002_1
トーマ「なあ、ユウくん……だったよね?」
ユウ「ふご?」
昼休み、配られたにぎり飯をほおばりながら、ユウは答えた。
トーマ「ちょっと、あっちで話せないか?」
トーマが教室の外を差した。
ノクス(おい、コイツ怪しいぞ。
話ならここでしろって答えとけ)
ユウ「……えーと……」
トーマ「キミと、友達になりたいんだ」
ノクス(……あ……)
ユウ「……!」
それは、ユウが断ることの出来ない言葉だった。
ユウはうなづいて、立ち上がった。
口の中のにぎり飯を飲み下しながら、トーマの後ろをついていく。
ノクス(……どうなっても知らねーぞ……)
ユウが連れてこられたのは、隣の教室だった。
だれもいない、机とイスだけが並んだ、がらんとした教室で、二人は向かい合った。
ユウ「トーマ、くん……?
話って……?」
トーマ「トーマで良いよ。ユウくん」
ユウ「ぼっ、ボクも……ユウ、で……」
ユウ(……ノクス、聞いたか?)
ノクス(ハイハイ、友達になるときの定番の会話ね……わかった、わかった……)
憧れていたやり取りが実現して、ユウは感無量だった。
トーマ「じゃあさ、ユウ。
ひとつ、教えて欲しいんだ」
ユウ「う、うん……」
トーマ「キミのホントの能力……
幻聴なんかじゃないだろ?」
ユウ「へ……?」
予想外の言葉に、ユウは間の抜けた声を出した。
ノクス(幻聴なんかって……失礼なやつだ)
トーマ「幻聴なんて能力、能力として成立していないよ。遠くの声を聞くとか、未来の予知を声の形で聞くとかなら、ともかくさ。他には……いや、とにかく、ただ幻聴を聞くって能力は不自然だよ。エレナさんも、キミの能力には特別に注目してたみたいだし。第一、幻聴でアカシアに受かるわけないよな?」
身を乗り出して、まくし立てるトーマ。
ユウ「いや……」
トーマ「なあ?ホントはどんな能力なんだ?隠す必要がある?破格に強い?反則みたいな能力なんじゃないか?なあなあなあ、教えてくれよ?」
ユウに迫るトーマに、ノクスは呆れた声を出した。
ノクス(コイツ……なんかのスイッチが入っちゃってんぞ……)
ユウ(異能力好きが暴走してるみたいだね……)
ノクス(もう、放置して教室戻ろうぜ?)
ユウ(なに言ってんだよ?友達になるチャンスだろ?)
ノクス(うえ……)
ユウ「いやホントにないから!本当に幻聴だけ!」
ユウは笑みを浮かべて言った。最初の話題はこんな感じでも、トーマとは良い友達になれそうな予感がした。
トーマ「……なにか事情があって、隠してるのかな?
……仕方、ないか」
肩を落としたトーマを見て、ユウは息をついた。
ノクス(後ろに!下がれ!)
突然のノクスの大声に、ユウは反射的に一歩身を引いた。
その目の前を、赤い小さな丸いなにかが、猛スピードで通過する。
……身を引いていなければ、ユウのこめかみがあった場所だ。
トーマ「身を守るためならさ、見せてくれるかな?」
トーマは手首の内側に貼った絆創膏をはがして、その下のキズを見せるようにユウに向けていた。
そのキズから、指先くらいの小さな丸い玉が生み出されていく。
ユウ「……血液操作……?」
トーマ「クリムゾン・コード、だよ」
ユウの周りを取り囲むように、10個あまりの赤い玉が漂っている。
ノクス(イカれてやがる……
犯罪者予備軍ってのは、伊達じゃないな……)
ユウ(……なんて言えば、分かってくれるかな……?)
ノクス(無理だな。とにかく……)
ユウの周りの赤い玉が、全て空中で静止した。
ノクス(逃げろ!)
赤い玉が一斉にユウに向かって襲いかかった。