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神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
010_刃は教室にある

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010_4

 重苦しい空気が教室に流れている。

 ユウとエレナ、二人とももうずいぶんと長い時間、口を開いていなかった。

 教室に残っているのは、たった二人だ。


 エレナはユウの言葉に従い、全員に自室に戻るよう、指示をした。

 簡単にそうと決めたわけではない。

 この中に殺人犯が潜んでいるのだ。自由にして良いはずがない。それに、あの憂鬱なアリバイの確認も行わなければ……

 そんなエレナの思考を塗り替えたのは、ユウがエレナの耳にささやいた一言だった。


ユウ「ボクが、囮になります」


 ユウの言葉を聞いて、一気にエレナの心の暗雲が晴れたような気がした。

 簡単な話だ。

 ユウを狙う犯人を返り討ちにすれば良い。

 生徒達を一人一人疑うような尋問も、全員の証言を並べて嘘をあぶり出す作業も要らない。

 簡単な話。


 エレナにとって、誰かを疑うことは耐えがたい苦痛を伴うものだった。ましてや自分が今まで導こうと奮闘していた生徒が相手だ。

 私こそ信じてやるべきではないか。そんな考えに目を背けるのは、自分の信念を曲げることのように感じた。

 だから、ユウの言葉にのった。それは、ひょっとすると、逃避だったのかも知れない。


 コッコッ。


 ノックの音がやけに大きく響いた。

 ユウとエレナ、二人はドアに注視して身構えた。


 音を立ててドアが開く。


かぐら「いやあ~、ユウくんはホント大胆ッスね~。

 やっぱこのクラス、退屈しないッス」


 緊張感のない声で教室に入ってきたのは、夜刀かぐらだった。


ユウ「……なんだよ……なに言ってるか、分かんないよ……」


 ユウの言葉に、かぐらはきょとんとした顔をした。


かぐら「あれ? エレナ先輩を孤立させて、二人で排除しようって話じゃないんッスか?

 ……まあ、いいッス」


 かぐらが一歩を踏み出して、教室の中に入った。


ノクス(距離があっても、油断するなよ。訓練の時の間合いは忘れろ)


ユウ(……なんだよ、それ……

 お前、本当に、なにを知っているんだ……?)


ノクス(……)


かぐら「誤解しないで欲しいッスけど、絶対殺そうって話じゃないッスよ。

 うちはただのスカウトなんで。もちろんエレナ先輩に来てもらっても構わないんで」


 いつもの調子で話しながら、かぐらは無造作にもう一歩、近付いた。


エレナ「……お前は何の話をしている?」


かぐら「うち、ホントは夜刀かぐらじゃないんッスよ。

 とある組織のエージェントで、アカシア学院でやべえヤツら集めてるって聞いて潜入したッス。

 いやー、若者にまじるのキツかったッス。


 ……ここまで話す意味、わかるッスか?」


 さらに一歩。


エレナ「かそ……」


 異能力を発動させようとしたエレナの目の前に、一瞬早く、かぐらは釘を一本投げた。

 エレナは異能力の発動を止める。

 加速状態でつっこんだら体を貫通しかねない。


かぐら「エレナ先輩はわかりやす過ぎッスよ。

 強い能力だけど、発動の際を叩かれると弱いッスね」


エレナ「くっ……」


かぐら「組織に来たら、もっと能力活かせるッスよ! 悪いこと言わないッス。

 どうせ、学院はみんな飼い殺しにするんスよね? もったいないッスよ!


 組織に来て、みんな才能を活かして欲しいッス」


 かぐらはにこやかな笑みを浮かべた。


エレナ「……それで、鈴木教官を殺すような仕事をさせるのか?」


 かぐらの笑みが、卑しく醜く歪んだ。


かぐら「大丈夫ッス……人殺しくらい、すぐになんとも思わなくなるッスから……」


エレナ「そんなこと、許すわけ……!」


 加速状態に入ろうとしたエレナは、両手両足から血を噴き出して倒れた。


エレナ「ああああああぁぁぁぁ!」


かぐら「言ったッスよ。発動の際ッス」


 手を突き出したポーズのまま、かぐらは言った。


エレナ「そんな、剣の間合いでは……」


 かぐらの能力、なんでも斬れる剣の間合いは、せいぜい1m。今のエレナに届くはずがない。

 それに、木刀や小枝など棒状のものを振るう必要があるはず……


かぐら「それは、かぐらちゃんの能力ッスからね。

 うちの能力は飛刃。斬撃を飛ばす、っていうシンプルな能力ッス」


 かぐら、いや、かぐらの名を騙るその女は、笑って頭をかいた。


かぐら「いやあ、うまく誤魔化すつもりだったんスけどね。

 すぐ、剣の間合いより遠いとこが斬れるってバレて、超アセったッス。


 ……お人好しの先輩が、能力の解釈が~とか言って、相談のってくれたんスよ」


エレナ「……くっ……」


ユウ「うあああああああ!」


 ユウがイスを振り上げて、かぐらに突進した。


ノクス(ユウ、よせ!)


 かぐらに振り下ろす前に、飛刃でイスが4つに分割される。


かぐら「ユウ!」


 かぐらは嬉しそうにユウの名を呼んだ。首を掴み、地面に組み伏せる。


かぐら「気をつけるッスよ。キミ、組織としては不要な能力ッスからね! いつでも殺せる人材ッス。


 鈴木先生の話、教えてくれたり、恩はあるんッスけど」


ユウ「あ?! 何のことだ?!」


 かぐらはふと真顔に戻る。


かぐら「……本当に、なにも覚えてない……?

 キミの能力って……幻聴以外に、なんかあるッスか……?」


 かぐらの肩に、指先くらいの赤い玉が直撃したのは、その時だった。


かぐら「ぐ……!」


 バランスを崩して、かぐらは倒れた。


かぐら「これは……!」


 次の攻撃に備え、すぐに身を起こして、構える。


トーマ「僕の親友を傷つけるなよ……!」


 赤い玉を体の前に漂わせて、トーマが廊下に立っていた。


 

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