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神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
013_その恋の、結末

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013_1

ルイ「ほらよ!」


 ルイは小さな電撃をまとった掌底を突き出した。


ユウ「なんの!」


 ユウは左手から伸びた数本の血液の糸でルイの腕を絡め取り、方向を逸らした。


ルイ「はあぁ!」


 ルイの気合いの声とともに、腕にまとう電撃が活性化する。ユウの血液の糸を伝って、感電させる狙いだ。

 ユウはその一瞬前に糸を切り離し、拳を打ち出す。


ルイ「っと……」


 ルイは距離を取ろうと、後ろに飛んだ。


ユウ「甘い!」


 ユウはその着地する足に向けて、血液のムチを伸ばした。


ルイ「いってえぇ!」


 着地の足を払われ、ルイは尻もちをついた。


 痛みをこらえて顔を上げたルイの視界は、ユウの手によってふさがれた。

 手の平には一文字の切り傷があり、いつでも血液による攻撃が可能だ。


ルイ「……まいった」


 ルイは不本意そうな顔で、自らの敗けを宣言した。

 ユウは心底嬉しそうに笑った。


ルイ「ちょっとユウ、マジで強くなったな……」


 ルイは感心したように、息をもらした。

 異能力訓練の時間。二人は寸止めの簡易的な組手を行っていたのだ。


ユウ「まだ、飛ばしたり固めたりはうまく行かないけど、手から伸ばすのは慣れたよ」


 手からロープのような血を垂らして、ユウは得意気に鼻をならした。


ユウ(なんで飛ばしたり出来ないのかな? トーマは出来てたのに……)


ノクス(……)


 ノクスは口をつぐんだ。

 実はノクスにはおぼろげに原因が分かっている。


 この異能力、クリムゾン・コードは自らの血液を操る能力だ。

 だから『どこまでを自らの血液と認識出来るか』が、カギになる。

 ユウは自分の体につながっている状態でしか、自分の血と認識出来ず、トーマとっては体外に飛ばした血も自分の血だったのだ。

 そういえばトーマも、固まってしまった血は操れないと言っていた。トーマの認識の境がそこにあったのだろう。

 その点、ノクスは。


 ノクスにとって、ユウの体は借り物だ。

 そもそもが実感を持って血を認識していない。だからこそ、体外に出ようが固まろうが、ほんの一滴であっても、それはユウの血だと思うことが出来た。


 つまり、ノクスがユウの体を使っている時、ノクスはユウの血に由来する全ての物質を操ることが出来るのだ。

 それこそ、今ユウが捨てて地面のシミになった血液のムチだったものですら。


ルイ「おい、ユウ。もう一試合、やろうぜ」


 明るく、ルイが再試合を申し込んだ。ユウの能力の開花を喜んでいた、はずだ。この時は。

 しかしユウは首を振った。


ユウ「いや、いいよ。

 ……何回やっても同じだし」


 なんの気もなしにつぶやいたユウの言葉は、ルイの神経を逆なでした。


ルイ「……ユウ、お前……ちょっと使える能力手に入れたからって、調子のってねえか?


 本気でやりゃあ、一瞬でお前は黒コゲなんだぞ?」


 ユウは小さく鼻で笑った。


ユウ「この能力が負けるとは思えないけど……」


ルイ「てめえ!」


 ルイはユウの胸ぐらを掴んだ。


ルイ「トーマの能力パクっといて、スカしてんじゃねえぞ……?」


あかり「ちょっと! なにやってんの?!」


 不穏な空気を感じて、あかりが咎めるように叫んだ。ソウガが音もなくユウの一歩後ろに立った。

 ルイは構わず、ユウをにらみつける。


ユウ「……盗ってない……」


 ユウも、その目をにらみ返した。


ユウ「ボクは……盗ってない……」


 胸の内の激情を表すように、ユウの左手から幾本かの細い血の糸が垂れて、激しく回転した。


あかり「やめなさい! ちょっと離れて! おしまい!」


 あかりが二人の間に体を差し込むようにして、二人を引き離した。


********


 異能力訓練の時間が終わり、夕暮れが空を染めようとしても、ユウの怒りは収まっていなかった。


ユウ「やあぁぁぁ!」


 雄叫びとともに、ユウは手から伸びた無数の糸を木に叩きつけた。

 糸は高速で回って、木の肌をズタズタに切り裂いた。


ユウ「はあ、はあ、はあ……」


 荒い息をしながら、ユウはその威力に満足げな笑みを浮かべた。


 不意に、後ろから声をかけられたような気がして、ユウは振り返った。


ユウ「……ましろ」


 夕日に照らされたましろが、風になびく髪を抑えて、ユウを見つめていた。


ましろ「……その能力、すごいね」


 もう一度、ましろは言った。


 これは、二人が交わした、最後の会話。

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