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エレナ「静粛に!まだ休み時間にはなっていないぞ!」


 教室のあちこちで始まった雑談を、エレナは手を叩いて止めた。


エレナ「全員の自己紹介が済んだか?

 ……次の説明に移ろう」


ユウ「あ……」


ノクス(いいんじゃねーの?

 こういうの苦手なヤツもいるんだ)


 ユウは一番前の席の少女を見たが、ユウの席からは背中しか見えなかった。


エレナ「このクラスについて、もう少し説明を追加しよう。


 諸君も知っていると思うが、この異能力が世に広まってから、能力を正しく使って社会に多大な貢献をする者が多く現れた。

 社会は発展し、世界は豊かになった」


 異能力を持つ人類が生まれて、もう一世紀が経とうとしている。

 最初は、身体から光を発する能力だったと言われている。

 そこから様々な異能力を発現する人間が年々増加し、今では10人に1人は何かしらの能力を持つようになった。


 専門家に言わせると、集合的無意識が変容を遂げ、人類が量子的観測作用を通じた現実改変能力を得た、ということらしい。


 ユウには詳しい理屈は分からなかったが、ノクスに言わせると「強い能力が発現すれば勝ち組確定ってこと」らしい。

 華々しく活躍する異能力者は社会の中心となり、そういった異能力者を多数輩出すべく、ここアカシア異能学院が設立された。


 そう、ここは異能力者のエリート校だ。


エレナ「しかし、反対に能力を悪用して罪を犯すような輩もいる。そしてその被害は年々増加し、大きな社会問題となっている。

 特に、強い能力で凶悪、かつ、大規模な被害を巻き起こす例が顕著に増えた」


 エレナは一度言葉を切って17人の生徒を見た。


 各個人の能力が大きく向上し、そしてそれ以上に多様化した。法整備は追いつかず、場合によっては警察組織が手を出せないような犯罪者が出現するようになった。


エレナ「そんな社会情勢を受けて、アカシア異能学院の入試項目に、未来予知の能力者による鑑定が追加された。

 将来重大な犯罪者となる危険性の高い能力者を選別し、ここで隔離、矯正を行うためだ」


ユウ(ノクス……実はボク、なんでこの学校に合格できたか、ちょっとだけ不思議だったんだけど……)


ノクス(ちょっとだけ不思議、で済ませてたお前はスゴいヤツだぜ)


ユウ(今、腑に落ちたような納得があって、とても悲しい……)


ノクス(良かったな。将来、犯罪者で)


エレナ「諸君は通常の学院施設から隔離され、この特別校舎とその周辺に行動が制限される。

 帰宅は認められず、この特別校舎内の宿泊施設で、寮生活となる。

 また通常の学習カリキュラムに加え、特別矯正プログラムを履修してもらう。


 諸君は、たしかにまだ犯罪者ではないかも知れない。

 しかし未来予知によってその危険性が極めて高いと判断され、その予防措置としてこの更生の機会を与えられたと理解して欲しい」


長身の男「……それがよ、納得いかねえんだよなあ……!」


 いらついた声をあげたのは、ユウの隣の席の隣に座った、長身の男だった。


ユウ(えっと、たしか名前は……)


ノクス(鷹野ソウガ(たかのそうが)。

 友達作りたいなら、ちゃんと覚えろよ)


ユウ(……一回で覚えるのは、無理だよ……)


ソウガ「まだやってもねえ罪で更生とか、納得できるかよ!

 第一、その予知ってのはあてになンのか?」


 ソウガは声を荒らげた。

 入学式当日にもかかわらずアカシア学院の制服を着崩している。

 長身で細身、しかし筋肉質でもあるその男を見て、ユウはバスケットボールが似合いそうだと思った。


エレナ「おばあ……んんっ……

 このアカシア異能学院を創立した理事長の能力だ。

 世界でトップクラスの予知能力者一族の当主でもある。

 これ以上の精度を誇る予知など、存在しないな」


ソウガ「んなこと言われても信じらンねえよ!

 オレみてえなのはともかくよ、コイツなんか幻聴だぜ?」


ユウ「いやあ……」


ノクス(褒められてないぞ、ユウ)


 その幻聴が人類滅亡レベルの犯罪者候補だと聞いたら、この男はどんな顔をするだろう。

 エレナは笑みがこぼれそうになった。


ソウガ「ナニ笑ってンだ、てめえ!」


 こぼれてた。


 ソウガは激昂して立ち上がり、机を蹴倒した。

 そのまま教壇に詰め寄る。


エレナ「学院の備品を粗末にするのは、感心しないな」


ソウガ「うるせえ!」


 ソウガの声の直後、エレナの顔が弾かれた。

 ソウガが殴ったわけではない。

 まるで、エレナが見えないパンチをくらったように見えた。


ユウ(あれ、ええと、ソウガの能力って……)


ノクス(空気操作って言ってたぞ)


 突如、能力を使っての暴力が起こり、教室の中がどよめいた。

 しかし、騒然としたのも一瞬だった。


ソウガ「……てめえ、なにしやがった!?」


 次の瞬間には、ソウガはエレナに組み伏せられていた。

 うつ伏せに床に押しつけられ、両手は後ろ手にひねり上げられている。


ユウ「すげー!」


 ユウは思わず拍手をしていた。


トーマ「まさに神速!疾風迅雷の電光石火!」


 トーマもポーズをキメて大声を上げた。


ユウ(……どうなったか、分かる?)


ノクス(わかんねーよ。

 加速、したんだろうな……)


 まさに目にも止まらぬ速さだ。


ノクス(コイツは思った以上の能力者だ)


エレナ「貴様はしっかり、犯罪者候補だな。

 ……このまま腕を折ってやっても良いが、入学早々骨折は不便だろう」


 エレナは変わらず固い声を出した。


エレナ「反省文5枚で許してやる。今回は、な」


 エレナは、ソウガの背から身を起こした。


ソウガ「……ちくしょう!」


 ソウガは床に拳を叩きつけた。

 そして身を起こすと、そのまま教室の外に向かって歩き出した。


エレナ「どうした?どこへ行く?」


ソウガ「付き合ってられねえ……

 オレは帰る。退学でもなんでも、好きにしやがれ」


 吐き捨ててソウガは教室を出て行った。


エレナ「……どうせ、ここから逃れることは出来ないがな……」


 エレナはため息をついた。


エレナ「皆も来てくれ。

 アカシア学院が隔離といったら、ここまでやるってのを見せてやろう」

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