新学期
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「今日から四年生です。これまでと違い、下級生を引っ張っていく立場です。行動一つ一つに責任を持つようにして下さい」
豊満なお腹と頬を揺らし、女性が羨むほどに白くキメ細かい肌に、うっすらと浮かび上がった汗を拭いながらマックス先生は、真面目な顔で話す。
「おい。あの二人が婚約したって噂聞いたか」
「ああ、やっぱり浮気してたって話は本当だったってわけだな」
しかし、マックスの話に耳を傾けるものは一人としておらず、
「……聞こえてるっつの」
「……」
クラス替えでまさかの隣同士になった私とディックに注目が集まっていた。
(な、なぜこんなことに……)
私は机に突っ伏し、丸まった。
「こんなことになるならあの時断っておけば……」
***
ディックと顔を合わせた日の夜。私は、公務から帰宅した父に話があると、応接室へと移動した。
そして、応接室へ移動するやいなや、要件を聞かれる前に私の方から、
「あの男と婚約するのだけは、絶対にイヤです!」
と、切り出した。のだけど……
「ならん!ファーガソン侯爵家との婚約は正式に決定した!今さら覆すことはしない!」
と、釘を刺されてしまった。
「な、なぜですか!」
「なにもへったくれもない! しかし、仮に断ってもいいが……介護だぞ?」
父は、懐から数枚の封筒を出し、その中から精巧に書かれた自画像を机に並べた。
「……」
それを見た私は言葉が出てこなかった。
ベッドに横たわり皺くちゃな笑顔がチャーミングな殿方、何人もの女性を侍らせ得意げに笑う顔の濃い殿方、杖をつき立っているのがやっとな殿方ーー
「ん? どうする? イエス、と返事をしていいのか?」
「……」
………
……
…
そして現在ーー
「おい、あんま恥ずかしい格好すんじゃねえ。俺まで変な目で見られるだろ」
耳元で、私にだけ聞こえるようにディックが話しかけてきた。
「おい、今の見たか」
「ああ、見せつけてくれるよな。嫌われ者の分際で」
それを見ていたクラスメイト、特に婚約者がまだ決まっていない者たちからは、嫉妬の眼差しと中傷を受けた。
空気読んでよ!と心の中でディックに向けて叫んだ。
(噂の私たちが、婚約したってだけでも、浮気していたっていうのは本当だったんだ、ってなってるのに、そこに来て仲良さげに話してる姿を見たら……はぁ、本当に面倒くさいわ)
貴族という噂が何よりも大好物な生き物に対して、以前から嫌悪感は抱いていたが、自分が口撃される人物になってみて改めて思った。
"貴族って本当にくだらない"
「くあああ」
人の気も知らないでディックは呑気にあくびをかます。
(人の気も知らないで……許すまじ!)
大きく開いたディックの口の中に、チョコレートを放り込んでやった。
「ん……なんか口の中が甘いぞ」
私の放り込んだチョコレートを美味しそうに頬張る。
(ふっ……これで苦手なチョコレートをなんとか消費できた)
私も苦手なチョコレートを食べずにすんで内心でガッツポーズ。
「誰も先生の話を聞いてませんね……最後に、毎年恒例、婚約者ができた方が招待されるダンスパーティーがあります。昨年のパーティー後から婚約者ができた方は強制参加ですので、その日までに婚約者とダンスが踊れるように練習しておいて下さいね」
ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴った。
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