008_1
エレナ「……誰も、芹沢トーマの居場所を知らないんだな?」
エレナは教卓からクラス全体を見渡した。
ここには、ボイコット中の鷹野ソウガとトーマ以外の16人全員がいる。
午後の授業の開始時、トーマが教室に戻っていないことが分かった。
エレナは大きく息をついた。
エレナ「……トーマが授業をサボるようなことは考えにくいが……」
ユウ「一緒に昼食を食べました。
その時、トーマは用事があると言って、先に食堂を出ました」
エレナ「どんな用事だ?」
ユウ「それは聞いたけど、教えてくれませんでした」
エレナ「ふむ……」
昼食後、午後の授業までの時間に行う用事……一体なんだろう?
仲の良いユウ達に、聞かれても答えなかった用事。
少し、嫌な予感がする。
エレナ「私は校内を探してみる。
諸君は動画を見て……」
こはく「水くさいよ、エレエレ」
エレナ「エレエレではない」
こはく「クラスメイトがいなくなったんならさ、クラスみんなで探したら良いじゃない」
ユウ「ボクも、探します!」
エレナ「……」
こはくは、おそらく勉強から逃れるための口実だろうが、ユウは純粋にトーマを心配しての発言に思える。
むげにはしにくい。
エレナ「……では、校舎内と外とで手分けをして探そう。何人かは教室で待機だ」
エレナはテキパキと生徒たちをグループ分けした。
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エレナ「……いない、な……」
この木造校舎は、それほど広くない。
各男子生徒の寝室に使っている2階部分も見て回っているが、まだトーマを見つけることは出来ていない。
エレナ「それにしても、なんだ、これは……」
2階の廊下の天井。
かろうじて読める崩れた字で、あちこちに小さな文字が書かれていることに、エレナは気がついた。
どの順で読むか迷ったが、おそらく……
「お」「ま」「え」「だ」「け」「い」「ら」「な」「い」
エレナ「……気味の悪い……」
よく見ると、黒というよりは赤黒い色で書かれている。
こはく「ひー……ガチホラーじゃん。やばあ」
レイン「この字、女子寮の廊下にもある」
こはく「マ?」
レイン「マ」
こはく「やめてえ」
エレナ「ふん、気にするな。いたずらか、なにかだ」
こはく「いたずらじゃない、なにかって何?」
その時、地鳴りのような、うめき声のような音がどこからか聞こえ、こはくが悲鳴を上げた。
エレナ「……この部屋か」
一人冷静に、エレナは音の出所を突き止めた。
エレナ「開けるぞ」
エレナはドアノブに手をかけた。こはくが、レインとあかりの背中に隠れて、なにごとか叫んだ。
エレナの開けたドアの先には……
いびきをかいて眠る、ソウガ。
エレナ「ふざけるな!バカモノ!怖いだろが!」
いらだったエレナが、ソウガの頭にスリッパをたたき込んだ。
こはく「……エレエレも怖かったんね……」
文字通りたたき起こされたソウガが、不満の声をあげた。
ソウガ「……んだよ!?」
エレナ「学友が勉学に励んでいるというのに、良い気なものだな」
ソウガ「知らねーよ。せんせーごっこは他でやれ」
エレナ「あ?」
あかりはため息をついて、エレナとソウガの間に割って入った。
あかり「ちょっと、ケンカしてる場合じゃないでしょ。
……芹沢トーマくんが行方不明なの。なにか知らない?」
ソウガ「……血液操作の?」
ソウガは天井を見上げて、記憶を探った。
ソウガ「あー……見たかも……」
あかり「えっ!すごい。教えて」
頭をかきながら、ソウガは答えた。
ソウガ「……昼飯の時間にさ、校庭の向こうに歩いてくヤツがいて……
この時間に珍しいなって思ったんだ。
多分、トーマってヤツだったと思う。ちがうかもしんねーけど」
あかりは窓の外を指さした。
あかり「あっちの方ね?一人だった?」
ソウガ「いや、もう一人いた」
あかり「だれか分かる?」
ソウガ「……小柄だった気はする……
わりいな。ちらっと見ただけで、わかんねーわ」
エレナは不満げな声で、こはくにボヤいた。
エレナ「……私の時と態度が違わないか?」
こはく「あかりん美人だからね。
ワンチャン狙ってンのよ、男の子だからね……」
ソウガ「うるせえな、ちげえよ!」
あかり「ありがと、ソウガ。助かったわ。
昼寝に飽きたら、教室来ても良いんだからね」
ソウガ「はっ。行かねーよ」
部屋から出て、エレナはもう一度言った。
エレナ「……絶対、態度違うな……」
こはく「エレエレとあかりんも、けっこー違うから……」
こはくは、フォーローになっているかよく分からないフォローをした。




