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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第15章 中華人民共和国日本大使館第一書記官 王成明
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15-11


「そうか、分かった」


俺は報告を聞くと、軽く息をついて天井を見上げた。岩倉が軽く首を横に振ったのが見える。奴もすんなりと喜ぶ気分ではないらしい。


「……民間人の死者8人、重傷者3人か。万単位の死者が出かねなかったことを考えれば、上出来なのかもしれないが」


警察の仕事は惨劇を未然に食い止めることにある。予期されていたこととはいえ、被害が出てしまったことに対する責任の重さを感じているのだろう。

それだけではない。襲撃者のうちの一人、王成明は取り逃した。逃走中にその姿が文字通り「見えなくなった」らしい。魔法とやらを使われたのだろう。


「六本木の方は」


「今の所動きなしだ。大魔卿とやらは依然そこにいるのだろう?」


「山下君によれば。ただ、彼女もそう頻繁に力は使えない。リアルタイムでの追尾となると、かなり無茶をさせることになる」


山下睦月の「魔法」が彼女に相当な負荷をかけることは知っていた。立て続けに使えば命にもかかわる。無理は極力させたくなかった。


とはいえ、向こうは言わば何でもありだ。包囲していたつもりでも、いつの間にか別の所にいるということは十二分にあり得る。

実際、高松たちの証言によれば李花梨と李麒龍、麟鵬兄弟はテレポーテーションのようなことができるらしい。気が付いたらイルシアに攻め込んでいるなんてことも考えられなくはない。


「一気に立ち入りますか」と、岩倉の部下である片岡警視正が訊いてきた。色黒でがっちりとした体格の男だ。

少し考えた後、岩倉は「それはやめよう」と返した。俺も同感だ。数でどんなに勝っていても、簡単に返り討ちにできる化け物が相手だと思った方がいい。


……なら、なぜ一気にイルシアを攻めないのだろう。


そもそも、麻布での一件の背景が読めない。裏切り者の阪上を始末しようと、王と翼の生えた女性がやってきた。そこまでは分かる。

ただ、猪狩選手の言葉によれば翼の女性は「その気になれば大虐殺ができる程度には危険だった」という。阪上が化け物になれることを考慮しても、不自然に強い戦力を当てている気がする。

王という男は「神の器」だと聞いている。阪上一人を始末するなら、彼だけで良かったはずだ。


その時、スマホが震えた。……この番号は。


「もしもし」


「高松です。後30分ぐらいで桜田門っす」


高松裕二だ。こちらの最高戦力の一人でもある。彼の存在はかなり心強い。


「すまないな。イルシアの方は大丈夫なのか」


「今のところは。午後にノアの中にいる『子供』を除去するって話です。そこはジュリと市川に任せてます。

それより、そっちは大丈夫なんすか?一応、麻布の件は収まったみたいですけど」


「大魔卿には動きなしだ。王は行方不明、警察が全力で捜索してる」


「行方不明……」


高松が黙った。彼は俺より随分と若いが、潜った修羅場は数知れないと聞いている。彼の意見は聞いておきたい。


「何か思い当たる所が?」


「いや……そもそも連中の狙いがよく分からないんすよ。変異体と変異体をぶつけさせて、東京中を混乱させようとしてたのかなとは思ったんすけど。

ただ、それは猪狩チャンプによって妨害され失敗した。そうなると『プランB』に移ってるはずなんです」


「……プランB。大魔卿自らが出てくるとか、イルシアを強襲するとかか?」


「……どっちもない気がします。大魔卿とは俺は直接会ったことがないですけど、少なくとも馬鹿じゃないらしいことは分かります。

多分、奴は本調子じゃない。不死身の化け物とはいえ、一回存在を消されてから復活しているわけですからね。ノーリスクなわけがない。

だから代わりに下の奴に引っ掻き回してもらおうとしていると思うんです。とすれば、それをどう実現するのか……」


「王が代わりに、ということか」


「あり得るとは思うんです。ただ、どうするのかが分からない。

奴らの目的が『東京、ないしは日本そのものの破壊そのもの』だとすると、王一人では多分どうしようもないんです。それこそ自らが変異体になるとか、そういう行動に出ない限り。

それに、王という男が自らを犠牲にするタイプなのか……そこもどうも読めない」


俺は岩倉と目線を交わした。どちらにせよ、警戒レベルを最大限に引き上げた方が同も良さそうな気はする。


「……分かった。とにかく、テロの可能性を考えて厳戒態勢を敷いておく。君も合流してくれると助かる」


「了解です、ではまた後で」


電話を切った俺は「もしテロとして、どこを狙うと思う」と岩倉に訊いた。岩倉は腕組みをして唸る。


「……一個人がテロを起こして、かつ極力被害を拡大できそうな場所、ということか」


「ああ。少なくとも六本木じゃない。あそこならすぐに行動に出てもおかしくないからだ。

そして池袋でも新宿でも渋谷でもどうもなさそうだ。単に人を大勢殺せばいいという話でもないらしい。東京に壊滅的な、復旧困難な被害を与えるとしたらどこだ?」


「……どうだろう。昨日のドームの件は、数万人の人間を爆弾に変えて爆破するというのが狙いだったわけだよな。

そうすることで、核を落としたに近い打撃を与えるというのが狙いだと聞いている。だが、もうそういうことはでき……」


岩倉が「しまった」と呟いた。


「どうした」


「……桜田門だ」


「え?ここか??」


「ああ。昨日のドームの件で逮捕した角の生えた男がいただろう?あいつは今、ここの地下にいる。拘束衣を着せられて、絶対に動けないようにした状態でだ」


「それなら問題ないだろう、動けないのだから……あっ!!?」


全身から汗が噴き出るのが分かった。……そうか、しまった!!

奴は人間を「爆弾」に変えることができる。勿論、一般人一人程度じゃどうということにもならない。しかし……



王自らを爆弾に変えるというならどうか??



王にその覚悟があるのかは知らない。だが、一番あり得そうな想定ではある。


警視庁の警戒態勢は万全だ。王1人だけでやってきたところで、犠牲は出るかもしれないが確保はできる。



だが、「王1人でなかったとしたら」?



警視庁攻略のための「兵隊集め」をした上で、王がやってきたならば……地下にある拘置所までの厳重なセキュリティを突破してもおかしくはない。

そして、そこまでの想定を現状できているわけではない。ただでさえ都内主要地域への警戒を厚くしていて、こっちはやや手薄だ。


その時、若い制服組の警察官が「大変ですっ!!!」と息せき切って会議室に飛び込んできた。


「何だっ!??」


「刃物を持った暴漢が20人ほどっ!!!警視庁入口に押し入ってきましたっ!!!」


「何ぃっ!!?対応はっ」


「威嚇射撃しても怯みませんっ!!銃で撃ってもゾンビのように……あいつら一体何なんですかっ!!!」


遅かったっ!しかもこちらの切り札である高松の到着までまだかなりある。

猪狩瞬は重傷を負っていて、ひとまず治療を受けている。こちらに呼ぶにしてもすぐには無理だ。



……どうする。どうすればいい。



一瞬考え、俺は立ち上がった。



「尊っ!?お前、何をするつもりだっ」


岩倉の叫びに、俺は目を閉じた。


「……考えがある。一か八かだが、やる価値はあるものだ。少し、俺に任せてくれないか」


「一体、何を??」


「王が李麟鵬に接触するのを阻止する。時間稼ぎさえできればいい」


そう言って、俺は会議室を出た。



向かう先は、山下睦月が休んでいる警視庁内の処置室だ。



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