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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第14章 「汎調」委員長 ハンス・ブッカー
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14-3


「じゃあ行ってくる」


『うん……気をつけてね』


軽くハグし、俺はイルシアに残るノアに手を振る。自衛隊が用意してくれた迷彩のランドクルーザーの後部座席には、既にハンスが乗っていた。


「猪狩チャンプは」


「後ろの車です。この暑い中、男が3人ではむさくるしいでしょうから」


微妙な違和感をおぼえた。助手席に誰か行けばいいという話のような気がしたが、何か俺に用があるのだろうか。

ランクルは重いエンジン音を響かせながら動き始めた。ヘリで移動すればいいのではとも思ったが、「早く着き過ぎる」との理由で車での移動となった、らしい。


「すみません、ちょっといいですか」


「何でしょう」


「俺たちは、あなたについてあまり詳しく聞かされていません。高松の上司であることと、元はこの世界の人間だったらしいということぐらいです。もう少し、詳しく教えてくれますか」


「そうですね……どこから話せばいいのか。逆に、何が訊きたいのですか?何でも答えますよ」


何でも、と言われるとかえって言葉に詰まる。……少し考え、俺は最初の質問をすることにした。


「……半沢誠二のことです。あなたの、弟なのですよね。どうして大魔卿の側に立っているのか、心当たりは」


ハンスはすぐに首を横に振った。


「彼が何故向こうにいるかは、正直皆目見当もつきません。ただ、こちらに来て彼の悪評は知りました。……身内として、心苦しい限りです」


「仲は良くはなかったとも言ってましたが」


「ええ。……それを説明するには、私たちの家族の話をしなければなりませんね」


彼から微笑が消えた。


「……私たちの両親は、三河で部品工場をやってましてね。小規模ながら、腕のいい職人を何人も抱えたいい町工場でした。

ですが、バブルの時に不動産投資に手を出したのが失敗だった。地価はたちまち暴落、融資は焦げ付き資金繰りにも苦しむようになった。社員を食わせられないと悟った両親は会社を畳み……そのまま命を絶ったのです」


想像以上にヘビーな話が出てきた。どう声をかけていいか分からないでいると、「まあ、前世の話ですよ」とハンスは苦笑した。


「私は親から会社を継ぐようにと言われていましたが、警察官として人々を救いたいという思いの方が勝った。そうして警察官僚になったわけですが、その1年目にああいうことになってしまった……悔いがないわけではありません。

そして、もっと悔いていたのが誠二でした。彼には、元々異常に勘が働くところがあった。不動産投資から引くよう言っていたのも彼だった」


「『ノーデ神』の能力、ですか」


「今から思えば。あるいは私のこの能力も、転生者としてはイレギュラーな『生来の転生者』であったことも、それに由来するものであったのかもしれません。

とにかく、前から人を見下したようなところがある弟でしたが、両親の死以来それはさらに酷くなった。両親を救えなかった私をゴミだの何だと言うようになり、金にも異常に執着するようになった。

仕事が忙しかったのもあって、両親が自殺してから私が死ぬまでの2年間は没交渉状態でした」


「……半沢誠二には、俺も煮え湯を飲まされたことがあります。正直、碌な人間じゃないと思っていました」


ハンスが驚いたように眼鏡の奥の目を見開いた。


「あなたもですか」


「元は菱井物産に勤めてたんですよ。その時の話です。ただ、あなたの話を聞いて少しあの苛烈な利益第一主義の理由が分かった気がします。あなたの『死』も影響してたのかもしれませんね」


「……それについては、そうかもしれません。あるいは、それで国に対する嫌悪感が生まれたのかもしれない。『売国商人』と言われるのは、そういう行動原理だったとすれば……私にも責任の一端はある」


「……弟を、殺せるんですか」


「……彼が何故大魔卿と組んだのか、という理由にも依ります。ただ、もう彼は踏み越えてはいけない一線を超えている気もします。そうであるなら、私が処さねばなりません」


ハンスが拳を握りしめた。雰囲気こそ似ているが、こうやって話すと半沢とは随分違った人間であるらしい。


ランクルは長瀞を抜け、花園ICに近付いてきた。今の時刻が10時少し前だから、どんなに遅くとも正午前には東京ドームに着く。ライブの入場が始まるのが14時だから、時間に大分余裕はある。


「現地に着いたら、まず『魔力持ち』の捜索ですね」


「……と言いたいのですがね。下手に動くと勘付かれる可能性がある。その前に一度、東大に行こうかと思っています。世良教授がいればいいのですが」


「世良……彼も確か」


「『神』を宿している人物と聞いています。そして、恐らくは今回の件の全貌を知り得る人物です。中立を決め込んでいると聞いてますし動きはしないでしょうが、コンタクトを取る意味はある」


言われてみれば確かにそうだ。事態が急激に悪化している現状、世良教授が重い腰を上げる可能性もある。やる意味はある、ということか。


「ひょっとして、車を分けたのは……世良教授と面識がある俺と行動する必要があるからですか」


「まあ、それもあります」


関越に入ってしばらくして「そろそろ大丈夫でしょうかね」と呟く。


「そろそろ?」


「ええ。大事な話があります。ノア・アルシエルさんについてです」


「ノアについて?」


「はい。今朝貴方にお伝えしたように、貴方とノアさんの『魂の結合』は非常に強くなりました。何があったかは野暮なので申し上げませんが、それ自体は自然なことです。ですが……あまりに魔力が高まり過ぎている」


ドクン、と心臓が高まる気がした。確かに、ノアの魔力は跳ね上がった。昨日会った半沢やあの魔族にも対抗できるか、あるいはそれをも凌駕するほどに。

正直、ノアが意図した通りのことが起きたのだと喜んでいた。彼女も同じ思いだったはずだ。


「それの、どこがマズいんですか」


口にした瞬間、訊いてはいけないことを訊いた気がした。嫌な予感がする。

ハンスは一瞬躊躇った後、努めて静かに話し始めた。



「ノアさんには、魔力暴走の危険性がある。あまりに膨大な魔力を身に抱えてしまったのです」



一瞬、何を言われたか分からなかった。しかし、少しずつ理解してきた。

魔力が膨らむことはいいことだと俺は思っていた。ノアもそうであったはずだ。しかし、「暴走」とは……


「何かの、間違いですよね」


ハンスは「そうであってほしいですが」と首を振った。


「私は、彼女に近い事例を見たことがあります。ユウの細君の事例です。その時は巧みにやり過ごせました。彼女の妊娠で、魔力の一部が息子に流れたのもあったかもしれません。

ただ、彼女が過去に『軽く』暴走した際には十数人の死者が出てしまっています。そして、ここからが重要なのですが……今のノアさんの魔力は、それを凌駕してしまっています」


「でも、ノアなら制御できるんじゃ」


「かもしれません。ただ、確証はない。貴方と彼女を引き離したのは、ノアさんを戦闘する可能性がより薄いイルシアに残すためです。そして、ノアさんが暴走した際に貴方が共鳴して暴走するのを恐れたからでもあります」


「暴走ってやつが起きたら……」


「……憶測で話すのはよくありませんが、控えめに言っても秩父市は消し飛びます。それならまだマシな方かもしれません」


ハンスの言うことを信じたくなかった。「嘘だっ!!!」と叫びたかった。だが、ハンスの真剣な表情はそれが事実であることを告げている。そして、この男は異世界でも最強レベルの魔術師だ。彼が言うことが、ただの憶測とは思えなかった。


「そんなっ……じゃあ、俺はノアを抱くべきじゃなかったってのかよ……!!!」


やってしまったことの後悔と、ノアに対する申し訳なさで涙が出てきた。ハンスは「貴方たちに罪はありませんよ」と肩に手を置く。


「これは、多分仕組まれていたのだと思います。魔紋を刻んだ先代御柱、そしてそれに恐らくは加担していたであろう『大魔卿』ギルファス・アルフィード。いつかはそうなるように、あの子の身体に『爆弾』を仕込んでいたのです」


「また、大魔卿かよっ……!!!しかし、一体何のためにっ」


「そこまでは。それを知るために、東大の世良教授を訪れるというのもあります」


「ノアを、助ける方法は」


「現状は不明です。ただ、暴走させないためには魔法を使わなければいい。これは間違いないことです」


「ノアにこのことを伝えなきゃ……」


スマホに手を伸ばした俺を、ハンスは止めた。


「精神的動揺も、暴走の切欠になります。今はまだ、何も」


「じゃあどうしろっていうんですか!!このまま何も起こらないことをただ願っていろと!??」


「それも世良教授の所に行く理由です。彼は……恐らく私が一度壊した世界を修復した『ゼラズ』本人です。何らかの手がかりを持っている可能性は高い」


俺はしばらく黙った後、スマホをしまった。


「賢明ですね。今、できることをやりましょう。それ以外にはない」


ランクルは一路南へと進んでいく。俺は、王たちが奇襲をかけてこないことをただひたすらに願うしかなかった。



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