表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/25

001_3

ユウ「えっ?えっ?えええ?すっっご!」


ノクス(えー……)


 声だけでドン引きを表すノクスに対し、ユウは嬉しそうな歓声を上げた。


 校舎の外には、見渡す限りの空が広がっていた。

 頭上の話ではない。

 いや、頭上もそうだが、見上げていない状態でも空しか見えない。

 なんなら、視界の下の方に雲が見える。


ユウ「うわー、どうなってんの、これ!?」


ノクス(走るな。危ないぞ)


エレナ「走るな!危ないぞ!」


 大興奮で走り出したユウに、期せずして保護者のような声が重なった。

 ユウは注意の声をまったく意に介さず、崖のように地面が途切れているところまで走った。

 そこで、勢いよく下をのぞき込む。恐怖などみじんも感じていない。


ユウ「うっわー!」


 高い。

 雲が下にある。

 校舎と、その周囲のわずかな地面は、空中に浮かんでいた。


ノクス(隔離どころか、生かして帰す気がないんじゃねえか?)


ユウ「うっわー!」


 雲間に小さくアカシア学院が見えた。

 つい先ほど、入学式を行った講堂が小さく見える。

 なんて立派な建物だろうと感動を伴って見上げた講堂が、あんなに小さく。


ユウ「うっわー!」


ノクス(お前さっきから同じ叫びしかあげてないぞ)


トーマ「我らは気づいていなかった!自らの運命がこの空の孤島とともに浮かび上がっていたことを!

 そうッ!ここはアカシア異能学院、ヴァニタス・アーク!」


 興奮しているのは、ユウだけではなかった。


ユウ「そういう名前なの!?」


トーマ「ごめん!名前は今僕がつけた!」


ユウ「うっわー!」


エレナ「危ないと……言ってるだろうが!」


 エレナははしゃぎ回る2人の襟首を掴んだ。


エレナ「幼稚園か、ここは!」


ユウ「質問!どうやって飛んでるの!?」


 ユウの興奮は収まらない。


トーマ「名前!教えてください!ここの!二つ名的な!」


 興奮が収まらないのは、ユウだけではなかった。


エレナ「分かった、教える!教えるから、一旦もっと崖から離れろ!」


 エレナは2人を陸地側に引き戻そうとした。


 その時、崖の下から手が伸びた。そして、空中空中(・・)をつかむ。続いて、だれかの頭がぬっと下から出現した。


ソウガ「くっそ、いくらなんでも高すぎる……」


 ソウガだった。そのまま、空中に手をかけ、何もない空間をけって、軽やかに地面に降り立った。


ソウガ「とてもじゃないが、下まで降りられねえ」


 空気を操り、手がかりと足場を作って崖の下に行っていたのだ。

 それが分かったユウは、思わず拍手していた。


ユウ「おおー、すげー!」


トーマ「エア・マスター……いや、エアリアル・ドミナンスというわけですな!」


エレナ「……いいから、来い!」


 エレナは2人を引きずって、崖から充分離れた位置まで引き返す。

 ソウガはそんな3人を見て、舌打ちした。


 エレナは、ユウとトーマを他の生徒のところまで引き戻してから、説明を開始した。


エレナ「ここは、浮き島という」


トーマ「ヴァニタス・アークに改名しましょう!」


 エレナはトーマをチラリと見たが、何も言わずに言葉を続けた。


エレナ「おととしの卒業生が、卒業制作で作ったものだ」


ノクス(学生が作ったのかよ、ぶっ飛んでんな……

 安全なんだろうな?)


ユウ「どうやって飛んでるんですか?」


エレナ「正確には、浮いている、だな。

 重力を反転させるコアがあって、周囲の質量を逆転させて浮上させている」


トーマ「グラビタル・コア……というわけですな……」


エレナ「地上とはワイヤーでつながれているが、他に地上とここをつなぐものはない。

 アカシア学院が、本気で諸君を隔離しようとしていること、理解していただけたと思う」


 エレナは全員を見渡した。


エレナ「なお、諸君の家族には、諸君が特別育成過程に選抜されたと説明している。


 家族に会えなくて寂しいかも知れないが、諸君ももう今年16歳になるのだ。自立には早いかも知れないが、親恋しさに泣きわめく歳でもあるまい。

 自制心を持って、あわてて退学になるような行為は控えて欲しい」


 ダァン!


 突然、激しい破裂音がした。

 女生徒が幾人か、驚きと恐怖で小さな悲鳴を上げた。

 破裂音は、ソウガのすぐ近くの地面がはじけ飛んだ音だった。


ソウガ「……ふざけんのも、たいがいにしろよ……」


 ソウガは怒りを抑えきれないといった表情で、絞り出すような声を出した。


エレナ「……我慢しているのが、どちらか、教えてやろうか?」


 しばらく二人はにらみ合っていたが、先に視線を逸らしたのはソウガだった。

 顔をそむけて舌打ちをし、そのままふらっとあさっての方向へ歩き出した。


エレナ「……彼には面談が必要なようだ」


 ソウガの背を見て、エレナはため息をついた。

 そして、気を取り直したように他の生徒に向き直った。


エレナ「今日から君たちはここで生活してもらうことになる。

 ついてきたまえ。浮き島にある施設を案内しよう」


 エレナは振り返って歩き始めた。


トーマ「ヴァニタス・アーク……」


 名残惜しそうにトーマがつぶやいたが、エレナの歩みは止まらない。

 しかし、ト-マの後ろでポツリと、つぶやく者がいた。


ゆるパーマの少年「……ヴァニタス・アーク~空に墜つる虚ろなる方舟~……」


 トーマと少年は無言のまま、しかし、しっかりと握手をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ