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ユウ(ああ、面白かった、面白かったねえ……)
ノクス(いつまで言ってんだ、おまえ)
ノクスは呆れた声を出した。
入浴後、ユウは割り当てられた自室へ向かって木造校舎の廊下を歩いていた。
木造校舎の2階は男子生徒向けの部屋として、やや無理な改装が施されているのだ。
ユウは歩きながら、先ほどの友人たちと興じたゲームを延々と思い返していた。
あんなに笑ったこと、いや、笑い合ったことは今までない。
ユウにとって、ずっと続いて欲しい時間だった。
実際、エレナが入浴時間だからと強制的に終わらせなかったら、まだまだ解散しなかっただろう。
ユウ(ボードゲームって言うんだって、ああいうゲーム。
ミナトがもっと色んな種類持ってるって。楽しみだなあ、明日もやれると良いなあ)
ノクス(犯罪者クラスで、おめでたいこった)
ユウ(いいじゃんか。新入生には違いないし)
ユウは口元が緩むのを止められない。
ユウ(……友達、なれたかな……)
ノクス(しつこくして、避けられないようにな)
ユウ(……やなこと言うなよ)
浮かれたユウは、入浴中もひっきりなしにトーマやミナトに話しかけていた。
カオルだけは明日の仕込みがあると先に切り上げたが、人の良いトーマとミナトは入浴時間が終わるギリギリまで付き合ってくれた。
……うんざり、させてしまっただろうか。
ふとよぎった思いは、心に黒いシミのようなものを作った。それはすぐに広がって。
ユウ(……)
ノクス(おい、バカ、なに泣いてんだ)
ユウ(……泣いてない)
まだこぼれていないから、セーフだ。
ユウには、年の近い友人がいなかった。産まれ育った山村には子どもが少なかった。ユウは余暇のほとんど全てを1人で過ごしてきた。
だから、友人とのつきあい方が分からない。
ふとした不安が心を強く揺らした。
ノクス(あー……
迷惑だと思ってたら、あんなに長いことしゃべったりしねえよ。そんなに不安になることねえんだよ)
ユウ(……なんだよ、友達いないノクスになにが分かるんだよ)
ノクス(あ?オレだって、友達くらいいるよ!)
ユウ(え?そんな人いるの?
どんな人?ボク知ってる?)
ノクス(あー!うるせえ!
そんなことよりお前、ミナトの作ったゲームやるって言ってたじゃねえか)
ユウ(うん。調整中だから、一緒に遊んでくれって)
ノクス(そういうのは、仲が良いやつらでするもんなんだよ)
ユウ(……そうかな……)
ノクス(そうだ)
ユウは顔を上げた。
ユウ(それにしても、ボードゲームってスゴいよね。初対面なのに、すぐ仲良くなっちゃった)
ユウは、熱っぽく語るミナトを思い出した。
ユウ(ミナトが作ってるゲーム……
正方形のパネルを交互に置いて、自分の陣地を4つつなげたら勝ちなんだって。
パネルは斜めに2つの陣地に分かれてて、すでに置かれてるパネルの方向を変えたり、二枚重ねて置いて上のパネルを取ったりも出来るんだって。
目指すは……何て言ってたっけ?)
ノクス(アルティメット五目並べ)
ユウ(そう、それ!
スゴいなー。ボクもそういうのを思いつける人になりたい)
ノクス(……)
ユウ(2人から4人で出来る頭脳戦を目指してるって。
他にもね……)
ノクス(……お前、いつまでドアの前で突っ立ってるつもりなんだ?)
ユウ(……)
ユウはため息をついた。
実はすでに自室の前に到着しており、ドアの前でノクスとの会話……会話と呼べるかは不明だが……を続けていたのだ。
ユウ(トーマかミナトがルームメイトだったら良かったのに……)
ノクス(くじ運だ、諦めろ)
ユウは意を決してドアに手をかけた。
ユウ(どうか、平和に過ごせますように……)
願い、むなしく。
ソウガ「……おせえぞ、幻聴野郎」
ルームメイト、鷹野ソウガがユウを睨み付けた。




