妻が遺した三つの手紙
俺の手には、一通の手紙がある。
40年連れ添った妻が病で亡くなったのは、つい先月のことだ。
この館をいつも明るく照らしていた彼女がいなくなり、今は冷え冷えとした静寂に包まれている。
彼女が生きていた痕跡を残したくて、妻の部屋は手付かずにさせていた。葬式や諸々の手続きが終わってようやく落ち着いた俺は部屋に立ち入り、この手紙を見つけたのだ。
病で寝込むようになった妻とはたくさんの話をした。それでもこうしてわざわざ手紙を書いたということは……まだ俺へ伝えたいことが残っていたのだろうか。
首を傾げながら手紙を開いた俺の目に、最初の一文が飛び込んできた。
『ハロルド、私が嫁いできた日のことを覚えてる?貴方は開口一番「君を愛することはない」と言ったわね。あの時は、なんて失礼な人かしらと思ったわ』
結婚する前、俺には恋人がいた。
フルード伯爵令嬢キャスリンだ。彼女の美しさは社交界に知れ渡っており、双子の妹と併せて”フルード家の双薔”と呼ばれていたほどだ。
俺は一目でキャスリンへ夢中になった。群がる男どもの中から、彼女が俺を選んでくれた時は有頂天になったものだ。
キャスリンの美点は見た目だけではない。気立ては良く、行儀作法も完璧。教養もあり、文句のない淑女だった。双方の両親にも認められ、すぐに婚約を結んだ。
だが……悲劇が起きた。
キャスリンが病にかかったのだ。フルード伯爵夫妻も俺も出来うる限りの手を尽くしたが、半年も経たずに彼女は逝ってしまった。
キャスリンがこの世にいないなど、信じられない……。
茫然自失となった俺は何も手に付かず、ろくに食事も取らない日々が続いた。
それでも時間は無情に過ぎていく。
いつまでも独り身を貫く俺を心配した両親が、縁談を持ってきた。その相手がシャーロットだったのだ。
彼女はティアニー子爵家の令嬢で、少しぽっちゃりとはしているが可愛らしい顔立ちの娘だった。キャスリンが薔薇ならば、シャーロットは野に咲くキンポウゲだろう。
だがあのときの俺は、地味な容姿のシャーロットをキャスリンの足下に及ばない女だと思ってしまった。何度も縁談を断ろうとした。だが両親は、半ば強引に俺たちを結婚させたのだ。
そうして嫁いできた彼女へ、俺は「お前を愛することはない」と言い放った。
キャスリン以外の女を抱く気などない。結婚はしてやるが、お飾りの妻でいてもらう。生活できる分の金は出すから、好きなように過ごせ。
そんなことを宣言した俺を見つめ、シャーロットは「はい、分かりました」とだけ答えた。
『私だって、好きで貴方へ嫁いできたわけではないわ。事業に失敗した父は借金を抱えていたの。それを肩代わりする代償として息子へ嫁いでくれないか、と貴方のご両親に頼まれたのよ。
最初は躊躇ったわ。
でもご両親は貴方の事情を説明して、「若いご令嬢の人生をお金で買うようなことになり、大変申し訳ない。今のハロルドは生きる気力を失っている。貴方のように明るく聡明な女性を娶れば、息子も立ち直れるかもしれない。どうか、我々に力を貸してくれないか」と頭をお下げになったの。
相手はたかが貧乏子爵家の年若い娘よ。クリーヴズ伯爵家のご当主であれば、私の意志など無視して結婚させることだってできたでしょうに。
この方たちの義娘になるのなら、悪くはない。そう考えたから、縁談を受け入れたのよ』
両親がそこまでしていたなど、全然知らなかった。
シャーロットは実家のためにその身を犠牲にしたのだ。それなのに、俺はなんと無神経なことを彼女へ言ってしまったのだろうか……。
羞恥心に身悶えしそうだ。
あんなことを言われたにも関わらず、翌日からシャーロットは良く働いた。いつの間にか使用人の顔と仕事振りを全て覚え、適材適所な指示で家政を円滑に回す。社交にも精を出し、俺の仕事にも良い影響を与えるようになった。
屋敷全体が明るくなったように感じる、とみなが喜ぶ。
両親と共に、庭でお茶を楽しむ妻の姿をよく見かけた。二人ともシャーロットをとても気に入っているようだ。屈託のない笑顔を浮かべる彼女が、なんだかとても眩しいと感じた。
妻は俺の言いつけを守り、一線を引いた態度で接してくる。だが執務室に良い匂いを放つ香が置かれ、食後に出される茶は俺の好むものになり。
さりげない心遣いが、心地よく感じるようになった。
そんな状態でも、白い結婚は維持したままだった。あの時の俺は意地になっていたと思う。多分、キャスリン以外の女に心を開こうとする自分を、認められなかったのだ。
『今なら分かるわ。貴方はとても真面目な人。だから、元婚約者のことを忘れる自分が許せなかったのでしょう。
当時の私は、貴方のことなんて知るもんか。こっちも好きにやらせて貰うわ、なんて思っていたけれどね。
だけど義両親にはとても良くして頂いていたし、援助のおかげで実家も持ち直したわ。だからこのまま貴方を、というより伯爵家を支えるのも悪くないと思うようになったの』
手紙はそこで終わっていた。下の方に『続きはここ』という文字と共に、小さく四阿の絵が描かれている。
妻は絵心があり、特に風景画をよく描いていた。手紙にこうやってちょっとしたイラストをつけるのも得意だったな。懐かしい……。
四阿ならばあそこに違いない。俺は庭の奥にある古びた四阿へと向かった。
ここは俺たち二人の思い出の場所。あの日、この場所で俺はもう一度妻へ求婚したのだ。
蔦に覆われた四阿を造る石は、あちこちが欠けている。だいぶ古いものだからな。一度直させた方がいいかもしれない。
床の石の一つが緩んでいるのか、ガタガタになっていた。それを外した下には……封筒がある。
間違いない。手紙の続きだ。
『結婚して二年目だったかしら。バーバラ様が突然、我が家を訪れたのは』
ああ、そんなこともあったな。そんな苦々しい感情と共に、過去の記憶を辿る。
息子がようやく落ち着いたと考えた父は正式に俺へ伯爵位を譲り、領地へ隠居した。「後は頼んだ。シャーロットと仲良くやるんだぞ」と言い残して。
それからすぐのことだ。キャスリンの双子の妹、バーバラが我が家へ駆け込んできたのは。
「助けて下さい、ハロルド様!私、夫に暴力を振るわれているんです」
バーバラはギルマン侯爵令息にその美貌を見初められ、嫁いだはずだ。だが彼女曰く夫は愛妾を抱え、本邸にはほとんど帰ってこないらしい。妾にはドレスや宝石を山のように与える一方、妻であるバーバラにはドレス一枚与えない。更にはそれを非難したバーバラを殴ったという。
「酷いな。それが事実なら、あちらの有責で離婚できるのではないか?娘がそのような目に合っていると聞けば、フルード伯爵も離婚に協力してくれるだろう」
「いいえ、実家の両親も侯爵の言いなりで……。お願いです、ここへ置いて下さいませんか?使用人扱いでもかまいません。何でもしますから」
「いや、それは……」
いくらなんでも、他家の夫人を我が家へ滞在させるのはまずい。何度も諭したのだが、彼女は頑強に帰りたくないと言う。何より、キャスリンとそっくりの顔で懇願してくるのだ。俺には断れなかった。
「シャーロット、彼女を頼む」
「……あまり、よろしくないことだと思いますが」
妻にしては珍しく、俺の指示に難色を示す。
バーバラに嫉妬しているのか……?
俺は後ろめたい気持ちを隠すため、「数日だけだ。いいから言うとおりにしろ」と突き放すように言った。
「分かりました」と無表情で答える妻。
今思えば、いつも素直なシャーロットの固い表情におかしいと気づくべきだったのだ。
だが俺は楽観的に考えていた。
フルード伯爵夫妻の事は良く知っている。俺が口添えすれば、娘を受け入れるだろう。バーバラも数日経てば落ち着くだろうから、そうしたら彼女を実家へ送り出せば良い、と。
しかし何日経っても、バーバラは帰ろうとしなかった。彼女の不幸な境遇を考えると放り出すのも気が引ける。
実家のフルード伯爵家が駄目なら、その主家筋に当たるクライバー侯爵家辺りへ相談してみようか。
そんなことを考え始めた頃だった。
「ハロルド様……」
ある夜、バーバラが俺の部屋を訪ねてきた。彼女は薄い夜着一枚。こんな所を誰かに見られたら……。
「用があるなら明日に」と言う俺へ、彼女は身体を寄せてきた。
「だめだ、バーバラ。互いに既婚者なのだし、こういうことは止めてくれ」
「使用人から、奥様とは白い結婚だとお聞きしました。姉を忘れられないのでしょう?私ならば、ハロルド様をお慰めできますわ。どうぞ、姉と思ってお抱き下さいませ」
キャスリンと同じ顔で迫る彼女に、心が動かなかったといえば嘘になる。俺は必死で自分を制した。
「貴方はまだギルマン侯爵の妻なのだろう?これは不貞だ。こんなことをするなら、すぐに出て行って貰う」
「……分かりました。ハロルド様は本当に真面目な方ですね」
くすりと妖艶な笑みを浮かべ、バーバラは寝室から出て行った。
このままでは良くない。
翌朝、俺はバーバラのいる客室へ向かった。とにかく実家へ戻るよう説得せねば。
扉をノックしようとして、少しだけ開いていることに気付く。そこから話し声が聞こえてきた。
この声はバーバラとシャーロットか……?何やら言い争っているような。
「いい加減、ご実家へお帰りになったら如何ですか?」
「貴方なんか、お飾りの妻じゃない!貴方さえいなければ、私がハロルドの妻になれるのに!」
「きゃあっ」
慌てて部屋に飛び込んだ俺が見たものは。シャーロットを突き飛ばし、叩こうとしているバーバラの姿だった。
「何をしている!」
「ハロルド様!?いえあの、シャーロット様が私とハロルド様の仲を誤解して……、暴力を振るおうとなさったものですから、つい」
「そんな風には聞こえなかったが。誰が誰の妻になるって?」
バーバラが青ざめた。聞かれているとは思わなかったのだろう。
それよりも、妻だ。
俺は床にへたり込んでいるシャーロットへ駆け寄った。
「シャーロット、大丈夫か」
「あ……はい……」
「足をすりむいたのか。すぐに手当させる」
俺は妻を抱き抱え、部屋から連れ出した。後ろでバーバラが「何よ!そんな地味な女のどこがいいのよ!」と叫んでいたが、無視だ。
「すまない、シャーロット。君の言うとおりだった。バーバラはすぐに追い出す」
「はい。……助けて頂いてありがとうございました」
妻が弱々しく微笑んだ。その様子が痛々しくて、胸が苦しくなる。
俺は愚か者だ。自分にとって何が一番大切なのかも、分かっていなかった。
侍女を呼んで妻を任せ、俺はバーバラを捕まえて馬車へ押し込み、実家へ送り返した。
「まさかクリーヴズ伯爵の所へ押しかけていたとは……!」
父親のフルード伯爵は、娘が俺のところにいるとは思ってもみなかったらしい。平身低頭で俺へ謝罪し、詳細を教えてくれた。
バーバラの話したことは全部嘘だった。浮気していたのは彼女の方だ。侯爵家の親戚筋の男と恋仲になり、密会を繰り返していた。それが夫に露見し、追い出されたのだ。
実家へ戻ったものの、夫妻は怒り心頭。特にフルード伯爵は激怒し、「不貞をした女など、もはや我が娘とは思わん。修道院にでも行け!」と怒鳴りつけた。
派手好きなバーバラは、自分が修道院の生活になど耐えられないことを理解していた。そこで妻と不仲な俺に目を付けたのだ。俺を籠絡して妻を追い出し、伯爵夫人として居座ろうとしていたらしい。
キャスリンと婚約していた頃は、いずれ義妹になるのだからとバーバラにも親しみを感じていた。キャスリンとそっくりの容姿を愛らしいとすら思ったこともある。
そんな性悪女だったとは……俺の目はとんだ節穴だ。
バーバラはその後、隣国の公爵家へ妾として嫁いでいった。多額の支度金の代わりに、フルード伯爵は「今後何があっても一切、娘と関与しない」との念書を書かされたらしい。売られたようなものだ。ギルマン侯爵から請求された慰謝料を支払うためにはそうするしかなかったと、めっきり老け込んだ伯爵は語っていた。
事が落ち着いたのち、俺はシャーロットを四阿へと呼び出した。
「本当に済まなかった。バーバラの件もだが、今まで君に対して酷い扱いをしたことを謝罪する」
キョトンとしている彼女へ、俺は緊張しつつも続ける。
「俺にとって本当に大事な相手は君だということに、ようやく気づいたんだ。シャーロット。君を愛している。虫の良いことを言っているのは分かっているが、もし許されるなら……どうか、俺と真の夫婦になってくれないか」
よほど驚いたのだろう。シャーロットはしばらく固まっていた。
長い沈黙の後、妻は「はい」と答え、微笑んだ。
その顔の可愛らしかったこと……。いま思い出しても、胸が高鳴る。
そして俺たちは、本物の夫婦となったのだ。
『バーバラ様の浮気癖は、社交界で有名だったのよ。貴方はご存じ無かったようですけれど。
我が家に入れるのも嫌だったけれど、当主の貴方が迎え入れると決めたのなら従うしかなかったわ。それに、彼女がしおらしかったのは最初だけ。すぐに態度が大きくなった。着替えが無いからと渡したドレスを「私に着古しを着ろっていうの?」と投げ返されたこともあるわ。
その上、この館の女主人のように使用人たちへ命令し始めた。彼らも迷惑していたのよ。
それにあの人、貴方へ夜這いをかけようとしたでしょう?幸い、貴方は断ったようだけれど……。元婚約者とそっくりの女性ですもの。時間の問題だと思ったわ。
だから私、バーバラ様へここから出て行ってくれるように話したのよ。それを聞いた彼女は不敵な笑みを浮かべて答えたわ。
「貴方、ハロルドとは白い結婚なのでしょう?」
「……何の事ですか」
「知っているわよ。可哀想にね、旦那様に愛してもらえないなんて!……私、ハロルドに抱かれたのよ。貴方はきっと追い出されるわ。そして私がこの館の女主人になるの」
「それは嘘ね」
「嘘じゃないわ。私が彼の部屋から出ていくところを見ていた使用人がいるはずよ。聞いてみたら?」
「ハロルドの部屋へ押しかけたのは知っているわ。だけどシーツに汚れは無かったそうよ。この館の使用人を纏めているのは私。何があったかくらい、把握しているわ。相手にしてもらえなかったのは、貴方も同じでは無くて?」
それを聞いた彼女は、見る見るうちに怒りの表情になった。あの醜悪な表情といったら!貴方にも見せてあげたかったわ。
「いい加減、ご実家へお帰りになったら如何ですか?」
「夫に抱いてすらもらえない、惨めな女のくせに!あんたなんか、お飾りの妻じゃない!貴方さえいなければ、私がハロルドの妻になれるのに」
そして私を殴ろうとした所へ、貴方が駆けつけたのよ。何故あの時、扉が開いていたと思う?
貴方がバーバラ様と話をするために客間へ来るだろうということは分かっていたわ。
客間から、貴方の執務室が見えるでしょう?貴方が部屋を出るのを確認したところで、バーバラに話しかけたのよ。タイミングはバッチリだったわね!』
そこまで読んだ俺は大層驚いた。妻にはこんなしたたかな面があったのか。
優しいばかりだと思っていた彼女が……。
いや。あのままバーバラを滞在させていれば、彼女の言うとおり俺は誘惑に抗えず、一線を越えていたかもしれない。
シャーロットが機転を利かせてくれたおかげで助かったのだ。
『この四阿で、貴方は私へ求婚してくれたわね。
思い出す度に、怒りが湧いてくるわ。
今まで散々私を無視して、妻として扱わなかったくせに。いまさら愛しているなんて、どの口が言うのかしら。本当に自分勝手な人。
だけど私は「はい」と答えるしかなかったわ。
私はこの家にお金で買われたようなものだから、ここを出ていくわけにはいかない。貴方は分かっていなかったのでしょうね。私へ愛を強要したことに』
手紙を読んでから数日後。俺は海辺にあるストラの街にいた。
ストラは有名な観光地である。妻はここから見える景色が好きで、二人で何度も訪れたものだ。
二通目の手紙の最後には、海の絵が描かれていた。ここ以外に思い付く場所はない。
行きつけの宿へ入ると主人がにこやかに俺を出迎えた。
「いらっしゃいませ、クリーヴズ様。いつもご利用ありがとうございます」
「ああ。妻から何か言伝など預かっていないだろうか?」
「はい、こちらの封書を預かってございます。旦那様が来られたらお渡しするようにと」
取った部屋からは、海が見えた。開け放たれたベランダからは潮の匂いが漂ってくる。
手には三通目の手紙があるが……。俺は開けるのを躊躇していた。
俺が妻を愛したように、彼女も俺を愛してくれていると思い込んでいた。
妻は俺を許してなどいなかったのだ。
……自業自得ではないか。俺の愚かさが招いたことだ。
だからこの手紙にどんな罵詈雑言が書かれていたとしても、俺はそれを受け止めなければならない。
震える手で封を開けた俺の目に、書かれた文字が飛び込んできた。線はヨレヨレで、形が崩れている所すらある。
シャーロットの書く文字は、彼女の性格を表すかのようにスッキリと美しいものだった。だが病が悪化してからは手が震えるようになり、侍女に代筆させていたはずだ。
つまり、これは彼女が亡くなる直前に書いたものだ。
『これが最後の手紙です。ここまで付き合ってくれてありがとう。
ストラの海辺には、何度も二人で訪れたわね。子供たちが生まれてからは、彼らと共に。
本当の夫婦になった後、すぐに子供が産まれて。日々忙しくしているうちに、こんなに歳月が経ってしまった。
貴方は子供たちのことをとても可愛がってくれたわ。私に対しても、誠実に尽くしてくれたと思う。
とんでもない始まり方だったけれど、通して見れば貴方との結婚生活は悪くなかったわ。
ふふ。意地悪はこのくらいにしておきましょう。
貴方と共に歩んできた人生は、本当に幸せだった。だから、貴方と結婚して本当に良かったと思ってる。
愛しているわ、ハロルド。
シャーロットより』
気付くと俺は涙を流していた。ポタポタと零れ落ちる雫が手紙を濡らし、慌てて袖で顔を拭う。
……ああ。俺も同じだよ、シャーロット。
君と共に過ごした時間ほど幸せなものは無かった。
俺の人生に彩りを与えてくれた女性。
君を、誰より愛している――
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ハロルド・クリーヴズ元伯爵が逝去したのは、シャーロット夫人が亡くなってから一年後のことだった。
夫妻をよく知る者たちは、きっと彼は最愛の妻を喪くして気落ちしたのだろうと噂した。
子や孫たちに見守られながら妻の傍らへと埋葬される彼の手には、三枚の手紙が大切そうに握られていたという。