第十話 「砦に芽吹く新たな息吹」
初投稿です。
砦に村人たちが加わってから、一か月が経った。
兵士たちと村人たちは、最初こそ互いに距離を取っていたが、今では少しずつ打ち解け、共に汗を流す仲間となりつつあった。
農作業に励む者、砦の修繕を手伝う者。
子どもたちの声が、広場に明るさをもたらしていた。
「まさか、ここまで馴染むとは……」
朔也は、広場で相撲を取る子どもたちを眺めながら呟いた。
「人間なんてのは、居場所さえあれば生きられるもんだ。特に、子供たちからすれば村で過ごしてきた期間も短い。先入観も少ないから、馴染むのもより早かったんだろ」
宗二が隣で木刀を肩に担ぎ、笑った。
その言葉に、朔也も自然と笑みを浮かべる。
だが、戦国の世。
平穏は一時的なものでしかない。
誰もが心の奥で、それを理解していた。
だからこそ、鍛錬は砦の戦いが終わった後も続けていた。
朔也もまた、宗二に師事し、剣術を学んでいた。
そして──茜もまた。
───
その日の午後、砦の裏手では宗二の特訓が行われていた。
朔也と茜が向かい合い、木刀を交える。
「はぁ、はぁ……!」
茜は額に汗を浮かべ、懸命に剣を振る。
「踏ん張れ、茜!」
朔也が声をかけると、茜は苦笑いを浮かべた。
「……今までこんなことしてこなかったけど、自分の力がつくと思うと頑張れる……」
それでも、彼女の瞳には確かな光が宿っていた。
茜の言葉を聞いて、朔也もまた気を引き締める。
「よしっ!続けよ...」
朔也が声を出すと同時に、宗二が指導を止めて茜を呼び出した。
「すまんが、少し良いか...? 一つ伝えておきたいことがあるんだ」
宗二は真剣な顔をして、茜に伝えた。
「実は、茜... お前には特別な力がある」
宗二が声をかけた。
「特別な力……?」
茜が首を傾げると、宗二は不思議そうに聞き返す茜を見て、続けた。
「その力は【式神契約】。
霊的な存在と契約し、仲間に力を与えたり、敵に呪をかけたりできる。
戦いの前に仲間を支援し、戦いの中では敵を妨害する、戦いにおいてとても重要な力だ」
「そんな……本当に私に、そんなすごい力が……?」
茜は自分の両手を見つめ、呆然と呟く。
「今までは、茜が戦いに直接参加できるのか決まってなかったから、伝えられていなかった...
まだ使い方はわからなくてもいい。今はその力が自分の中にあると、信じることから始めろ」
宗二は優しく言った。
茜は目を見開き、そして力強く頷いた。
「はいっ!ありがとうございます。これで私も朔也の力になれる.....」
「それでは、訓練に戻るとするか...すまない朔也、待たせた」
少し離れた位置で二人の話を聞いていた朔也は茜のスキルがあることに驚きつつも、スキルの存在に気づいた宗二への興味も湧いた。
───
夕暮れ。訓練も終わり、皆で焚き火を囲みながら、夕飯を食べていた。
宗二の隣に朔也が座りに来た。
「宗二さん。さっき茜に特別な力の話してた?」
朔也が尋ねると、宗二は苦笑を浮かべた。
「ああ、聞こえていたのか… 実はな...俺も持ってるんだ。他の者たちにはない力をな」
「宗二さんも……?」
「俺の力は【適正開花】。
人間一人ひとりの素質や適性を見抜き、最適な道を示す力だ」
「……すごい力だ。それで茜の力にも気づいていたんだ」
朔也は驚きと尊敬の入り混じった声を上げた。
「まあ、茜の髪色を見て、特別な力を持っている可能性は大いにあると思っていたがな...」
「いや、それでも宗二さんの人を見抜く力や戦況をよく見て判断する力というのはすごかった...! その力にすごい助けられたよ」
「ああ。ただな、戦略や戦術ってのは別だ。
そっちは俺が若い頃、必死に学び、戦場で生き抜いた経験から来ている。この力だけに頼ったわけじゃねぇ」
宗二は、わずかに苦い笑みを浮かべた。
「……なるほど。確かにそれは失礼だった...ごめん」
朔也は深く頷いた。
「いやいや、気にするな」
(宗二さんは、スキルに頼らず自分自身を磨いてきたんだ……)
宗二は、焚き火を見つめながら続けた。
「一応言っておくがな。この世にこの特別な力を持つ者は、本当に一握りだ。
一つの領に二、三人いればいい方だ。
しかも、一般の兵士や民はその存在すら知らねぇ。
茜も、お前も、希少な存在だ。大切にしろよ」
その言葉に、朔也は拳を強く握り締めた。
「……わかってる。
俺は、ここにいる皆を守りたい。
もっと、強くならないと。これからも鍛練お願いします。」
宗二はニヤリと笑い、薪をくべた。
パチパチと音を立てて火は空へ舞い上がり、夜空に小さな光を描いた。
(必ず、この砦を、皆の居場所に──)
朔也は静かに、だが確かな決意を胸に刻んだ。
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