013_2
ましろに肯定されたような気がして、ユウは顔をほころばせた。
ユウ「そうだろ? ホントに、すごいんだ!」
ましろは、少し困った顔で微笑んだ。
ましろ「でも、木がちょっとかわいそうかな……」
ましろの言葉に驚いて、ユウは改めて木を見た。
……たしかに、刻まれた無数のキズが痛々しく見える。
ユウ「……別に、そんなこと……」
急にばつが悪くなって、ユウは目を逸らした。
ましろは地面から突き出した木の根に腰を下ろした。
ユウは少し迷って、ましろのすぐ隣……肩が触れそうなくらい近くに座った。
ましろ「ルイくんと……ケンカした?」
ユウはじっと地面の一点を見た。言葉を選んでから、口を開ける。
ユウ「アイツが、ボクのこと……泥棒みたいに、言うんだ」
思い出すと、また腹の奥が熱くなってくる。
ましろ「それが、ユウくんはイヤなんだね」
ユウ「そりゃそうさ! トーマ……友達が能力をなくした原因みたいに言われてさ!
本当なんだ! 本当に、ボク……」
ユウは大きく息を吸った。
ユウ「ボクは盗ってない……盗ってないんだ……」
涙がこぼれそうになって、膝に顔を埋めた。
ましろはじっとユウの次の言葉を待った。
少しの沈黙が過ぎて、ユウは顔を上げた。
ユウ「この、能力はさ、トーマに……その……
託された……って思うんだ。
そりゃ最初はいろいろあったけどさ……トーマも能力のコツを教えてくれたり、最後も練習しろって……
だから、きっと……託されたんだって……
今なら……トーマもそう思ってくれる……」
ましろ「……本当に?」
ましろはじっと、ユウの瞳を見た。
ましろ「本当に、そう思う……?」
ユウもましろの目を見た。目を逸らすことが出来ない。
ぽろりと、ユウの目から涙がこぼれた。
ユウ「……本当は……」
堰を切ったように、涙があふれ出した。
ユウ「……本当は、そんなはずないって……わかってる……」
ユウは涙を拭った。しかし涙はさらに湧き出す。
ユウ「……トーマはまだ苦しくて、悔しくて……でもボクのために平気な顔しようとして……
……ボク……
……きっと、ボクが悪いんだ……
トーマの異能力……は、きっと……ボクのせいで……」
拭っても拭っても、涙が溢れた。
ユウ「……どうしてこうなったか、全然わかんないけど……
多分、ボクのせいなんだ……
……ボクのせいで、トーマが、トーマが……
ボク、どうしていいか……わからなくて……」
ぱちん、と音がするほどの勢いで、ましろはユウの顔を両手で挟んだ。
ましろ「許すよ!」
突然のましろの大声に、ユウの涙は一瞬、止まった。
ましろ「わたしが、許すから!」
浮き島の隅まで響くくらいの声で、ましろは、もう一度叫んだ。
夕焼けは二人を赤く染め、長く伸びる影を一つにした。
ましろ「本当は、なにが起きたのか、分からないし……
わたしに言われても、困るかも知れないけど……
ユウに、悪意がないって……わざとじゃないって……
それは信じられるから。
大丈夫!
わたしが、ユウのこと許したから……ね?
大丈夫……」
ユウの涙は留めなく溢れた。
しかしその涙は、さっきまでの涙と少し、違うような気がした。
ましろ「……大丈夫……大丈夫……」
泣きじゃくるユウに、ましろは何度も言い聞かせた。
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ユウ「……ごめん……」
ひとしきり泣いてから、ユウは顔をそらした。
ましろ「それも、許します」
ましろは優しい笑みを浮かべた。
ましろ「だから……もう、自分の心にウソついちゃ、ダメだよ……?」
ましろの言葉が、ユウの中にすっと溶け込んだ。
だから、かも知れない。
ユウは思わず、なんの準備もしていない心を言葉にした。
言葉にして、しまった。
ユウ「……ましろ……」
ましろ「ん?」
ユウ「ボクは……君が、好きだ」




