なのは、呼吸を止めていられる間だけだと心得ておけ」


 思わず講釈を口にして、エレナは苦笑した。

 本当に、教師を目指してみても良いのかも知れない。場違いな考えがよぎった。


カオル「くそ……オレは……強くなったんだ……」


 カオルの動きを読んで、エレナは拳を突き出した。

 【幻影】。拳に触れた途端、カオルの姿はかき消える。その一歩後ろで、本物のカオルは両方の手のひらを広げた。


エレナ「ぐ……」


 かわそうとしたエレナは、すんでのところで踏みとどまった。


カオル「どーん!」


 【拡縮爆発】。エレナの両腕が爆ぜた。血があふれ出す。


エレナ「……こんな手を使うヤツとは、思わなかったな」


 エレナは苦々しく吐き捨てた。両手のダメージは大きい。拳を握ることすら出来ない。


カオル「切羽詰まってりゃな。このくらい、やるぜ」


 カオルの手は、エレナの先、レインに向かっていた。

 エレナが避けていれば、レインが爆破されていたのだ。


 エレナは大きく息を吐いた。


 自分はここまで、か。充分だ。


エレナ「ユウ! 言われた通り、時間を稼いだぞ!


 あとは任せていいんだな?!」


 エレナの張り上げた声に応えるように、ユウはカオルの後方……瓦礫の影から姿を現した。

 心なしか、顔が青白い。


ユウ「はい……! ボクが、カオルを止めます……!」


********


ノクス(ユウ、無理すんじゃねえぞ?)


 カオルとエレナが戦っている間、ユウは瓦礫の影に身を隠していた。

 そして、ずっと血を流していた。


ユウ(そんなこと言ったってさ……

 エレナさんがせっかく時間を稼いでくれてるんだ……


 絶対に……止める……)


 ユウの頬は血の気が引いて、青白い。

 ノクスはつい、自分が代わる、と言いかけそうになって、口をつぐんだ。


 ユウの左手から流れ落ちた血は、幾筋かの流れにわかれ、蛇のように地を這う。


ユウ(ノクスが考えた作戦だから、さ……

 きっと……うまく行く……)


ノクス(……

 ……ああ、そうだな……)


ユウ(ノクス、覚えてる……?)


ノクス(なにがだ)


ユウ(田舎の……川に流されて帰れなくなったときの話)


ノクス(……カエルにビビって、足滑らせたやつか)


ユウ(……あれは、急に飛び出してきたから、仕方ないんだよ……)


 ノクスは小さく笑った。


ユウ(あの夜も……)


 ユウは空を見上げた。満天の星空。


ユウ(こんな星空を……二人で見たね)


ノクス(……)


 ノクスは何かを言いかけて、しかし、口を閉じた。


 エレナの声が響く。


ユウ(時間だね)


ノクス(ああ……死ぬなよ)


 ユウは瓦礫の影から、一歩を踏み出した。


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