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神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
012_歪む世界

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012_7

トーマ「……あのさ、ユウ……」


ユウ「……うん……」


 ユウは恐る恐る相づちを打った。

 トーマは……あれだけ異能力に傾倒していたトーマは、自分に向けて何を言うんだろう。


トーマ「使った血液、さ、体の中に戻してたろ?」


ユウ「え……」


 何を聞かれたのか、すぐには分からなかった。


トーマ「体の外に出した血」


ユウ「あ……うん……」


トーマ「あれさ、危ないからやめた方が良い」


 トーマは少しだけ、笑った。


トーマ「体外に出た瞬間、細菌とかウィルスとか入っちゃうからさ。

 基本的には使い捨てにした方が安全だよ。


 戻すのは、よっぽどのときだけ」


ユウ「……そうなんだ」


トーマ「あと鉄分。レバーとか、ほうれん草。あとカツオとか。

 気持ち多く摂るだけで、変わってくるからさ、ちょっと気をつけた方が良い」


ユウ「……うん……」


トーマ「あとは……そうだな……

 教えてあげたいこと、まだ、たくさんあるはずなんだけど、さ……」


 トーマの目から、涙がこぼれた。


トーマ「整理出来なくて、なに言っていいか、分かんないや……」


 トーマは大きく息をついた。


トーマ「毎日、毎日、いろんなこと試してさ、いろんな発見があって……

 飽きもせず、一人で……」


ユウ「……ごめん……」


 ユウの目にも涙が浮かんでいた。


トーマ「謝ること、ないんだ。きっと……」


 トーマは無理に声を張り上げた。


トーマ「本当、不思議だなあ! 異能力って……ほんと……無限の可能性がある……


 ユウ、聞いてくれよ……!

 僕、絶対にこの……今、起きてるこの現象、解明するよ。

 研究して、それで、いつか……」


 涙が溢れて、声を詰まらせた。


トーマ「いつか、これが起こって……


 良かった……って……


 ……言ってや……やるんだ……」


 トーマは手で顔を隠した。

 溢れる涙は止めようがなかった。


********


 ユウが保健室から出ると、ソウガが待っていた。


ソウガ「……大丈夫か?」


ユウ「問題ない」


 ソウガには分かった。今、表に出ているのは、ユウではなくノクスだ。

 トーマとの話を終えて、ユウは疲れて眠ってしまい……代わりにノクスが主導権を握っているのだ。


 なんとなくだが、ソウガにはノクスかユウか見分けがつくようになってきていた。

 ただどちらでも恩人には違いない。ソウガはそう考えていた。


 ノクスはタブレットPCを取り出し、なにごとか打ち込みながら、教室に向かって歩き出した。ソウガは、その後ろについて歩く。

 ノクスは最近、ひっきりなしにタブレットPCをいじっている。なにをしているのか、ソウガは知らない。立ち入らないようにしている。

 自分は、ただ弟を救ってくれた恩を返すだけだ。


 廊下の角にさしかかった時だった。


ソウガ「危ない!」


 ソウガはノクスを突き飛ばした。

 曲がり角の影から何者かが飛び出したのだ。

 ソウガは夢中でその何者かを押し倒した。軽い。さほどの抵抗もなくソウガは襲撃者を取り押さえた。


アリス「う……うぐっ……」


 襲撃者は、アリスだった。

 手にあの赤黒い短刀を握っている。短刀の刃は半分ほど欠けているが、刺突の役には立ちそうだ。


アリス「よくも……よくも、トーマくんを……!

 許さない……絶対、絶対許さない……!」


 フーフーと荒い息を漏らしながら、アリスが言葉を投げつける。

 あの、内気で気弱な女とは思えない。


アリス「アンタ、トーマくん無事に……元気になるって、言ったじゃない?!」


 ノクスはゆっくりと立ち上がって、落ちたタブレットPCを拾う。簡単にタブレットPCの無事を確認してから、アリスに近付いた。


ノクス「なにが不満なんだ?……ちゃんと、ケガは快方に向かっているじゃねえか?」


 しゃがみ込んで、地面に組み伏せられたアリスの顔をのぞき込んだ。


アリス「……あんなの、無事なんて言えない……!

 トーマくんにとって、異能力は夢で、目標で……

 ……トーマくんが……トーマくんじゃ……なくなっちゃう……」


ノクス「ハッ……」


 ノクスは必死のアリスをあざ笑った。

 見下すような視線に、アリスは激昂した。


アリス「あああぁぁぁ! 消してやる! お前の記憶、全部消して! 真っ白に……!」


 アリスが異能力を発動しようとした、その一瞬前。ノクスはアリスの後頭部の髪を掴み、アリスの顔を床に叩きつけた。


アリス「あ……! ぐっ……!」


 顔を強打してアリスの鼻から血が、口から唾液と血が混じったものが落ちた。


アリス「……アンタの言うとおりに、したのに……したのに……」


 アリスの瞳から涙があふれ、怒りが悔しさと恐怖に変わっていった。


ノクス「トーマは、明日……浮き島を去る。

 地上の連中と話はつけた。異能力が無くなったと認められたら……もう二度とここに戻ってくることは無いだろう」


 アリスはビクッと体を震わせた。


 もう、二度と……トーマくんに……会えない?


 すすり泣きを始めたアリスに、ノクスはささやいた。


ノクス「……もう一度、取引しよう……

 オレの頼みを聞いてくれたら、お前がトーマと一緒にいられるようにしてやる……」


 アリスは泣きながら、小さく首を振った。


ノクス「今回のことはな、オレにとっても予定外だったんだ。異能力がなくなるなんて、思いも寄らなかった……悪かったと思ってる……」


 優しく、小さな子をあやすような言葉で語りかける。


ノクス「だから、今度は、簡単だ……簡単な頼まれごとをやってくれるだけで良い……


 これさえしてくれたら、トーマが入院する病院を教えよう。それから、学院にあるお前のデータを全て消すことを約束する。

 あとは、お前が手当たり次第に記憶を消して、自由にすれば良い……」


 少しだけ考えて、アリスは口を開いた。


アリス「……な……なにをすれば……?」


 ノクスは笑みを浮かべて、懐からガラスの小瓶を取り出した。


ノクス「本当に、簡単なことだ……」


 ソウガはノクスの笑みを見て、全身からゾッと血の気が引くのを感じた。

 いくら恩があるといっても、このままノクスの従っていて良いのか……そんな思いが心をよぎった。


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