第三話「火を囲んで」
初投稿です。
山の奥、獣道から外れた谷間に、小さな洞窟がある。
そこが、今の朔也と茜の仮のねぐらだった。
野盗に襲われたあの日から、一週間。
朔也が昼夜問わずに見回りを行い、近くの川から水や食料を見つけては茜に分け、看病をおこなっていた。
時には、村から追放され、野盗に追われていることを思い出し苦しむ茜を懸命に支えた。
その甲斐もあってか、茜の怪我は日に日に良くなっていた。
夜、二人は焚き火を囲みながら、ようやくまともに言葉を交わす余裕が生まれていた。
「傷、だいぶ治ってきたな」
朔也は火にあぶった薬草を、茜の足にそっとあてる。
縄で擦れた傷はまだ赤いが、膿んでいないのが幸いだった。
「……ありがとう。もう、歩けると思う。それより……朔也は、これからどうするの?」
火の灯りが茜の顔を揺らしている。
目を伏せ、でもどこか真剣なその表情に、朔也は一瞬だけ言葉を止めた。
「……まずは、どこかに落ち着ける場所が欲しい。冬が来る前に、食料と水が手に入る拠点が必要だ」
「村……は、無理だよね」
茜は自分の腕を抱きしめるようにして言った。
彼女もまた、村を追われた存在だった。理由はまだ語らない。けれど、普通の人とは異なる瞳の色がすべてを物語っている。
「茜は村にもう戻りたいとはならないと思うけど、おそらく今までいた村に頼み込んだとして無理だな。追放された身だ。もう一度受け入れてくれないだろう...... そして、他の村でも結局は俺たちの見た目では最終的にはまた追い出されてしまうだろう......」
「そうだよね...... 私たちなんか誰も受け入れてくれないか......」
「そうだな...... ただ、自分たちで一から作るなら別だ!」
「……!」
茜が顔を上げる。
朔也は静かに、炎の向こうを見つめながら言葉を続けた。
「小さな砦でもいい。放棄された砦や廃村、そういう場所を探して、俺たちの居場所を作っていこう!俺たちのような弱いものを一人でも多く救えるような居場所にするんだ。そして、少しずつでも、人を増やして俺たちと一緒に戦ってくれる仲間を増やしていくんだ」
「……仲間。でも、普通の人と異なる見た目をしている私たちとともに戦ってくれる人なんかいるのかな......」
「俺たちのように力を持っていながら居場所のない者たちが、この世にはきっといる。追放された俺たちだからこそ、そういう人たちと手を取り合うことができると思うんだ」
しばらくの沈黙の後、茜がぽつりとつぶやいた。
「ねえ、朔也。私、何の役にも立たないかもしれないけど……それでも、一緒にいていい?」
その声は、震えていた。
強がって、怯えて、それでも一歩踏み出そうとしている声だった。
「いいさ。俺一人じゃできないこともある。お前がそばにいてくれるなら、俺は……たぶん、折れずに進める」
火が、ぱちん、と小さく弾けた。
それは、まだ小さな、でも確かな“仲間”たちの結びつきだった。
夜明け前。
朔也と茜は、地図代わりに描いた木炭の絵を前に、次の目的地を決めた。
「南に一里ほど下ったところに、昔の砦跡があるらしい。まずはそこを目指そう」
「うん!私たちの居場所を作りにいこう!」
少年と少女の旅路が、再び動き出す。
——これは、追放された者たちが、やがて国を築く物語の、まだほんの序章。
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