ライバルな二人だけど同士
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曇天の空からは、ヒラヒラと雪が舞う。その雪は、換気のために開けられた窓から室内へと侵入し、私の肩に止まった。
「はぁ……今回もダメだったわ」
授業の始まりを告げる鐘の音を背に、私は医務室へと向かっていた。
"婚約破棄だ!!"
突然の宣言から一ヶ月と半月が経った。
私が浮気していたという決定的な証拠は出なかったのだけど、それでも強引に婚約は解消され、ノクトスは、ディック・ファーガソンの元婚約者である、エルナ・エルドレッドと新たに婚姻を結んだ。
学園の生徒から2人の婚姻は祝福され、私とディックは、
「おい、貴族の恥晒しだ」
「うわっ、こっち見たぞ」
「早く学園から出てけよ」
「同じ貴族として恥ずかしいわ」
貴族の恥晒し、として皆から後ろ指をさされていた。
しかし、それだけだったら良かったのだけど、あれからいろんな方に縁談を申し込んでも、
「君が噂の……この話は無かったことに」
と断られ続けていた。
貴族は横のつながりがとても大事になってくる。そして、情報が広まるのも早いので、私達が婚約破棄されたという噂は王国中に広まっていた。納得のいかない婚約破棄の理由も……。
痛み出したこめかみを抑えつつ、
「失礼します」
医務室の扉を開いた。
「ゲッ……またお前かよ」
二十畳と広い横長の室内は、半分を応接用のソファと医務員の先生の執務机、簡単な治療をする器具と器材が配置され、もう半分は二つのベッドと仕切り用のカーテンが備え付けられている。
「それはこっちのセリフよ」
そして、部屋の半分を支配するベッドに、私が最も顔を合わせたくない人物が寝転んでいた。
「なんでいつもいつも私が行く場所には、あなたがいるのよ!」
「そんなこと俺が知るか!」
婚約破棄から学園の中で居場所のなくなった私は、人気のない医務室や屋上、校舎裏で過ごす時間が増えた。
しかし、必ずと言って良いほどディックと顔を合わせた。
その度に、毒を吐き合い、睨み合った。
「噂で聞いたぞ。また断られたんだってな。これで20人目……どんな気分だ?」
見下したように言ってきたので、
「あなたこそ昨日断られたって聞いたわよ。これで25人目だそうね?……一体どんな気分なのかしら?」
煽り返してやった。
「……くっ!」
「……ぐっ!」
私とディックは視線を交差させ、火花を散らす。その距離は段々と縮まっていき、鼻先が触れそうな距離で睨み合い、
「……なぁ、もうやめにしないか」
「……ええ、なんだか虚しいだけだわ」
互いに距離を取り、ため息をつき、ベッドへ腰掛けた。
「なんでこんなことになったんだろうな」
「わからないわ。教えて欲しいくらいよ」
いわれのない罪で周りから誹謗中傷される日々に溜まった感情が溢れ出し、気がついたらスカートの裾を握っていた。
何を言っても、どんなに否定したとしても、誰も信じてくれず、向けられるのは疑いの視線のみ。
「ちくしょう……」
私が口から出しそうになった言葉を、彼が先に吐き出した。
「……って、こんなことを言っていても現状が変わるわけじゃねえか」
ふぅ……と深呼吸すると、彼は思考を切り替えたのか、
「早く昼にならねぇかな」
と、天井を見上げ、足をバタバタさせた。
「……ふぅぅ。気落ちしてても仕方ないわね」
そんな彼に影響され、私も負の感情を胸の奥にそっとしまいこみ、足をバタバタさせてみた。すると、これまでの彼との日々が思い浮かび、ずいぶんと酷いことを言ってしまったといたたまれない気持ちになり、
「ごめんなさい。その、これまで言いすぎちゃって」
と、これまでのことを謝罪したら、
「これまで言いすぎた、すまん!」
私と彼の声が重なった。
「……重なったな」
「……重なったわね」
しばらく彼と見つめ合った後、
「ぷっ……あははは!」
「ふふふふふ」
何が可笑しかったのかわからないけど、彼につられて笑った。久しぶりに心の底から。
お互いに分かっていた。いわれのない罪を被せられた者同士、いがみ合う理由などなかった。だけど、そうでもしないと味方のいない学園生活、断られ続ける縁談に心が折れていたかもしれない。
同じ境遇なだけあって、話してみると不思議なほどに話があった。
「全く、どいつもこいつも見る目ねえよな!こんないい男を振るなんてよ!」
「その考え方いいわね! そうよ! こんないい女を振るなんて本当に見る目ないわ!」
学園中に響くように2人で叫んだ。
それからというもの、互いに良き理解者を得て、時に誹謗中傷に傷つき、上手くいかない縁談に不貞腐れ、互いの価値観に理解できずに喧嘩もしたけど、それでもなんとか三学期を乗り越えた。
「お互い。この春休み中に絶対に縁談をうまくまとめよう!」
「ええ。幸せを掴んでやりましょう!」
嫌いなことに変わりはない。けど、それでも不思議なもので、熱い握手を交わし、互いの幸せな未来を祈った。抵抗感なく、自然と。
「健闘を祈る」
「あなたもね」
互いに戦友へ向けて笑みを浮かべた後、馬車に乗り込み、故郷へと旅立った、はずだった……
「あっ、あはっ、はは……嫌だー!!この女だけは絶対に嫌だー!!」
「それはこちらのセリフよ!! なんであなたと婚約しなければならないのよー!!」
「俺は、お前が嫌いだ!」
「私は、あなたが大嫌い!」
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