007_8
ましろ「一人でいるの、珍しいね」
突如、ましろに話しかけられて、ユウは驚きの表情で顔を上げた。
そっと、こぶしの中に隠す。
ユウ「……そうかな?」
夕食後、ユウは屋上で一人になっていた。
ましろ「うん。……いつも、トーマくんたちと一緒にいる」
ましろの言葉に、ユウは笑っているのか、泣いているのか、どちらとも取れるような複雑な表情を浮かべた。
ましろ「どうしたの?」
ユウ「……いや、別に……」
普段ならましろと二人で話をするなんて、ユウには嬉しくてたまらないことだが、今だけは違った。
一番顔を合わせたくない相手かも知れない。今だけは。
ましろ「手の中、見せて」
ユウ「……」
ましろ「見せて」
いつになく押しの強い物言いのましろ。ユウはいたずらがバレた子どものような顔を浮かべた。
この、表情豊かなユウという存在を、ましろは愛しく感じた。
少し、妹のこはくと重ねて見ているのかも知れない。
おずおずとユウが手を差し出した。
その手の中には、くしゃくしゃの小さな紙が握られていた。
ましろ「……今日の、勝敗表……?」
紙には、今日のクロスコード・デュエルの勝敗をまとめた表が書かれていた。
そして各チームの横に、勝利数も書かれている。
ましろ・ユウチームの横には、0と書かれていた。
ましろ「……悔しかったの?」
ユウは顔を逸らした。
1勝も出来なかったチームは2つ。エレナ・こはくチームと、ましろ・ユウチームだけだ。
ただしエレナとこはくは、延長戦で無双の4連勝をしている。
今日一勝もあげてないのは、ユウたちだけだ。
ましろ「……恥ずかしかった?」
心の中を言い当てられて、ユウは身体を一度、震わせた。
せっかく、ましろと同じチームになったのに。
良いところ見せて、すごいと言われて、それで……
張り切って立てた作戦も、一度も身を結ばなかった。
そして、知られてしまった。こんな風に勝敗を気にしていたこと。
みっともなくて恥ずかしくて、消えてしまいたい。そう思えた。
ましろ「……レクリエーションの、目的は?」
ユウ「……」
ましろ「答えて」
ユウ「……みんなで、楽しむ、こと……」
ましろ「……じゃあ……」
ましろは、ユウの両頬に手を添えて、自分の方に顔を向けた。
そして、じっとその目をのぞき込む。
ましろ「今日のMVPは、ユウだよ」
二人は互いの目を見つめ合った。
ましろ「……みんなが楽しめる、ゲームを作ったんだもん」
ましろの両手が淡く光り、ユウの両頬からあたたかいものが流れ込んだ。
ましろ「元気のおすそわけ」
最後にやさしく、ぽんと両頬を叩いて、ましろが手を放した。
そして立ち上がる。
ましろ「また、明日ね」
小さく手を振って、屋上の出口に歩き出した。
ユウは、見えなくなるまで、じっとましろの後ろ姿を見ていた。
ノクス(あー、その、だな……
今のましろの能力なんだが……)
ユウ(ノクス、黙って)
ノクス(う……)
ユウ(黙って)
今、この時間を誰にも邪魔されたくなかった。
********
こはくはノックした直後、返事も待たずにドアを開けた。
こはく「エレエレ~、遊びに来たよ!」
エレナ「エレエレではない」
明日からはちゃんとカギをかける必要があるな。エレナは明日からのルーティーンに一文を加えた。
エレナ「もう消灯時間は過ぎているぞ。
大人しく部屋に戻って、寝ろ」
エレナの言葉に、こはくは意外そうな顔をした。
こはく「……言ってなかったっけ?
ウチ、一睡も出来ないの」
エレナ「……初耳だ」
こはく「そっか。言ったつもりになってたかも。
多分、異能力の影響でさ。まったく眠れないの」
まれに、異能力の発現とともに、身体の異常が発生する者がいる。
日常生活が影響が出ることもあるそうだ。
エレナ「……それは、なんというか……大変だな」
こはく「大変なのはしろの方。あの子、ウチの分まで寝てくれてるから」
エレナ「……安息貯蓄、か」
ましろの異能力、安息貯蓄は睡眠や休息の時間を生命エネルギーのようなものとして貯めておける能力だ。
そしてその生命エネルギーを他人に分け与えることも出来る。
……思い返すと、ましろは居眠りばかりしていた。
日常的にこはくに自分の睡眠時間を分け与えているのだろう。
想像だが、双子の片割れの異常を補填するような形で、もう一方の双子の異能力が発現したのだ。
おそらく、ましろがいなければ、こはくは1週間と生きていられない。
エレナ「……ましろの居眠りを注意しづらくなってしまったな……」
こはく「ほっといといたら、ずーと寝てるから、起こしてあげて」
エレナ「……感謝するんだぞ」
エレナの言葉に、こはくは顔をしかめた。
こはく「みいんなそうやって、ウチに説教する。正直ウザい。
表面的な事情だけで、ウチとしろに口出さないで欲しい」
エレナ「そういうわけじゃない。毎日やってもらっていることは、感謝が薄れやすいから気をつけろって……経験則だ」
こはく「エレエレ、おっさんくさーい」
エレナ「エレエレではない。
……おっさんでもない」
こはく「感謝してるもーん。
……しろのこと、一生守るんだ、ウチ」
こはくはそう言って、照れて顔を逸らした。
こはく「ま、ウチのテンアゲモードも、しろの生命エネルギー使っちゃうから、一方的に守ってるというのでもないんだけど」
エレナ「……そうだったのか」
エレナはもう一つ、納得した。
こはくの能力は非常に強力だ。しかし、なぜかほんのわずかな時間しか使っていなかった。
コツコツと貯めたましろの時間を、大事に、大事に使っていたというわけか。
こはく「たくさん寝なきゃいけない、しろも大変だけどさー、ずっと起きてるウチもなかなか大変なのよ。
……一人だと夜が長くって」
エレナ「こはく……お前、いっつも消灯後も別の部屋にいると思ったら……」
こはく「いやー、ここに来る前はさ、動画だったり、ネットだったり、全然時間潰せたんだけど……
ここ、ケータイつながらんし……」
エレナ「事情は分かったが、他の生徒の休息を邪魔するのは許せん」
こはく「えー……そんなんいわれてもさー」
エレナ「良い方法がある」
こはく「……やな予感……」
エレナ「毎晩、ここに来て勉学に励め」
こはく「えー?そういうの、いっちゃんヤなんですけど……」
エレナ「……私が眠るまでだ。
それ以降は、そこのタブレットで動画でもネットでも自由に時間を潰すことを許可する」
こはく「……」
こはくは、じっと考えた末に口を開いた。
こはく「分かったけど、溜まった動画見たいから、今日だけ勉強なしで良い?」
エレナ「……好きにしろ」
そっけない言葉に反し、エレナの表情は嬉しさを隠せていなかった。
明日から、可愛い後輩が毎晩訪ねて来る。
本当は単純にそれが嬉しいのだが、彼女の中では、こはくの事情に寄り添えること、他の生徒の休息時間を守れたことに置き換えて認識していた。
睡眠時間が削られるのは、少々懸念だが……
エレナは顔がほころぶのを止められなかった。
今日のレクリエーションは成功だった。
きっと明日からはクラス仲が円滑になり、もっと順調な学園生活となるだろう。
彼女の予感は裏切られることとなる。
対戦結果表
勝チーム・・エレサあトカまか
0エレ・こは・-負負負---
2レイ・シロ-・--負勝勝-
3サキ・ルイ勝-・ー勝ー勝-
2あか・リュ勝--・ー負-勝
2トマ・??勝勝負-・---
1カオ・マツ-負-勝-・-負
0まし・ユウ-負負---・負
2かぐ・しお---負-勝勝・
三連勝したのはサキ・ルイチームだけ。
サキすごい。
ルイ「あねご!どこまでもついてくぜ!」




