第十二話 「白金領領主 犬飼忠範」
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白金領の領主が住まう城、白金城。
領主・犬養 忠範は、居城の奥深く、涼しい間で腰を下ろしていた。
窓からの風を受けながら、黄金色に輝く茶器を指で弄んでいる。
「まったく、最近の兵どもときたら……集落一つ攻め落とすこともできんとは、どういうことだ?あの砦跡にいるのは、ならず者しかいないというではないか...!」
不機嫌そうに茶器を放り投げ、障子の向こうに控えていた家臣たちを睨みつける。
重臣たちは互いに顔を見合わせ、頭を垂れるしかなかった。
忠範は、代々この地を治める犬養家の嫡男として生まれた。
しかし、その才覚は凡庸で、武にも知にも長けていない。
今や領国が保たれているのは、ただひとりの武人──
「……久遠院、雷堂」
誰かが小声でその名を口にした。
一歩、静かに踏み出す者がいた。
高身長の、青い髪をなびかせた武士──久遠院 雷堂。
彼の髪は深い蒼。
鋭い眼差しには、常人にはない覇気が宿っている。
それもそのはず、雷堂はこの領、唯一のスキル持ちだ。
圧倒的な実力と、これまで先々代から犬飼家に仕えている一族であるため、他の家臣とは比べ物にならない影響力がある。
雷堂の存在は、まるで場の空気そのものを緊張させた。
「雷堂よ。くだらぬ百姓どもを一掃してこい。……手間はかけさせぬ」
忠範は、命令というよりも命乞いのように、彼に命じた。
雷堂は無言で一礼すると、静かに立ち去る。
その背を見送りながら、重臣たちは胸を撫で下ろした。
もし雷堂がこの犬養家に仕えていなければ、領はとうに滅びていたに違いない。
しかし同時に、彼らは心の奥で怯えていた。
──あの男は、いつか忠範様を見限るのではないか?
誰もが言葉に出さぬまま、ひたすら頭を垂れた。
雷堂は城を後にすると、蒼い髪を風になびかせ、空を見上げた。
目を細め、心の中で呟く。
(……この地に、変革が訪れるかもしれん)
微かに笑みを浮かべ、雷堂は砦の方角へ歩き出した。
――次なる戦の火種は、すでにくすぶり始めていた。
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