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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第15章 中華人民共和国日本大使館第一書記官 王成明
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15-8


僕は自分の左拳を見つめていた。


……これが、僕の力なのか。


エオラさんと「した」ことで彼女の知識は僕のものとなっていた。あまりにその量は膨大で、軽く発狂しそうになったけど。

その中の一つに、兄さんの魔法——「恩寵」ともいうらしい――があった。そして、それはどうも僕にでも使えるらしいと直感で悟った。


その力は――「消去する力」。物体も魔力も消し去る力が、僕にはあるようだった。


条件はある。その力は、左拳からでしか生み出せない。

ただ、左拳に触れられれば、全ての物や魔力は消え失せる。危険極まりないが、しかし強力極まりなくもある。


それを軽く試してみた時、エオラさんは号泣した。兄さんのことを思い出したらしい。そして、彼女はこう告げたのだった。


『この力で、大魔卿を斃して』


そんな大それたことができるわけがない、とその時は思った。ただ、今なら分かる。

この力は、とんでもない能力だ。阪上のあの膨大な魔力を、一瞬で半減させられる程度には。


そして、使い方を間違えれば……これだけで日本を半壊させかねない。


この世界に戻って来た兄さんが、何故イルシアだけをターゲットにしていたのかを僕は理解した。この力は、簡単に人を殺せてしまう。加減を間違えれば、意図しない人も消せてしまう。

兄さんはやはり僕の知る兄さんのままだったと、改めて思った。そして、左拳を強く握る。


……遺志は僕が継ぐ。



刹那、背筋に寒気が走った。



何かこのビルの近くに来ている。とても禍々しい、何かだ。



スピーカーから流れる歌声がやんだ。エオラさんも、それに気付いたのだ。


『2人来てるっ!!王とエリーさんだと思うっ!!』


ぞわっと鳥肌が立った。……王と、兄さんの奥さん??

確か奥さんは……兵器のような存在に変えられているとエオラさんは言っていた。それも納得と言えるほどの、禍々しい気だ。方向からして、狙いは……


「阪上かっ!!」


僕は奴の後を追う。外に出た時に目にしたのは、上空からビルに向かって何かを放とうとする天使のような女性の姿だった。


「ちっ」


僕はジャンプする。飛行魔法の使い方もエオラさんの知識から学んでいた。

ビームのような魔法が彼女の掌から放たれる。それがビルの中にいる人たちにとって致命的であることを、僕はすぐに察した。


ビルを背にした僕は左手に魔力を集中し、ビームに触れる。焼け付くような痛みが走った。


「あがっ!!?」


消えてなくなるかと思える痛みだったが、何とか左手は残っていた。女性は無表情でこちらをなおも見下ろしている。


「……これは驚いた」


彼女の隣にいる目の細い男性が、驚きの表情を見せた。……こいつが王か。


「……あなたたちは、僕が止める」


「……今の魔法は」


その時、エオラさんが飛行魔法を使ってビルの影から現れた。翼の女性の視線が彼女へと向く。


「エオラさんっ!?」


『私も加勢するわ。大丈夫、足手まといにはならない』


視線が僕へと向けられる。どういう理屈は分からないけど、『隙は私が作る』という思念が飛び込んできた。

同時に彼女から魔力の弾が翼の女性へと放たれる。右手を掲げてさらに強力な魔法で打ち消そうとしているのがすぐに分かった。

僕はその一瞬の隙を突いて彼女へと突進する。彼女は即座に反応し、左手から青白い光線を僕の方へと向けてきた。


それは効かない。


痛みが残る左手を薙ぐと、光線はかき消えた。そして、バランスを崩しながら左拳を彼女の腹へと突き立てる。


『……!??』


戸惑いとも苦しみともつかない表情が彼女の顔に表われた。……効いている。

同時に、右掌を彼女の口へと持っていく。右手にはハンスさんから貰った手袋をはめている。少しでも口に当たれば失神する、超強力な麻酔作用のある手袋だ。


……しかし。


「効かない?」


同時に、彼女の背中から触手のようなものが生え、僕へと向かってきた。距離を取り身を捻るが、脇腹の辺りに激痛が走る。少しかすったのか?


『シュンッ!??』


「大丈夫ですっ」


兄さんの身内は殺したくないと思っていたが、それが恐ろしく甘い考えだと思い知った。

僕がやっているのはボクシングじゃない。……殺し合いなのだ。最初から全力でいかなきゃいけなかった。


脇腹からは血がかなり滲んでいる。内臓までは行っていないみたいだけど、このダメージは……かなり深刻だ。


エオラさんが僕の方に来ようとしたのを、視線で制した。彼女を傷付けさせたくはない。

出会ってまだ数時間しか経っていないというのに、こんなに情が移るなんてと自分でも驚く。人間らしい感情を、僕は今更取り戻しつつあるというのだろうか。


「かあっ!!!」


近くから何やら叫び声が聞こえた。巨大化した阪上が、王に向けて攻撃している。

だが、それは容易くかわされ、王は何か日本刀のようなもので彼を切り刻んでいた。……迅いっ。


ザンッ、と阪上の腕の一本が斬り落とされた。長さ3mほどもあろうかというそれが道路に落ち、ドスンッという重低音が辺りに響く。

事の異常さに気付いたのか、野次馬が集まって来た。エオラさんの魔法が解けたらしい組員たちもその中にはいるようだった。


「何をしてるっ、あいつを撃てっ!!!」


苦悶の表情で阪上が叫ぶ。銃口が一斉に空へと向けられた。



……刹那。



ザンッッッ



翼の女性から生えた触手は巨大な鎌のようになり、組員たちの首を両断した。……野次馬ごと。



生き残った野次馬から悲鳴があがった。

まずいっ、僕が何とかしないと被害がさらに広がってしまう!だが、この脇腹の傷は……やはり、浅くはない。行けるか??


女性は再び右手に魔力を集め始めた。……さっきとは比べ物にならないぐらいの量だ。

僕が何とかかき消すしかない。だが、できるのか??


王がニィと嗤った。僕が飛行魔法で女性へと突っ込もうとした、その時だ。



バンッッッ



女性の頭部が吹き飛んだ。続いて、王の左肩付近も。



「な……に……??」



さらに銃声が響く。今度は阪上に当たったらしい。拡声器から、声が響いた。



「そこまでだ!!!投降しろっっっ!!!」



そうだ。警察……岩倉さんはこうなることを見越していた。

万一のために住菱会ビルの周囲にSATを配置し、狙撃班を置いていたのだった。



王の傷はかなりの重症のように見えた。翼の女性については生きてはいないだろう。



……なのに、どうしてまだ宙に浮いたままなんだ??



にゅきにゅきにゅき



吹き飛ばされたはずの女性の頭が、また生えてきた。真紅に染まったそれは、どこか狂気を感じさせる。

そして、王はというと……


「ちいっ」


舌打ちをすると同時に、千切れかけていた左手が元に戻っていた。

……どんなトリックだ??


「下等生物が煩いな……『エリー』がここまで追い詰められるとは」


王がパチンと指を鳴らす。女性はさらに宙に浮かび、空へと昇っていく。

そしてその背中からは触手とも翼ともつかないものが次々と生えてきた。2mほどはあろうかという身長は、今や阪上よりも大きくなろうとしている。



僕は、震災以来の絶望を感じ始めていた。……あんなの、どうにかできるわけがない。



もう一発左拳を食らわすか?

だけど、出血量は今やかなりのものになっていた。油断をすれば意識を持っていかれるほどに。

そして、今すぐ動かないと取り返しのつかないことになるというのも直感していた。エオラさんがこっちに来ようとしているけど、何とかできる時間なんてあるのだろうか?



その時、阪上が彼女を追って猛スピードで上昇していくのが見えた。




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