第七話「決闘、そして名を刻む」
初投稿です。
宗二が左馬之助を留めておけたのも束の間。
砦の柵が悲鳴を上げる。
敵兵は次々と乗り越えてくる。
若者たちは必死に食い止めるが、徐々に押し込まれ始めていた。
「まずいな……!」
宗二が苦い顔をする。
朔也は冷静に、しかし焦りを押し殺して考えた。
(このままじゃ持たない。だが、砦を離れて突っ込めば、敵兵に囲まれて終わる……)
どうする?
どうやって、あの大将——日比野左馬之助の前まで辿り着く?
朔也は深く息を吸い、叫んだ。
「全員、後退しろ!」
突然聞こえた声に、砦の兵たちが驚いた顔を向ける。
「わ、わかった!」
一斉に砦の中央へ後退を始める。
一見、勢いに負けて逃げて、総崩れに見えるその動き。
敵兵たちは歓声を上げ、砦へなだれ込んできた。
——そのとき。
「今だ!」
朔也は脇道から一気に走った。
敵兵たちの動線が砦の中心に向かったことで、左右の守りがガラ空きになった。
小さな隙間を突き、敵兵の間を駆け抜ける。
何度も槍が飛んできた。
それをかわし、払い、突き進む。
(目指すは、大将——!)
日比野左馬之助が、馬上から砦を見下ろしていた。
「なんだ、敗走か? 小賢しい!」
左馬之助が笑う、その瞬間。
朔也は砦の柵を蹴って跳躍した。
宙を舞いながら、叫ぶ。
「日比野左馬之助......勝負だ!」
「な、なんだこの小僧は......!?」
——発動条件確認。対象:知性あり
——スキル【決闘領域】、展開
空間が歪む。
朔也と左馬之助を中心に、周囲数十メートルの領域に隔離された。
砦で戦っていた兵たち、敵兵はお互いがぶつかり合っているため、突如として消えた二人には気づいていない。
———
「ここはなんだ....」
「ここは俺の力、決闘領域の生み出した、俺とお前が一騎打ちをするための場所だ。周りの奴らからは俺たちの姿は見られず、邪魔もすることができない」
朔也は左馬之助の疑問に答えた。
「そんなことが起きるとは.....何か特別な力をお前は持っているのか。しかし、この俺に一騎打ちをしてくるとは.....なんとも、面白い小僧だな!本気で勝てると思っているのか...?」
左馬之助は初めは戸惑いつつも、目を見開き、愉快そうに笑った。
「当たり前だろ!お前を倒して、おれは......あの砦を、仲間たちを守るんだ......!」
「そうか.....なら本気で相手をしてやらないとな。名前はなんだ?」
「神谷朔也だ!」
「そうか...... それでは、いくぞ!」
馬から飛び降り、剛力の大太刀を構える。
刹那。
左馬之助が踏み込む。
巨漢とは思えぬ速さだ。
大太刀が唸りを上げて、朔也を叩き潰そうと迫る。
「——っ!」
朔也は槍で受け止めるが、腕に痺れる衝撃。
左馬之助の怪力に、じりじりと押されていく。
——《勝機視界》、発動
——視覚化:右脇腹、赤。
(勝機視界のおかげで、あいつの弱点は見えてるんだが..... この力と速さのせいで反撃する機会が作れない。まずい、押し負ける!)
二撃目。
三撃目。
朔也は必死にかわし、受け流すが、限界は近かった。
(このままじゃ……!)
そのとき——。
朔也の中に、閃光のような感覚が走った。
【新スキル解放:《未来一閃》】
——数秒先の未来を視る力。
朔也は、次の瞬間、左馬之助が振るう刃の軌道を“見た”。
(この力であいつの弱点に打ち込める……今だ!)
全身の力を集中させ、朔也は一歩踏み込む。
左馬之助の刀が振り下ろされる直前、その刃の死角へ——飛び込んだ。
「なっ……!」
驚愕の表情を浮かべた左馬之助の脇腹へ、朔也の槍が深く突き刺さる。
「——これが、俺の覚悟の力だ!」
「ぐぅ...... こんな小僧に俺の弱点が見抜かれてるなんて。くそっ......」
豪快なうめき声と共に、左馬之助は膝をついた。
———
決闘領域が解かれ、空間が元に戻る。
砦に沈黙が訪れた。
砦の兵たち、敵兵たちが固まって見つめる中、
左馬之助は血を流しながら、うつ伏せに倒れたまま言った。
「……神谷……朔也……か……」
朔也の名を、深く胸に刻み、左馬之助は意識を失った。
「左馬之助さん.....あんたなんで倒れてるんだ...」
「もしかして、あの小僧がやったのか?......一時撤退だ!」
周囲の敵兵たちは総崩れになり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
砦の中央。
朔也は、静かに槍を地に突き立てた。
「……勝ったぞ」
宗二が駆け寄り、無言で朔也の肩を叩く。
そして、にやりと笑った。
「よくやってくれた、朔也!これで、この砦も——いや、この地も、お前のものになるかもな」
焚き火のような歓声が、砦中に広がっていった。
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