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ノクスは上機嫌だった。
なにしろ、この浮き島責任者代行、学院とのパイプ役の地位を手に入れたのだ。
ここからはもっと自由に、もっと大っぴらに動きが取れる。
ノクス「ソウガ、お前の望みを叶えるのも時間の問題だぜ」
タブレットPCに何事かを打ち込みながら、ノクスはルームメイトに語りかけた。
ソウガ「……そう願いたいね」
就寝を邪魔されたソウガは、やや機嫌が悪い。
しかし、ノクスが唯一の望みであることも確かだ。しぶしぶながら会話を続けた。
ソウガ「……で、これからは何をすれば良いんだ?
お前の護衛は続けるんだよな?」
ユウの護衛として、危険が迫ったときに守る。これは、ノクスとソウガが最初に取り決めた約束のひとつだ。
ソウガ「あの意味分かんねえ文字を書くのも、続けるのか?」
ソウガはサイドテーブルに置かれた赤いペンを見た。
授業中、誰にも見つからないように、廊下の天井や壁に一文字ずつ文字を書く……それも、ソウガがノクスに依頼された『仕事』だった。
ノクス「あれはもういい。
……いや、今度は時間を見て消してくれ。アルコールか除光液か……なんならヤスリで削っても良い」
ソウガ「……あれ、意味あったのか?」
ノクス「追い込む一要因にはなったさ。
まあ、これからはあんな小細工は要らない」
ニヤニヤ笑いながら、ノクスは言った。
ノクス「それにしても、バカ正直な報告だ!」
ノクスは、タブレットの画面に表示されたエレナの報告書を見て、あざ笑った。
ノクス「ちゃんと事実を正しく、細かく書いてやがる!」
理想の報告書なんじゃないか、とソウガは思ったが口には出さなかった。
ノクス「せっかく犯人が死んでるんだ、不都合なこと全部、かぐらに被ってもらおう!
あと、なんだ? 理事長派?に容易に手が出せないよう、証言もねつ造しておこう!」
エレナの報告書を次々と書き換えながら、ノクスは言った。
ソウガは改めて、ノクスの不誠実で人を小馬鹿にしたような態度に嫌悪を抱いた。
ノクス「……ソウガ」
突然、静かに名を呼ばれて、ソウガはぎょっとした。心の内を読まれたのかと思った。
ノクス「これからも頼むぞ。……もうすぐ、だからな」
薄闇の中、タブレットの液晶の光に照らされたノクスの顔を見て、ソウガは本当にこれで良かったのか、頼る人間を誤ったのではないかと、自問した。
だが、もう引き返せない。
****読者様へ****
ここまで、ユウ達の物語にお付き合いいただき、ありがとうございます。
8/9から毎日1回以上の更新を継続出来ておりましたが、ついにストックが尽きてしまいました。
ここからは2日に1回くらいのペースで進めて行けたらと考えております。
とりあえず次の更新は9/3(水)を目指します。
これからも、彼らの物語を見守っていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。




