009_1
鋼鉄の檻の中は、消毒液と薬品の匂いで満たされていた。
天井から垂れる無数のケーブルが、私の頭皮に刺さった電極を伝って脳に直接信号を送り込む。
私はその痛みに反応しない。反応すれば女看守の冷たい視線を浴びて追加の電圧を与えられることが分かっている。
やれ。
女看守の声は刃物のように乾いていた。
私は、知りうるはずのない女看守の名を知っている。エレナ。そうだったはずだ。
鉄格子の向こう、少年が座り込んでいる。痩せた体に拘束帯。瞳は薬で濁って、焦点を結ばない。
私は手を伸ばして、少年の額に手を触れる。さらに手を伸ばして、意識の根底へ潜った。
そこは血の色をした水面で、人間の精神の一番もろいところだ。
私はそこで、雪の結晶のような過去の断片をすくいあげる。それは白く儚い輝きを帯びて、またたく。
少年の鼻から、小さな血の泡が漏れた。
ごめん……ユウ……
私は知りうるはずのない少年の名前を呼んだ。
手の中の結晶を握りつぶす。
少年は、体を痙攣させて、口からおびただしい量の真っ黒な液体を吐き出した。
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目覚まし時計の音が鳴って、あかりは目を開けた。視界が回る。
あかり「……気持ち悪い、夢……」
****読者様へ****
ここまで、ユウ達の物語にお付き合いいただき、ありがとうございます。
こんなところまで読んでもらえるなんて……本当に嬉しいです。
ここから、物語は少し趣が変わっていきます。
ユウたちにとって、辛く厳しいことも起こります。
彼らの学園生活を楽しんでいただけた皆様にとって、ご不快な展開を含むかも知れません。
不意打ちのようにこの先の話を進めることが心苦しく、蛇足と思いつつも予告させていただきました。
それでも、彼らの物語を見守っていただいたけるなら、これ以上の幸せはありません。
また、この投稿を機に、作品にR15のセルフレイティングと「残酷な描写あり」のタグをつけることにしました。
あわせてご理解いただきますよう、お願い申し上げます。




