006_3
●第三回戦
エレナ:NGワード「勉強」
しおん:NGワード「イヤです」
しおん「負けないですよ!」
エレナ「……握りつぶす」
しおん「ひぃ!怖いです!」
あかりといい、なぜこうも本気になるのか。
甘味はこうも人を惑わせるのか。
あかりに対戦を断られたあと、しおんはエレナに対戦を申し込まれた。
了承してしまったが、もっと軽いノリの人と対戦すれば良かったと、しおんは少し後悔した。
エレナ「実は、宿題を増やそうと思っている」
しおん「?急に、です?」
エレナ「テストも増やして、授業の時間も増やそう。朝の時間を早めても良いかもしれないな、しおんはどう思う?」
しおん「……」
しおん(これ、私にやめてとか、イヤとか、そういうこと言わせたい……?
エレナさん……バ、バレバレ……?)
しおん「け、結構ですね……」
エレナ「ふむ、そうか……」
しおん(ああ、『ふむ』をNGワードにすれば良かった。
私、バカだな、何回もエレナさんがこう言ってるのを聞いてるのに……)
しおん「ええと、エレナさん、学園生活で一番大切なことはなんだと思うです?」
エレナ「規律だ」
しおん「おおぅ……」
これも予想出来たなと、しおんは後悔した。
しおん「じゃあ、次!次に大切なものは?」
エレナ「ふむ……次か」
エレナは腕を組んで、考えをまとめようとしているようだ。
エレナ「……諸君は、未来、犯罪をおかすと予知されてしまった、非常に希有な存在だ。
だが、ここ数日一緒に過ごして分かった。
諸君の中に、好き好んで犯罪に加担するようなものはいないと。
きっと、将来なにかの事件に巻き込まれるか、やむを得ない事情が発生するのだと思う。
その時この学園での生活での思い出が、少し、ほんの少し正しい選択の後押しになったら、誰も犯罪など起こさない。そう考えている。
その、ほんの少しの後押しが出来るよう、私は尽力していきたい」
しおん「……エレナさん……」
エレナ「しかし、しおんが宿題や授業時間の増加に賛成するとは思わなかったな。
そうだな、少し甘かったかも知れないな。
よし!本当に明日から、一時間早く授業を……」
しおん「……『イヤ、です』……」
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エレナ「……はぁ……」
スプーン一杯のパフェを口内に流し込んで、エレナは恍惚とした表情を浮かべた。
そのエレナを横目に見て、しおんは納得のいかない表情を浮かべている。
しおん「ハッキリ言わないと、ホントに授業増えそうで……
なんだか、脅しに屈っした気分です……」
ちらり、と真っ赤なピザトーストを見る。
ヤバい。きっとあれを口の中に入れたら泣いてしまう。
しおん「……ううぅ……」
口に入れる前に、涙が浮かんでくる。
そんなしおんの肩を、カオルがトントンと、叩いた。
しおん「?」
カオルは無言で、ピザトーストの皿の端、一番奥の一枚を指さした。
よく見ると、その一枚だけ他のものと色が違うような……
カオル「それだけ、タバスコかかってないから……」
カオルはしゃがむようにして、しおんの耳元に口を近づけて言った。
しおん「カオルくん……顔はともかく、イケメンです……」
カオル「顔はともかくってのは、言う必要ないんじゃないか?」
今度は、カオルが納得のいかない表情を浮かべた。
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●第四回戦
こはく:NGワード「ありがとう」
ましろ:NGワード「ありがとう」
こはく「しろ、悪いけどパフェはわたしがもらうから」
ましろ「わたしも、負けないからね、はくちゃん」
カオル(おお、これは……)
ミナト(双子だから、ですかね。たまたま同じNGワードを選んだのは……)
こはく「あー、うん、わたしたちさ、生まれてからずっと一緒なわけじゃん?」
ましろ「そうだね」
こはく「いろんなこと、あったよね……」
ましろ「そうだね……」
カオル(これは、感動巨編の予感……)
こはく「覚えてる?小学校の時、わたしたち2人で隣町に買い物行こうとして、迷子になったとき……」
ましろ「……覚えてる」
こはく「帰り道も分かんなくて、2人でずっと同じとこ歩いてて……
最後、わたしが謎のおじいに話しかけて、助けてもらったの」
ましろ「……あったねー」
こはく「ああやって、2人で困ること何度もあって、いろいろ切り抜けて来たなーって」
ましろ「ね。いろいろあったよね。いっつも、はくちゃんが率先して助けてくれたね。
でもさ、はくちゃんの異能力が発現したときは……」
こはく「あー、ダメダメ。それはみんなの前で言わないで!」
ましろ「ふふふ……」
こはく「……なんか、自分のNGワード、分っちゃった……」
ましろ「……わたしも」
こはく「もうさ、せーので言っちゃわない?
それで、辛いのも甘いのも半分こしよ?」
ましろ「……うん。ずっとそうしてきたもんね」
こはく「だよね。
じゃあ……せーの」
こはく「『ありがとう』」ましろ「なつかしいねー」
こはく「???」
ましろ「あれ?ちがった?
なんか、昔の話ばっかりするから、てっきり……
あ、ごめんね。わたしも『ありがとう』だったんだ?」
こはく「ちょっとちょっと、この場合、勝負どうなんの?」
ミナト「えー、こはくさんがNGワード言って、ましろさんは言ってないので……
……こはくさんの負けかと……」
こはく「納得いかねー!」
ましろ「やった♪パフェ嬉しい」
こはく「ちょっと、しろ、分け合うんじゃなかったの?
わたしたちずっとそうしてきたって……」
ましろ「……でも、ルールだし……」
こはく「思い出した!しろは、なんだかんだ良いとこもってく……
こういうヤツだった~!」
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トーマ「パフェ、まだ残ってる?」
ミナト「トーマ!パフェはまだありますけど……
どこ行ってたんです?」
トーマ「ちょっと、NGワード書いてて……
あ、あの子、まだやってないよな?」
トーマは遠巻きにゲームの様子を見ていた、女の子を手で招いた。
内気な少女「わ、わたし、本当に見てるだけで……」
トーマ「良いの良いの。
甘いもの、苦手じゃないんでしょ?」
内気な少女「は、はい……」
●第五回戦
トーマ:NGワード「大丈夫」
??(内気な少女):NGワード「寿限無寿限無五劫のすり切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」
ルイ(トーマのやつ、勝つ気ゼロじゃねえか……)
ユウ(あっちの子が突然、落語始めない限り、あれは言わないね……)
ルイ(しまったな、ユウ……
オレたちも誰か女子と対戦して譲るべきだったんだ……
くううぅ~チャンス逃した~)
ユウ(女子に電撃食らわさなくて、良かったじゃない)
ルイ(まあ、そう言うなよ。
それにしても、このクラスの女子、レベル高いよな~!
な、ユウは誰ねらい?)
ユウ(そんな、誰ねらいとかは……)
ルイ(いいじゃんか、教えてくれよ。
さっきのお詫びに、もしオレのねらってる子と被ってても譲ってやるから……)
ユウ(……ねらってるとか、そういうのじゃないけど……
……ましろといると……なんか、嬉しくて……)
ルイ(良いよな~癒し系姉さん。身体もぽよぽよでやあらかそうで……)
ユウ(……ちょっと……)
ルイ(わりい、わりい。純愛だったか!
いいね!オレ協力するわ!)
ユウ(……ルイは、誰か気になってるの……?)
ルイ(オレはもちろん、全員だ!エレナさまもロリっこも含めてな!)
ユウ(……)
ルイ(もちろん、ましろちゃんだけやめとくよ。ユウの思い人だからな!
向こうから迫って来たら、ガマン出来ねえから、カンベンな!)
(ノクス(オレ、こういうサッパリしたクズ、好きだぜ))
(ユウ(ボクは、苦手……かも))
ちなみに、トーマは比較的早い段階で『大丈夫』と口走り、内気な少女にパフェを手渡すことに成功した。
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ここの生活はあまりにも夜が長い。
でも、星空はすごくキレイだ。泣きたくなるくらいに。
夜半すぎ。こはくは校庭をぶらぶらと歩いていた。
とっくに消灯時間は過ぎている。
エレナの見回りが終わってから、部屋を抜け出してきたのだ。
ゆっくりと時間をかけて歩く。
こはく「おや……?」
校舎から人影が出てくるのが見えた。
小さく手を振って、近づく。こんな夜に、話しかけないなんて選択肢はない。
こはく「大丈夫~?明日は授業、普通にあるよ~?」
にまにま笑いながら、こはくは声をかけた。
こはく「じゃ、ウチら、夜更かしガチ勢ってことで」
今日は、きのうより早く朝にたどり着けそうだ。
それぞれの激辛ピザトースト
ユウ「あ……結構、平気かも。
……美味しい」
かぐら「~~~~~~~~……
……気合いで、最後まで食べるッス」
こはく「マジ、ダメだって、しろのアレは……
かっら!何これ、無理無理無理!」
トーマ「ぶっふ、が……ごっほごほ……」




