第十四話 「雷堂、出陣」
戦の火蓋は、静かに切って落とされた。
領主軍と砦の連合軍。数では明らかに劣るこちら側だが、宗二の的確な指揮で兵たちはまとまっていた。
「慌てるな、前衛は中央に厚みを持たせろ!」
宗二の声が響く。砦の人々にとって、それは混乱を鎮める希望の号令だった。
朔也も、剣を握り締めながら隊列に並び、進んでいく。
敵兵たちは数にものを言わせて押し寄せるが、こちらは一丸となって受け止める。茜も後方で緊張しながら控え、周囲を注意深く見渡している。
そのとき、戦場の向こう側から異様な存在感を放つ男が現れた。
青い髪をなびかせ、漆黒の鎧に身を包んだ一騎の侍——久遠院雷堂。
「……改めてあれが、雷堂か」
朔也がつぶやくと、隣にいた宗二が低い声で答えた。
「ああ、やはり間違いない。領主家の支えとなっている、数少ない『本物』だ」
宗二の表情が厳しくなる。
「この戦、雷堂は直接は動かんだろう。ただ、奴は”見ている”。朔也、お前たちがどれだけのものか……試されてるんだ」
その言葉に、朔也の胸が熱くなる。
戦う意味が、ただの生き残りではなく、己の存在を示すことに変わった気がした。
「俺は……負けない」
決意を胸に、朔也は仲間たちと共に前進する。
敵軍の一角が崩れた。宗二の指示が冴え、味方の機動部隊が敵陣に切り込んだのだ。
「茜、もう一度頼めるか!」
朔也が後ろを振り返り、声をかける。
茜は緊張で顔をこわばらせながらも、小さな狐の式神を呼び出した。
柔らかな光が狐から朔也へと流れ込み、彼の全身を包み込む。
「朔也、がんばって……!」
小さく、けれどしっかりとした声だった。
朔也は一歩踏み込んでみた。
体が、軽い。
風のように地を蹴り、剣を振るえば、腕に宿る力も明らかに増していた。
「……本当にすごい。これが、茜の力か」
彼は素直に驚き、同時に力が湧き上がるのを感じた。
剣を構え直し、さらに仲間たちとともに敵兵の壁へと斬り込んでいく。
遠く、雷堂がそれを静かに見つめていた。
彼の口元に、わずかな笑みが浮かんでいることに、まだ誰も気づいていなかった。