ダブル婚約破棄①
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四季がはっきりと分かれたアルドレッド王国は、雪で白く染め上がっていた。
冬休みが終わり、新学期を迎えた王立学院"ゼヒュロス"
創立百周年を迎え、そのほとんどが将来、王国の舵を取る貴族子女たちが通う格式高い学園だ。
石造りの重厚な校舎、大聖堂を思わせる色とりどりのステンドガラスが輝く大講堂、運動部が汗を流す体育館など、30キロメートルと言う広大な敷地内には、数多くの施設がある。
中には、学園専用のレストランが数軒、魔法道具店、仕立て屋などが集合したちょっとしたアーケード街も存在している。
そして大講堂では、
「六年生は、学院で過ごす最後の学期となる!思い残しがないよう日々を過ごしてくれ!」
学園理事長による始業式の挨拶が終わりに差し掛かっていた。
二十分という、もはや演説といっても良い長尺な挨拶に慣れている六年生は、居眠りをして時間を潰す。しかし真面目な一年生は、理事長の話に耳を傾ける。
そして、ちょうど居眠りするものが半分、話を真面目に聞く者が半分となる三年生が座る一席で、
「……眠い」
私はうつらうつらと、瞼を上下させていた。
"いいかい。君は生徒会長である僕の婚約者なんだ。だから、僕に恥をかかせるような事だけはしないでくれ"
私の婚約者ーーノクトス・ハーフナーから長期休暇前に小言をもらった。
親同士が決めた婚約とはいえ、私は心から彼を愛している。なので、彼に迷惑はかけられないと、なんとか睡魔に抗っていた。
「スースー」
のだけど、抵抗むなしく夢の世界へと誘われた。
***
「スースー」
始業式も中盤に差し掛かった頃、理事長の薄寒い頭が光ったと思ったら、いつの間にか俺は夢の中にいた。
"起きろ!学園の恥晒し!"
夢の世界でミートパスタを作って、体格の良い男たちに振るまっていたら、突如、夢の世界が揺れた。
「うおっ!」
激しい横ゆれに耐えられず、キッチンテーブルに手をつきなんとか耐える。
「な、なんだ!」
しかし無数の手がが出現し、
「は、放せ!」
俺の胸ぐらを掴むと、もの凄い力で白く輝く光の中へと引っ張られた。
………
……
…
「んっ……」
石のように思いたい瞼を開く。
「……」
視界がかすみ、よく見えない。
「はぁ……」
しばらく目を瞑る。すると、ぼやけていた視界がクリアに。
「ん……?」
そして、いつものように見えるようになった瞳が映したのは、自身を囲む大勢の人間。
「な、なんだ?」
一瞬、夢の続きでも見てるのか?と疑問に思い、確認するように言葉にした。
「なんだ? なんて、ずいぶん余裕があるわね、ディック……いえ、ディック・ファーガソン」
そんな俺の名前を1人の女性が人垣をかき分け進みながら呼んだ。現れたのは、
「エルナ……?」
その人物ーー名を、エルナ・エルドレッド。桜色の流れる髪が美しく、学園のミスコンテストでは、三年連続で優勝するほどの美貌の持ち主。
エルナとは、家同士が古くからの寄親と寄子の関係で、今以上に結びつきを強くしようという意向のもと、十の時に婚約した。
親同士が勝手に決めた婚約話ではあったが、初めて見た時から一目惚れだった俺は、快く彼女との婚約を受け入れた。
「気安く私の名前を呼ばないでほしいわね」
しかし、いつもなら返事と共に微笑むエルナだが、今日は違った。
整った顔に皺を作り、憎々しげに俺を睨んだ。
「私という婚約者がいながら、そんな女と浮気していたなんて……よくも私の気持ちを弄んでくれたわね!愛していたのに……」
エルナが俺の隣を指差しながら、悲しい顔をした。
女、浮気、弄ぶ……
エルナから出たそれらの単語が理解できず、隣を見た。
「スーースーー」
子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、寝息を立てる茶髪の女。
お淑やかに、清く、正しく。が、モットーの令嬢にしては、豪快に涎を流し、笑みを浮かべるその姿は、本当に令嬢なのか?と疑いたくなるものだった。
「……俺がこんな女かも疑わしい奴と浮気?……するわけない!!俺がエルナを心から愛してることは知ってるだろ!」
何がどうなって浮気なんて話が浮上したのか知らないが、とにかく誤解を解くために必死に否定した。
「言い訳はいいわ。ディック・ファーガソン。あなたとの婚約を破棄するわ」
しかし、エルナは聞く耳を持たず、冷ややかな表情で婚約破棄を告げた。
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