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神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
012_歪む世界

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012_6

 朝の教室に、人だかりが出来ている。

 その中心で注目を浴びているのは、ユウだった。


ルイ「いやあ……こんなこと、あるんだな……」


 ルイは驚きを隠せなかった。

 あかりも同感だ。


ユウ「じゃあ、見てて!」


 ユウは左手を広げた。

 手のひらの真ん中に横一文字に切り傷がある。

 その切り傷から、3本の赤い糸が伸びた。糸はくねくねと絡まり、一本の紐のようになった。


 紐は丸、星、ハートと、いくつかの形を作った。


ルイ「あれさ、トーマと同じ……血液操作……だよな?」


 あかりはうなづいた。

 一人でふたつの異能力を持つなど、聞いたこともない。


ユウ「あわわわ……」


 血液で出来た紐は、制御を失ってグルグルと渦巻きのように回り出した。

 ユウは慌てて左手の傷の中に紐を引っ込めた。


ユウ「なんか、集中切れると、ぐるぐるしだすんだよね」


 ユウは照れた笑いを浮かべた。


こはく「すげくね? ユウ、無能力者卒業じゃん」


 こはくがユウの肩を小突いた。


ノクス(あ? ちゃんと能力あったって、反論しろよ)


ユウ(まあまあ。他の人にも見せられる能力って、やっぱ違うしさ)


ノクス(ふん、浮かれやがって)


ましろ「すごいね。うれしいね。

 ……トーマくんと、一緒だね」


 ましろに話しかけられて、ユウはどぎまぎして視線を泳がせた。


ユウ「え……えと……別にトーマと一緒で嬉しいっていうか、その……


 いや、やっぱ……

 トーマと一緒で、すごく嬉しい。ボクを助けてくれたちからだし。


 ……トーマにさ、いろいろ教えてもらおうと思うんだ。

 切り離して動かしたり、硬くしたりとか、どうやってやるんだろう?」


 ユウは机の上に置いた、赤黒い短刀を見た。

 もう一度、左手から糸を出す。


ユウ「硬くなれ~硬くなれ~」


 念じてみるが、血の糸はふよふよと漂う。硬質化の予兆すら見えない。


ルイ「わかるなー、あれ。

 最初なにが出来るか分かんないから、いろいろ試すんだよな」


 ルイが微笑ましい顔をしてうなづいた。


 がらり、と教室のドアが開いた。


ユウ「トーマ!」


 ユウが目を輝かせた。


ルイ「見ろよ、トーマ! ユウのやつも血を操れるようになったんだぜ?」


 トーマはルイを見た。

 そして、クラスメイトの顔を順に見て、最後にユウとその左手の血の糸を睨んだ。


トーマ「なんで……」


 トーマの形相に、クラスの誰もが口を閉じた。

 さっきまでの賑やかさがウソだったかのように、静まりかえった。


トーマ「なんで、キミが……」


 トーマがユウに近づく。

 机を押しのけイスを倒しながら、まっすぐユウに向かって歩く。


トーマ「なんで……」


 ユウの襟元を両手で掴んだ。


トーマ「なんでお前が、僕のクリムゾン・コードを使ってるんだ?!」


 トーマの両手首に巻かれた包帯がほどけた。その下には、たくさんの切り傷があった。

 そして、そのどれからも、血が流れ出ていた。

 まったく操作されていない、ただの血が。


トーマ「……盗ったな? 僕のクリムゾン・コード……盗ったんだな?!」


 トーマは声を荒らげた。


トーマ「返せ! 返せよ?! 僕の……僕の異能力だぞ?!」


ユウ「ち、ちが……」


 トーマに襟元をわしづかみにされて、ユウは息を詰まらせた。

 あまりのトーマの剣幕に、クラスメイトは誰も言葉を発することが出来なかった。


ユウ「これは……ボクの、能力……」


 ユウの言葉に、トーマは激昂した。とっさに近くにある物を掴んでユウの頭に叩きつける。

 それは、トーマがユウにあげた、赤黒い短刀。


 だれかの悲鳴が響いた。

 ユウは反射的に手で頭をかばう。


 ユウの左手から、幾本かの血の糸が飛び出し、高速で回った。

 糸はトーマの腕をズタズタに引き裂いた。


トーマ「うあああぁぁぁ!」


 トーマは短刀を落とした。床に落ちた短刀は、真っ二つに折れていた。


トーマ「……なん、で……」


 トーマはその場で崩れ落ちた。

 引きずり倒されるように、ユウも腰を落とした。


トーマ「なんでなんだよぉ……


 くそ……くそぉぉぉ! がああああああぁぁぁぁ!」


 トーマの口から、嘆きと恨みの叫びが吐き出された。


********


ユウ「本当に、違うんだ……

 ボク、本当にそんな気はなくて……」


 保健室の丸椅子に座って、ユウはうなだれた。


 あのまま、気を失ったトーマを保健室に運んだ。

 トーマが目を覚ますまで保健室で待つと、ユウは宣言した。

 今のユウとトーマを二人にしておくことは出来ず、あかり、ルイ、ミナト、ソウガの4人はそのまま保健室に留まった。


あかり「……たしかに、異能力なんて解明されてない現象だけど……」


 ユウが異能力を得た途端にトーマの異能力が消えた。この状況は、無関係だと思えない。


ユウ「……どうしたら……なあ、ルイ? ボク、どうしたら……?」


 ユウがすがりつくように、ルイに問いかけた。


ルイ「うわ……やめろよ、ちょっと……」


 ルイはユウの手を払った。


ユウ「え……?」


ルイ「あ……


 だってよ、お前、無意識に人の能力、盗るかも知れないんだろ?」


 ルイはユウから距離を取った。


ルイ「わりいけどよ、ちょっと、怖いわ……お前……」


ユウ「……ごめん……」


 なにに謝っているのか、ユウにも分からない。

 ユウの目から、涙がこぼれた。

 たしかに、トーマのような異能力が欲しいと願った。でも、こんな形じゃない。

 こんなことになるなら、異能力など要らなかった。


ユウ「……う……ひっぐ……」


 ユウのすすり泣きの声だけが響いた。


トーマ「……ユウと、二人で話させて欲しい」


 いつの間に目覚めたのか。トーマがベッドに寝たまま、声を出した。

 ソウガがユウをかばうように、トーマとユウの間に立った。


ユウ「……大丈夫……ぐっ……

 大丈夫、だから……」


 涙を拭きながら、ユウはソウガの腕を押して、退室を促した。


 ユウを残して、他の4人は保健室を出た。


 廊下に出て、あかりは不安そうに振り返った。

 ……あの二人は、なにを話すのだろう。


あかり「ソウガ……なにか聞こえたら、すぐ駆けつけれるようにして」


ソウガ「当たり前だ」


 ソウガはくちびるを結んで、うなづいた。


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