表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の手は祈りの形をしていない /異能力を使って将来犯罪をおかすと隔離教室に入れられたボクら(でもボクの異能力、幻聴が聞こえるだけで……)  作者: 陽々陽
006_秘密の趣味とNGワード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/62

006_1

 共同生活の難点は、一人の時間が取れないことだ。

 あかりは大きな布製のカバンを肩にかけて、木立の間を歩いていた。

 もう、ずいぶん歩いている。


あかり「……ここなら、大丈夫かしら」


 やっと落ち着いて一人になれそうな場所を見つけた。

 校舎から離れた一本の木。

 森と呼ぶにはささやかだが、幾本かの木々を超えた先の場所になる。


 それでも、あかりは周囲を見回してから、木の陰に腰を下ろした。

 カバンから二本の鋭い棒を取り出す。

 それに、力なくうなだれた、見るも無惨な動物……


あかり「……ふふ……」


 あかりは笑みを浮かべて、棒を突き刺し---


********


 共同生活の良いところは、孤独を感じにくいところだ。

 だが時には一人になってしまうときもある。


 今日は休日。授業は休みだが、隔離は解かれることなく、ユウたちは浮き島の中だけで自由に過ごすことを許された。


 先ほどまで、ユウの側にはミナトとトーマがいた。

 今日の夕食時に行う催しについて、楽しく会話を弾ませていた。


 トーマが不意に、用事があるから、と言い出して別行動になった。

 さらに、カオルにミナトが呼び出された。今日の夕食で確認したいことがあるらしい。


ユウ(……ボクもミナトと一緒に、カオルのとこに行けば良かった……)


 唐突に訪れた一人の時間を、ユウは無性にさびしく感じた。


ノクス(お前、さすがにどうかと思うぞ?

 金魚のフンみたいにどこに行くにもくっついてって……そのうち、ウザがられるからな?)


ユウ(……うるさいな……)


ノクス(ここ来る前は、ずっと一人だったじゃねえか。ぼっちでも楽しくやってたじゃねえか)


ユウ(……だからだよ)


 ユウはいらだち紛れに足を進めた。

 こんな時に限って、誰ともすれ違わない。

 気がつくと、いつの間にか校舎から離れた木々の、しかも奥の方まで来てしまった。


 きっと、こんなところには誰も……


ユウ「あれ……?」


あかり「げっ」


 大きな木の下に、あかりが座っている。

 ユウは満面の笑みを浮かべた。


ユウ「あかり!どうしたの?こんなとこで?」


あかり「……来ないで!」


 あかりの声は遅く、いや、ユウが近づくのが早過ぎて、ユウの目に映ってしまった。

 あかりの手に抱かれた、動物の半身……


 あちこちほつれた、作りかけのあみぐるみ……


ユウ「……ウマ……?」


あかり「なんでよ、ネコよ、見りゃわかるでしょうが」


 ……分からない……

 ユウは深刻な顔で見つめた。


あかり「……あーもー、なんで来るのよ……」


 あかりは作りかけの自称ネコを手で隠しながら、つぶやいた。

 何度もやり直したのか、ヒザの上は毛糸まみれだ。


ユウ「いや、ちょっと、散歩……」


あかり「じゃあ、すぐに通り過ぎなさいよ」


 ぷいっと顔をそむけて、言い放つ。


ユウ「……」


あかり「……うるさいわね、わかってるわよ。ヘタって言いたいんでしょ、ヘタって……」


ユウ「いや、何も言ってな……」


あかり「さいあく……せっかく誰にも見つからないようにしてたのに……」


 あかりはため息をついた。


ユウ「……ごめん……

 でも、あの……隠れること、ないと思うよ?」


あかり「……」


ユウ「最初は誰でも初心者なんだしさ?

 別に、誰も、笑ったりしないと、思う……」


あかり「……あんたは女同士を分かってない……」


ユウ「……」


あかり「……わたし、昔から編み物だけは苦手で……

 他のことは何でも大体出来るから、不器用なイメージ無いのに、これだけ……」


ユウ「……不器用なイメージ……無い……?」


 ユウはあかりの作った料理の数々を思い出したが、それ以上は考えるのをやめた。


あかり「……わたしだって、かわいいの、作りたいのに……」


 あかりは不満の表情を浮かべたまま、あみぐるみの次のひと編みを進めようとした。

 しかし、数回前の編み目を飛ばして編んでしまったことに気がついて、肩を落とした。


ユウ「……貸して」


 ユウはあかりの手の上から編み棒を握り、すいすいと間違った箇所までほどいた後、正しい編み方でほどいた分を編み直した。


あかり「……なんで、出来るのよ……?」


ユウ「まあ、その……一人遊びに傾倒していた、というか……」


ノクス(ぼっちでしたって、ちゃんと言えば良い)


あかり「……ちょっと、この先で分かんないとこあるから……

 ……教えて……」


 恥ずかしさにたえるように、目を逸らしながら、あかりが言った。


ユウ「もちろん!」


 ユウの屈託のない笑顔に、あかりはさらに顔をそむけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ