012_3
ユウ「いや、おばあさんに謝られても……ねえ?」
ユウは頭を下げた老婆に、のんきな声を返した。
ノクス(バッ……)
あかり「バッ……」
ノクス&あかり「(バカー!)」
あかりはユウの襟首を掴んで引き寄せ、耳に口を寄せた。
あかり「この方、だれか分かってんの?! 理事長よ、り、じ、ちょ、う!
この学院の責任者が頭下げてるの! 失礼なこと言わない!」
ノクス(おめえ、コイツが全部の元凶だからな! コイツが予知とか将来の犯罪とか言い出して、オレたちここに隔離されてんだからな! 覚えとけよ!)
ユウ「う、うん……」
二人の剣幕に押され、ユウはとりあえずうなづいた。
理事長は、口を隠して上品に笑うと、もう一度頭を下げた。
理事長「心ばかりのお詫びとして、学院で一番の治癒能力者を連れてまいりました。
せめて医療のバックアップは最善を尽くさせてもらいます」
長身の男がヘリから降りて、無愛想な表情で頭を下げた。白衣を着ている。医者のようだ。
おそらくこの人がこの学院で一番の治癒能力者なのだろう、とあかりは思った。
そして、もう一人。
車椅子に乗ったまま、ヘリから降ろされた少年がいた。
ソウガ「……なんで……」
ソウガは目を見開いて、立ち尽くした。
中学生だろうか。線の細い美少年だ。青白い顔に、少しだけ、だれかの面影がよぎる。
少年「……兄ちゃん……」
ソウガは振り返って、ユウの顔を見た。
ユウは照れた笑いを浮かべる。
ユウ「……秘密の、ゲスト……」
ぼそっとつぶやいたユウの言葉をきっかけに、ソウガは車椅子の少年に駆け寄った。
ソウガ「イツキ……」
ソウガに名を呼ばれて、少年は小さく笑った。
そして、ソウガは迷うことなく。
弟の口に自分のくちびるを重ねた。
こはく「んな……?! ちょ、弟? 男、同士……?」
面食らったこはくの隣で、ましろが早口でつぶやく。
ましろ「えっえっちょっと待って、今の今の今の完全にそういう?わちょっと待って心の準備出来てないからやばいやばいやばい……」
ユウ「ま、ましろさん……?」
食い入るようにソウガと弟を凝視するましろに、ただならぬものを感じて、ユウは名前を呼んだ。
ましろ「(*◎ω◎)=3」
しかし、ましろはそれどころではない。
ノクス(ユウ、気づいてるか……?)
ユウ(……ましろが、意外に腐属性ってこと……?)
ノクス(バカ、よく見ろ)
あかり「あの子……顔色、良くなってる……?」
あかりの言葉通りだった。
青白い顔だった少年の頬に血色が戻り、生き生きした印象に変わる。
医者「なるほど、興味深い」
言葉とは裏腹に、感情のない声で医者が言った。
医者「無気肺か拘束性肺疾患……肺が膨らまない病に、治療行為として空気を送っているのか?
ただの吐息ではない……?」
ユウ「あ……」
ユウはソウガの異能力を思い出した。
呼気操作。
ソウガはゆっくりと時間をかけて、優しく、弟のしぼんだ肺を広げた。
慈しむように、頬にそっと手をそえる。
ましろ「うわ、尊!尊すぎて心臓止まる聞いてないわこれ尊い尊い尊い……
ありがたやありがたやありがたや……」
少年「んっ……
兄ちゃん、ありがとう。楽になった」
少年は、上気した頬で笑顔を見せた。
ソウガは口を離して、しっかりと少年の頭を胸に抱いた。
医者「ただし、異能力による医療行為は免許制……
これはれっきとした違法行為になるんだろうが……」
医者が顔を向けると、理事長はひとつ、ため息をついた。
理事長「この浮き島に定期的に弟さんをお連れしましょう。
弟さんには、お兄さんとのご家族の時間が必要なようですので。
……お二人がなにをして過ごすか、学院が関知するところではありません」
ソウガは小さく頭を下げた。
噛みしめるように目を閉じて、ゆっくりと弟の頭をなでた。
そうした後、ユウに体ごと向き直って深々と頭を下げた。
ソウガ「ユウ。お前は恩人だ。
オレはこの恩に報いるため、全力でお前を守ると誓う」
ユウ「あ、いや……」
ボクは、ノクスの言った通りにメールを打っただけで……
口の中でもごもごと弁明めいたことをつぶやく。
ましろ「……やるじゃん」
こぶしで、ちょんとユウの肩をつついたのは、いつものましろだった。
ユウ「うん……」
ましろの新たな一面を見てしまったような気がして、ユウは目を逸らした。
ユウ(ましろ、あんな風になること、あるんだ……)
ユウは衝撃を感じていた。
ユウ(かわいい、な……)
ましろに、衝撃的なまでの愛おしさを感じていた。
ノクス(……おめえも、たいがいだな……)
ノクスは呆れた声でつぶやいた。
(おまけ)
ましろ「ソウガ×ユウ……なるほど……」
こはく(双子の姉が……どこか、遠くに行ってしまった気がする……!)




