014_2
ルイ「らあああぁぁぁ!」
ルイが突き出した拳をカオルは受け止めた。
ルイ「くらえ!」
拳から力一杯発電した電気を流し込む。
カオル「ルイはさ……」
感電してのたうち回るはずのカオルが涼しい顔をしていることに、ルイは驚きを隠せなかった。
カオル「電撃が効かない相手に、どう戦うってヴィジョンはある?」
ルイはもう一度、電気を生み出した。カオルは歯牙にもかけない。もう一度。
カオル「だから、無駄なんだって」
【発電】。ルイと同じ能力。高圧電流を発生させるこの能力は、発動中、自分の生み出した電気によるダメージを受けない。それは、外部からの電撃に対しても有効なようだ。
ルイ「く……っそ!」
ルイはカオルの脇腹を蹴り上げた。カオルはびくともしない。
カオル「能力のポテンシャルに、あぐらをかき過ぎじゃないか?」
カオルは興味をなくした顔をした。
【怪力】。カオルは軽々とルイを投げ飛ばして、地面に叩きつけた。
カオル「強力な能力を持つと、一辺倒になってダメだね」
カオルは肩をすくめて、周囲を見回した。
他のヤツらも捕まえないと……
ルイ「くらいやがれ!」
カオルが目を逸らした瞬間、ルイはカオルの顔目がけて拳を突き出した。
カオル「だからムダ……」
ボンッ!
カオルの目の前で、なにかが爆発した。
カオル「ぐ、あぁぁ!」
カオルは顔の左半分をおさえた。至近距離の爆発で、左目が見えない。
ルイ「ハッ、スマホ爆弾だぜ! 弁償しろ、この野郎!」
タンカを切ったルイの手も血まみれだ。
カオル「てめえ!」
【怪力】。カオルを掴みあげて、地面に叩きつけた。
そして、何度も踏みつける。
ルイ「……あ……が……」
カオルはルイがぐったりとしたのを確認して、頭を残して地面に埋め込んだ。
ゆっくり、息を吐く。
カオル「自己治癒系の能力は……あー! わからん!」
治癒能力を高める異能力は発動しなかった。やはり、体に変化をもたらす異能力は、感覚を掴むまで時間がかかりそうだ。
カオル「まあ、じゃんじゃん行こう」
カオルが振り返った先に、大量の土人形が迫っているのが見えた。さらに、上空に一本の紐のような白い龍。
********
みっちゃん「私の能力は、能力者から異能力を消す、というものなの」
あかり「え……」
あかりは思わず一歩距離を置いた。
みっちゃん「安心して。そんなに簡単に消えるものじゃないわ。
それに……」
みっちゃんは左の袖をめくって、手首を見せた。
そこには、みっちゃんには似合わぬ鎖をあしらったタトゥーが彫られていた。
みっちゃん「学院の許可が無いと、使用してはいけないことになっているの」
あかり「許可って……」
みっちゃん「学院に著しい損害を与えると認められた者にだけ、許可が下りるわ。
異能力を推進する学院の、最後の安全装置ってわけね、私は」
みっちゃんは口を隠して笑った。そんな大仰なものには見えない、ただの上品な中年女性だ。
ソウガ「許可が下りるまで、その先生を守れって、オレは言われている」
あかり「それは……」
ソウガ「ノクスってヤツに、だ」
あかり「……ちょっと待って……」
あかりは頭が混乱してきた。
目を閉じて、頭の中を整理する。
あかり「じゃあ、カオルをそそのかして暴れさせたのも、それを止めるみっちゃんを守るのも……
両方ともノクスがやってる……?」
ソウガは肩をすくめた。
ソウガ「アイツがなに考えてるかなんて、全然わかんねえよ」
あかり「……なにか、狙いがあるはず……」
********
カオル「おりゃあ!」
【風刃】。かまいたちをはらんだ風が土人形をなぎ倒す。
この土人形は、たしかミナトの能力だ。
チェスになぞらえた土人形を生み出す能力……この弱いけど数の多いこいつらは、おそらくポーンだ。
カオル「うおっ!」
【結界領域】。カオルはすんでの所でバリアを張って、水龍の突撃を防いだ。
カオル「ははっ! 良いコンビネーションじゃねえか!」
【危機感知】。カオルは顔を横に向けた。ユウが、ポーンの影から飛び出すところだった。
だんだん、複数の異能力を同時に使うのにも慣れてきた。
【風刃】。風をユウに叩きつけて、足止めする。
ユウ「……カオル! なんで、こんなこと!」
カオル「ユウは変なヤツだな! おまえがお膳立てしてくれたんじゃないか!」
ユウ「なんだよ、それ?!」
カオルはユウの言葉にはこたえず、迫る土人形を見回した。
カオル「……いい加減、うっとうしいな」
土人形は弱くて脆いが、倒しても倒しても減る様子がない。
元を断つのが効率的だが……
【超音波】。カオルが発した超音波は衝撃波となって全方位に広がる。
ミナト「ぐっ……」
【鋭敏感覚・聴】。カオルはミナトのうめき声を聞き逃さなかった。
カオル「そこか!」
【縮地】。一瞬でミナトの背後に回り。
【怪力】。頬に拳を叩き込んだ。
ミナトは気を失い、全ての土人形は崩れ去った。
その瞬間、カオルに向かって水龍が突っ込む。
カオル「またか!」
【結界領域】。カオルはバリアを張って、真っ向から水龍の牙を受け止めた。
カオル「……前、見たときから、思ってたんだよ……
なあ、レイン……これ、『水』の龍……なんだよな?」
【氷結】。水分を凍らせる異能力を口内に叩き込まれ、水龍はビクンッと体を震わせた。
【氷結】。【氷結】。【氷結】。【氷結】。【氷結】。【氷結】。【氷結】。【氷結】。
完全に凍り付いた水龍は地に落ちて、粉々に割れた。
レイン「くっ……」
龍の胴、心臓の部分に全裸のレインが倒れていた。
カオル「トドメ、いるか?!」
レインへの追撃に走り出したカオルの視界が、リュカの幻影で覆い尽くされた。
カオル「悪あがきだろ!」
実態のない幻影をまったく気にせず、そのまま走る。が、それはせり上がった地面に阻まれた。
カオルは土の壁に激突した。
カオル「サキか!」
【地面操作】カオルは地面に手を押しつけて、地面を硬くとどまるようにした。これでしばらくは、サキの操作を受け付けないはずだ。
【超音波】。【鋭敏感覚・聴】。【縮地】。
リュカ「ひ、ひぃぃ!」
サキの元に移動したカオルは、同時に、リュカとこはくを見つけた。
カオル「よう。元気そうだな」
サキ「……おかげ、様、でね……」
最初の校舎の崩落に巻き込まれたのだろう。
サキは肩と額から血を流して瓦礫に身を預けて座っていた。
こはくに至っては、胴と足が瓦礫に押しつぶされ、無傷と言えるのは片手だけだ。体の角度は不自然で、石や木片が肌に食い込んでいる。
リュカが震えながら二人の前に立ち塞がった。
カオルは異能力を使用せず、リュカを殴りつけた。リュカは昏倒した。
こはく「テ……アゲ、モー!」
こはくは唯一自由になる右手だけで、カオルにむけてテーブルの残骸を投げつけた。
【結界領域】。テーブルの残骸は、カオルに届く前にバリアに阻まれてバラバラになった。
カオルはこはくの首を片手で絞めた。空いたもう一方の手で、サキの首にも手をかける。
サキ「……地獄に、落ちやがれ……」
薄れる意識の中、サキは悪態をついた。
カオルは嬉しそうに、その言葉を受け止めた。
カオル「さて……後は……ユウだけ、か?」
振り返ったカオルの視界に、一人の女性の姿が映った。
レインにカーディガンをかけてやっている、パジャマ姿の……
エレナ「私を忘れるなんて、冷たいじゃないか」
エレナがカオルに向けて、顔を上げた。




