1:2のクラスメイト
階段から落ちた衝撃で体が痛い俺は歩き回るのは諦めて喫茶店でコーヒーを飲むことにした。
さっきは慣れていると言ってしまったが、階段から落ちるのなんて実際は2年ぶりだ。
俺はコーヒーと一緒に出てきたゆで卵の殻を剥きながら、当時のことを思い出していた。
(確か、前回は蓮太郎が落ちてきたんだったか……。)
足元に転がってきたボールを踏んで転んだ蓮太郎が上から落ちてきて、咄嗟に助けようとして下敷きになった結果右足を複雑骨折、右手を骨折という大惨事になったのだった。
助けてくれた恩返しと言わんばかりに、入院中から完治まで蓮太郎は生活の手助けをしてくれて今では親友と呼べるまでになったんだ。
美波もそのときに紹介され知り合った。最初は警戒されていたのがすでにもう懐かしい……。
蓮太郎に絶賛アタック中でよく蓮太郎と一緒にいた結衣も学校で困っている時などは助けてくれた、これはあくまで困っている同級生を放っておけないという一般的な善意だったので特に交流があったというわけではないが……。
トーストとゆで卵を食べ終わったところで過去を懐かしむのもやめ、来週から始まる中間テストに向けた復習をはじめた。
個人的には概ね十分な勉強ができたと思っているのだが、他にやることもなかったしもう少しここで休みたかったからやむを得ずだ。
「おっ西園君じゃん、奇遇だねぇ」
名前を呼ばれて顔を上げると一ノ宮と岩倉が立っていた。
聞き覚えのあるのんびりとした口調だと思ったら一ノ宮だったか。
「今日は珍しく一人なんだね、よかったら相席させてもらってもいいかな?」
そういったのは岩倉だ。
「構わないよ、今荷物をどけるよ。」
「あ、大丈夫だよ!」
4人席の向かい側の椅子に置いていた荷物をどけようとしたところ止められ一ノ宮さんが隣の席に座ってきた。
岩倉さんは苦笑いをしつつすっと俺の荷物を横に移動させると向かい側の席に座った。
「これで問題なし!」
「問題ない……か?」
個人的にはとてつもなく問題があるんだが。距離が近すぎる。
女性からの好意を受けるのには慣れていなくて緊張してしまう。蓮太郎が同じクラスにいる以上、恋愛的なものじゃないんだろうが。
「中間テストの勉強?来週だもんねぇ。えらいえらい。」
「何目線だよ……ふたりとも勉強は大丈夫なのか?」
「私は大丈夫だよ!秋葉はもっと大丈夫。私より頭いいからね!」
「加奈子はこんな感じだけど基本的には真面目ちゃんだからねぇ」
「こんな感じってなにさ!」
一ノ宮秋葉と岩倉加奈子って言うのか……。クラスメイトなのに名前を知らなかったとは言えない。
「ならいいんだ。まぁ俺も休憩がてらって感じだったからこれ以上勉強する必要は感じてないんだが。」
俺はそういうと参考書を閉じて軽く伸びをした。
「あれ?西園君、肘怪我してるよ?」
岩倉さんに指摘され確認すると確かに右肘を擦りむいていた。どうやらさっき階段から落ちたときにやらかしたらしい。
「ほんとじゃん!ほっといちゃダメじゃん!ちょっと腕だして!」
一ノ宮さんはそういうとカバンから消毒液と大きめの絆創膏を取り出し手当をしてくれた。
「……ありがとう。消毒液なんて持ち歩いてるんだな。」
「加奈子はお姉ちゃんだからねぇ。妹のためにいつもカバンにいれてんの。」
「家族のためか、偉いな。」
「そ、そんな。当たり前だし……。」
岩倉さんは照れたのかそっぽを向く。
「お礼になにか奢るよ。」
「!そ、それなら!奢らなくていいから今から一緒に遊びにいかない!?」
岩倉さんの勢いに少し驚きつつも、痛みも引いてきたところだしそれでもいいかと思った。
「おう、それでいいなら。遊びにいこう。」
「お!初めて断られなかった。よかったねぇ加奈子。」
「う、うん。」
な、なんだろう。そこまで喜ばれると今まで断ってきたのが申し訳なくなってきた。