013_3
ユウ「ボクは、君が好きだ」
ましろの目をまっすぐに見つめて、ユウは言った。
ましろ「……えっと……」
ましろは目を泳がせた。
ましろ「……ごめん、勘違い、させたね……」
ましろは近くなりすぎた体を離した。
ユウ「違う! そんなんじゃない!」
ユウは距離を詰めた。
ユウ「……ずっと、ずっと……
最初に会ったときから、ずっと!」
ユウはすがりつくような目をしていた。
ユウ「ボクはましろに救われて、ましろのこと考えると心が温かくなって、嬉しくて……
ずっと……」
ましろ「その……」
ましろは目を閉じた。
純粋な子。それが、ましろがユウに感じた第一印象だった。
頼りなくてフワフワしているように見えて、弟みたいで……ほっとけない。
落ち込むところを見ると、支えてあげたいって感じる。
でも、この感情は恋にはなり得ない。そう思えた。
言葉を選ぶ。
ましろ「ユウとは……友達、が……良いかな……」
ましろの、困り切った、でも、ユウを気遣った笑顔が、答えだった。
********
ユウ「ああ……」
ユウは額を木に押し当てた。
どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。
言うつもりなんて、無かったのに。
ましろは無言で去った。
ユウはその後ろ姿を見ることが出来なかった。
日はすっかり落ちて、夜の準備が始まっている。
明日、ましろにどんな顔をして会えば良いのだろう。
ユウはもう一度、木に額を押し当てた。
もう一度。
ざらざらした木の皮がユウの額に跡を残す。
ユウは、今度は力一杯、頭を打ち付けた。
ノクス(おい……やめろ!)
ユウ(……どうして、言ってしまったんだろう……
……ずっと、黙っていれば良かったのに……
ああ……もう……)
ノクス(やめろ、落ち着け……)
ユウ(なにもかも、無かったことになれば良いのに……)
ノクス(ダメだ、そんなこと考えるな!)
ユウ(くそ、くそ、くそ……! 全部、壊れて、なくなってしまえ!)
ノクス(違う、違うぞ、ユウ……そんな風に考えちゃいけない……)
ユウ(ああ、くそ! なんで……なんでボクは……
ボクなんて、いなくなればいい……)
ノクス(明日だ! 明日なんだ!
明日になれば、全部うまく行く! だから、今は考えるな!)
ユウ(ノクス……苦しい……
ましろとのこと、全部なかったことにしたい……)
ノクス(ああ、そうだな……大丈夫だ。時間が解決してくれる……
……おい、なにを考えてる?!)
ユウは握りしめた手の平からにじんだ血をじっと見つめた。
ほんの少し、意識を向けるだけで、血は幾筋かの糸になって渦を描いて回り出した。
ノクス(おい、やめろ!)
ユウは、その手を自らの顔に近づけて……
あかり「……ちょっと!」
その手を押しとどめたのは、あかりだった。
あかり「なに、どうしたの……? 大丈夫……?」
編み物道具を入れたバッグを担ぎ直して、あかりはユウの顔をのぞき込んだ。
あかり「わ。……ほんとに、どうしたの?」
涙でぐしゃぐしゃになったユウの顔に、あかりは驚いた。
ユウは呆然とあかりの顔を見た。また涙があふれる。
ユウ「……ましろに……好きだって……」
あかり「……あ……」
あかりの胸にズキッと痛みが走った。
ユウ「ましろに……好きだって……言って……
でも、ましろは……」
あかり「……うん……」
あかりは、自分の心にそっと芽生えた安堵を恥じた。
そんな心を振り払うように、ユウの髪を両手でぐしゃぐしゃにかき回した。
あかり「あー、もう! 泣かないの!
大丈夫だから! アンタには……」
わたしが、いるから。
言葉の最後は、口にしなかった。
ユウ「ぐ……ボク……ひっ……ボク……」
あかり「……明日には、元気になるのよ」
あかりは髪をかき回すのをやめて、ゆっくりとユウの頭をなでた。
夕闇が二人を包むまで、あかりは手を止めなかった。
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翌朝、あかりは少し、緊張して教室にいた。
その日は、浮き島には珍しく、天候が荒れていた。
強い雨と風が窓を叩き、雲が重く暗く空を覆い隠している。
……まだ、ユウも、ましろも来ていない。
二人が顔を合せて、どんな空気になるだろう。
自分がさりげなく取りなしてあげなきゃ。
そわそわして、何度も入り口を見てしまう。
あかり「……あれ?」
こはくが教室に入ってきた。
一人だ。
いつもなら、朝寝坊するましろを引っ張ってくるのに……
あかり「おはよ。……今日、ましろは?」
話しかけたあかりに、こはくはキョトンとした顔を返した。
こはく「ましろ……? だれのこと?」




