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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第14章 「汎調」委員長 ハンス・ブッカー
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14-9


……これはマズったかもしれない。俺は目の前の怪物を見上げ、全身から汗を拭き出していた。それは疲労によるものだけではない。恐怖と焦りからくる汗が、半分以上を占めていた。

左腕の痛みもさらに強くなった。ここに来る前に、あのレーザーのような魔法を受けたためだ。致命傷を防ぐために咄嗟にそこに魔力を集中したが、やはり代償は小さくなかった。ノアの知識から得た回復魔法の知識を流用して騙し騙しやってきたが、それも限界かもしれない。


「町田さんっ!!!」


猪狩チャンプが叫ぶ。そこに麒龍とかいう魔族が詰めてきた。かなりダメージを負っているはずだが、相当にしぶとい。観客を護らねばならない状況の中、流石の彼でも麒龍を無視してこちらの加勢に回ることはできない状況のようだった。


……まずい。どうすればいい。


私は大きく深呼吸する。そして、今までのことを思い返していた。



「どうしたんですか!?」


左腕の激痛に耐えながら待機場所としていた神田警察署に何とか辿り着くと、猪狩チャンプが驚きの声を上げた。無理もない。左腕は赤く腫れあがり、服もかなりボロボロになっている。


「……襲われました。相手は多分、半沢誠二です。ハンスさんが……対処に当たったはずです」


「半沢……確か、『神』を宿している一人、ですよね」


頷くと、今回の防衛作戦の指揮を執る岩倉警視正が険しい表情になった。


「……まずいですね。彼の力は相当当てにしていた。単騎では向こうの世界における最高戦力と聞いてましたから、それが抜けるとなると……」


一応、昨日は彼一人で半沢と魔族の男を撃退したとは聞いている。「神」を宿しているとはいえ、「その時の」力量差はかなりあるように思えた。

ただ、左腕の痛みは半沢が昨日会った男とは別人のような魔力を持っていることを教えていた。ハンスと言えど、対抗できるものなのだろうか?


俺は岩倉警視正の方を見た。


「……最悪のシナリオは、彼が倒されることです。そうなったら、私たちじゃ対処できない。はっきり言って詰みです。だからそのことは今は考えないことにしておきます。

今考えるべきは彼が不在の時のフォーメーションをどうするかです。彼がすぐにこちらに合流できるなら問題ないですが」


「その通りですね。ただ、コンサートの邪魔はなるべくしたくない。我々警察が動くのは、本当に最後の手段です。何より、我々では魔法に対する対抗手段を現状持ち得ていない」


「つまり、俺たち2人である程度何とかしなければいけない……そういうことですね」


「厳しいですが、そうならざるを得ません」


岩倉警視正の言葉に、俺は大きく息をついた。正直、戦闘経験豊富でこうした修羅場も慣れたものであるハンスの存在に頼っていた所があった。その彼がいないとなると、必然的に俺が対処策を考えねばならない。

あるいは、それを狙って半沢は東大に来たのだろうか。だとしたら向こうも相当用意周到だ。一筋縄ではいかない。


呼吸を整え、思考を整理する。東京ドームにいる5万人もの観客を魔力の「爆弾」に変えるなら、必要なのは誰だ。


「魅惑のディア・カイルペリア」を使える阪上か、「誘惑カイルペリア」に習熟しているエオラかどちらかは必ずいるはずだ。一度に大勢を操るなら阪上、操作の強さを重視するならエオラだ。あるいは併用してくるかもしれない。

だが、彼らに人間を「爆弾」に変える力はないはずだ。昨日にしても、エオラが操った人間を別の誰かが「爆弾」に変えたはずだ。

大魔卿だろうか?確かに彼にはそれができそうだった。実際、長瀞で十数人が中にいるバスを爆発させてみせた。だが、飯能にいた方にも「起爆役」がいないとおかしい。半沢か、あるいは一緒にいた魔族の男か。


ドームに大魔卿が来ていたら正直お手上げだ。こちらに対処する力はない。ただ、彼らの狙いが戦力を割くことにあるのだとしたら……

実際、ハンスの読みは大魔卿は秩父にあるイルシアの攻略に向かっている可能性が高いとのことだった。そして、少なくともまだ彼は万全ではないらしい。

彼は、大魔卿は力が戻り切るまで本格的に表舞台には出ないと踏んでいた。東京ドームを狙って5万人を「爆弾」に変えようとしているのも、念には念を入れるということなのだろうと見ていた。


つまり、こちらに来るのは――半沢と一緒にいた、あの魔族の男だ。そして、そいつが人々を「爆弾」に変える能力者の可能性が高い。


問題は手段だ。声を通してそれができるなら、別に阪上などは必要ない。そもそも昨日もエオラが「誘惑カイルペリア」を使って30人強を確保していた。簡単には「爆弾」にできないのだ。

では、どういう手段だ?5万人を同時に「爆弾」に変えることなど、できるはずが……


……まさか。


「岩倉さん、ちょっといいですか」


「どうしました?」


「飯能で確保された、16人のことです。今、彼らは」


「念のため、別々の病院で保護されてます。何人かは、正気を取り戻しつつあるそうですが……それが、何か」


「何か持っていませんでしたか?あるいは、何かを身に着けていたとか」


岩倉は少し考え、「あっ」と手を叩いた。


「……ペンライトだ。物証として念のため保管してますが」


「それですっ!それを介して、持ち主を『爆弾』に変えるんです。勿論、普通に持っていても爆発はしません。ただ、対象を操作することで魔力をそこに流し込むよう仕向ければ……」


「それで爆発すると!?」


「可能性が高いと思います。とすれば、まずすべきは観客に配られるペンライトの没収です。多分、連中は何らかの方法でペンライトの配布に関与するようにした。産業界に影響力を持つ半沢ならできなくはないはずです。

そこに何者かがペンライトに魔力を注ぎ込み、特定の条件下でその保有者が爆発するように仕向けるんです。そうすることで、5万人の観客が同時に『爆弾』になる。それを防ぐには……」


「ペンライトの回収、そういうことですか」


俺は頷いた。


「岩倉さんは興行主に掛け合ってペンライトの回収ができないかトライしてください。興行主も操られているかもしれませんが、少なくとも本件については知らされていないと思います。

俺たちは従来の予定通り警備員に扮して阪上とエオラの捜索に当たります。俺が音響のコントロールルーム、猪狩さんは『フェスタ15』の楽屋近辺に向かう。それでいいですか」


猪狩チャンプが「異論ないです」と頷いた。ここからは、俺たちが制圧するのが先か、向こうが異変に気付くのが先かの勝負だ。



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