登場
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「全く……」
地肌が露出して久しい頭を指でかき、一人の老人が人だかりのできた大講堂を見てため息をこぼした。
………
……
…
五分前ーー。
「今日は調子に乗るなよ」
全ての授業が終わり教室を後にした私とディックは、大講堂へと続く渡り廊下を歩いていた。
向かう中で、話題はダンスにおける私の課題点になり、ディックから『昨日のように調子に乗らなければ踊れる』と注意された。
「自信はないけど……たぶん大丈夫!」
と、私がそう答えると、
「頼むからそこは大丈夫って言い切ってくれ!もう二度と人前でズボンを下ろされるのだけは嫌だからな!」
制服のベルトを押さえながら懇願された。
「……ノーコメント」
確約はできないと、顔をそらし大講堂を目指して走った。
「あ、てめっ……逃げるなー!」
「捕まえられるものなら捕まえてごらん」
「上等だ!」
逃げ足に自信のある私は、速度を緩めディックを煽ると、私を捕まえようとしたディックの手を交わし、クラウチングスタート。大講堂入り口に向かってグングン加速する。
「負けるかぁ!」
張り合うようにスタートをきったディック、だけど、その差はどんどん広がっていく。
「はい、私の勝ち!」
「はぁはぁ……くそっ!次は絶対に負けねえからな!」
膝を抱え、肩で息をするディックに向けてピース。それを見て、イラッとした様子のディックに睨まれた。
(まるで肉食獣ね……ちょっぴり顔を逸らした男子生徒達の気持ちが分かったような気がするわ)
そんなやり取りをしつつ、大講堂の扉を開いた。
「……部外者は出て行ってください」
しかし扉を開いた瞬間、大勢の男女がドアの前に立ちはだかり、前をよく見ずに入ろうとした私を多くの手が突き飛ばした。
「え……?」
体を襲う浮遊感、渡り廊下の天井が瞳に映る。
(どうゆうこと?)
頭は状況の整理をしようと動き出し、石造りの硬い床に向かって落下してることを察知した体は反射的な手を後頭部へ向かわせる。
「……っ!大丈夫か!」
私の体が床に激突しかけた瞬間、ディックが下敷きとなって私をキャッチした。
「……あ、ありがと」
ディックの温もりを感じ、遅くなっていた心臓が急にその動きを早めた。それに合わせて一時的に呼吸が浅くなる。
「気にすんな。間に合ってよかった」
安堵の息を漏らすディックは、私を抱えたまま立ち上がると、
「おい、突き飛ばす必要がどこにあった!」
大講堂の入り口で立ち塞がる大勢の生徒を睨みつけた。
「私たちは何もしておりませんわよ」
「そうそう。ぶつかりそうになったから手を前に出したらたまたま突き飛ばすかたちになってしまっただけですわ」
「変な言いがかりはよせよ」
不敵な笑みを浮かべる。
「それにわたしは昨日言ったはずですよ。ここへは練習しに来ないでください、と」
人垣の中央に道ができ、そこから優雅なステップを刻み、派手なドレスと化粧で自身を装飾したエルナが目の前へやってきた。
「僕も確かに耳にしたな」
エルナの背後からノクトスが顔を出した。
「そんなこと俺たちに関係ない。さっさとそこをどけ!」
「相変わらずの野蛮ぶりですわね。あなたのそういうところが大嫌いなのですわ!」
視線を交わし、火花をちらす二人。
「生徒会長だからってなんでも好きにできるわけじゃないって前を言ったはずよ、ノクトス!」
「ふん!前にも言ったはずだ。こんなことができるのが、そして許されるのが生徒会長という役職だ!それだけの権力が僕にはある!」
私もノクトスと睨み合う。
「……」
「……」
しばしの沈黙、睨み合う四者と成り行きを見守る生徒達。
「そこまでだ!!」
そのとき、よく通る威厳に満ちた男性の声が、私とディックの背後から響き渡った。
「「「!」」」
その場にいた全員が思わず声のした方へと顔を向けた。
「り、理事長!!」
そこにいたのは "王立学院ゼヒュロス" 第四十代理事長 ゼファイル・アルドレッド。
七十近いとは思えない程に若々しく、しかし歳を感じさせる額のしわや垂れ下がった頬は、女子生徒の憧れである四十代の教師陣でも醸し出せない色香を漂わせている。
さらに、整えられた顎ヒゲがワイルドさを、赤と茶色の法衣は高貴さを演出している。
「生徒会長……今、聞き捨てならないことを耳にしたのだが?」
普通の声量にも関わらず、よく通る声が耳の奥まで届いた。
昔、父が言っていた。
「人をまとめる人物というのはよく通る声をしている」
と言っていたけど本当だった。
「な、なんのことでしょう」
一歩また一歩と、自身に迫る理事長にノクトスはたじろぎ視線を泳がせる。
「貴様! それでも貴族だろう! 自分の言ったことにしっかりと責任を持てい!!」
その声に空気が波打つ。
「この場ではっきりと伝えてやろう。生徒会長とは、生徒の手本となり、学園生活をより良いものにするのが仕事なだけじゃ。お主の言うような権力など何一つ与えた覚えはないわ!!」
「……っ!」
「理解したのか?理解してないのか? はっきりと返事をせえ!」
「わ、わかりました!」
ノクトスの返事を受けて、ふん、と鼻を鳴らすと今度はエルナと私とディックを見た。
「お主たちのいざこざは承知しておる。しかしエルナ・エルドレッドよ。少々やりすぎだとは思わんのか?」
「何をですか? わたしは何一つ謝るようなことはしておりませんが」
本当に何を言っているのかわからない、と言った様子でエルナは首を傾げた。
「自覚なし。これは重症じゃな…… 。オリヴィア・オルソン。ディック・ファーガソン」
今度は私たちに声をかける。
「お主たちは今のこの状況のままでも良いか?それとも変えたいか?」
私たちの目を見据えて言う。
あまりの迫力に後ずさりたくなった。けどーー
「このままなんて嫌です!」
「俺もです!」
理事長の問いに即答した。
「それが例え厳しい結末につながるとしても立ち向かうか?」
「関係ありません!」
「貴族なら理不尽に対しては戦って自分の矜持を示すべき!」
私たちがそう答えると満足そうに頷き、
「うむ!よくぞ言った!」
理事長は笑った。いつも険しい表情しか見せないあの理事長が。
「ならば、この一連の因縁に終止符を打つことにしよう」
理事長は笑顔を崩し、真剣な顔で一つの提案を述べた。
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