ダブル婚約破棄②
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七色の光が照らす草原に私はいた。心地よい風が髪を撫でる。
「テディー、あなたは今日も可愛いわ」
風の妖精シルフィーが、気の向くままに微風をふかせ、テディーベアたちが私の周りで眠る。
そんな至福の空間に、思わず頬が緩み、涎が止まらない。
"あっ!はちみつを食べるテディーベア!"
その時、私の世界に男の声が木霊した。
「っ!」
その声が夢の外からしたことを直観的に理解した私は、
「はちみつを食べるテディーベア!!」
無意識という黒い海を泳ぎ切り、現実へと帰還した。
「やあ、オリヴィア……いや、オリヴィア・オルソン」
目を開けると、そこには私の婚約者であるノクトスが、ずれた片眼鏡を直し、牧草を思わせる髪を耳にかけながら、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「あれ?はちみつを食べるテディーベアは?」
私は、だらしない姿勢を正し、ノクトスへと問いかけた。
「……お前は」
私の問いに、ワナワナと肩を揺らすノクトスは、くっきりとした青筋を浮かべた。
「……はああ、まあいい。今日は気分がいいから特別に許してやろう。それに君が 『バカ』 なのは今に始まったことじゃない」
ふん!と鼻で笑う。
「……うん。いつも通りのノクトスで安心するわね」
普通の人なら頭に血が上るのだろうけど、私の好みは、ノクトスのような意地が悪そうで、陰湿そうな男性が好み。なので、むしろ理想的な態度に胸がキュンキュンする。
そんなノクトスは、
「今日はこの大講堂で、全校生徒が見守る前で、君に宣言しなければならない事がある」
両手を広げて天を仰いだ。
「僕は今日、この時をもって君との婚約を破棄する。理由は……言わないと『バカ』すぎる君には伝わらないか」
くっくっくっ、と笑うノクトス。
本当に理想的な小悪党ぶりがタイプすぎる、と胸をキュンキュンさせ、ノクトスの笑顔に見入っていた。のだけど、
「……えっ!婚約破棄?!」
と、遅ればせながらノクトスの発言を理解した私は、驚愕し、狼狽える。
「そうだ。君は僕と言う婚約者がいながら、隣にいるその男ーーディック・ファーガソンと密会を重ね、逢瀬を繰り返した」
わたしの隣を指差す。
(隣にいる男?)
疑問を感じた私は、ノクトスの指差す方へ首を捻った。
そこには、
「……なんでこんなことに」
肩を落とし、この世の終わりを迎える直前のような顔をした男が、床をじっと眺め、何かをぶつぶつ言っていた。
「……なーい!私がこんなチンピラのような目つきの悪い男がタイプじゃないって知ってるでしょ!」
腕と首を横に振って、全力で否定した。
「私が好きなのはノクトス、あなたのような底意地が悪い笑みが似合って、一緒にいると頭にカビが生えそうなほど陰湿な人が好みなの!」
そして、ノクトスを心から愛してると伝えた。のだけど……
「誰の性格が悪いだって……」
気のせいなのだろうけど、ゴゴゴゴゴゴ……という轟音がノクトスから発せられる。
思わずその迫力に、冷や汗が額から流れ落ちた。
「婚約破棄だ!!」
大講堂に雷が落ちた。
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