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黒髪の戦乙女  作者: ダイフク
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8.マイクという男


ザインの逗留するこの街には大きな塔が五つある。それぞれに強固な壁に覆われて、警護に囲まれていて、容易には近づくことができない。


しかし、警護の人間を詳しく観察すれば、その違いが僅かにわかった。一番北にある塔で警護するもの達には他の塔のものと異なる緊張感が感じられる。

微かだが、夜、塔の上に灯りが見える日もある。誰かが閉じ込められているのでは無いかと思われた。



ダンカン達が様子を伺っている塔には友人のマイクが捕らえられていた。

ダンカンが恐れた通り、ザインの暗号におびき寄せられ、捕らえられた。


足首をベッドに繋がれ、首に魔封じの首輪を嵌められたマイクは、王家の血に繋がるものでは無い。だが、彼にとってダンカンとラルクは親友だった。二人がハニエルを倒す手伝いをするつもりだった。

二人に合流したいと言う焦りがあったのは否めない。ザインを信用しすぎていた事も。

ザインの暗号で呼び出されたマイクは振る舞われた茶に入れられていた薬に昏倒し、気づけば魔法を封じられ、塔に幽閉されていた。


マイクは元々平民の生まれだった。この国では魔法は王家か高位貴族しか使えない。彼らは強力な攻撃魔法を駆使し、国を守ってきた。ごく稀に下位貴族や平民に魔力を持つ子どもが生まれた場合は高位貴族に養子に入るのが常だった。


マイクの両親は小さな商店を営んでいた。マイクはそこの次男として生まれ、五歳になった年、魔力を発動した。母親は反対したが、父親は高位貴族に息子を差出し、貴族のツテを頼って店を大きくする夢を抱いた。

その頃、高位貴族のサーベント公爵家では、魔力を持つ者が生まれず、遠からず降格されるだろうと噂されていた。

サーベント公爵は一も二もなくマイクを引き取る事を承諾した。そして、引き取ったマイクは想像以上の魔力持ちだった。


十歳の頃には既に高位魔法を放てるようになっていた。攻撃魔法を得意とするマイクは、十五歳には火炎魔法において、国内随一の使い手となっていた。

その魔力を見るものは彼を恐れるか、謙るかのどちらかだった。幼い頃に両親から離され、魔法だけを教えられた少年は親しくする相手も無いまま、その年、帝国学園に入学した。


そこで出会ったのがダンカンとラルクだった。二人はマイクを恐れることなく、友として付き合ってくれた。酒を飲んでは肩を抱いて騒ぎ、川に入っては水を掛け合ってビショビショになって遊んだ。

魔法の得意ではない二人にはマイクが魔法を教えた。

楽しい日々だった。

身分の高さから、周りが遠慮する中、二人は誰にも優しく、親しげだったが、自分はその他大勢でいたくは無かった。

そのマイクに、二人は


『親友』


と、言ってくれたのだ。これ以上の嬉しさはない。マイクは一生この二人について行こうと決めた。



皇弟殿下の謀反が起きた時、マイクは隣国との戦から戻る途中だった。謀反の知らせを受け、軍が混乱する中、一人帝都に向けて馬を走らせた。あの二人なら何があっても殺し合うことはないと信じている。しかし、周りはそう思わない。手柄にしようと害そうとするかもしれない。


気がせく中、途中の街でハニエルの謀反を知った。そして、多くの命が失われた事も。握りしめた手からは血が滲んだ。

ハニエルを殺してやりたい。頭の中にあるのはただそれだけだった。


幸い、まだダンカンとラルクが死んだとは聞かない。二人を助けようと決めた。

そんな時、昔ザインに教えられた暗号を見つけた。

はっきり名前は明示していないが、誰かを保護し、ある街に匿ったので、手助けをして欲しいと書かれたものだった。

暗号はハニエル政権の貼り紙に巧妙に隠されていた。


次に暗号を目にした時には、匿うのが難しくなって来たので、場所を移す。それまでに余り日数が無い。との内容に変わった。


マイクはザインが指定する街に行き、ザインに面会を求めた。

ザインはマイクを喜んで迎え、応接間に向かい合った。

マイクはその時点では追捕対象では無いのだから、面会も普通に行われると思っていた。


街に来るまでの帝国の惨状を報告しつつ、茶をだす侍女が部屋から退き、二人になるのを待ってマイクは捕らえられている者の事を聞いた。


「まず、茶を飲みたまえ。落ち着いて話をしよう。」


言われるまま、茶を飲んだ。緊張のため、喉が乾いていたのだろう。一息に飲み干してしまった。

飲み干した後、舌に僅かな苦味を感じたが、その直後、指から、カップが滑り落ちていった。カップが落ちた音で、彼は自分が麻痺したのだと気づいた。


「暗号の塔に保護された者とは、君の事だ。君はダンカン、ラルクの仲間だ。二人と反乱を起こされては困る。しかし、殺すには君の魔力は惜しいとハニエル様は言われ、君を洗脳する事になった。だから暫くはこの街で大人しくして貰いたい。」


これを遠くなる意識の中でマイクは聞いた。自分は絶対に洗脳なんかされてやらない。あの二人とこの運命に立ち向かってやると思いながら、意識を失った。


気を失うマイクにザインは魔封じの首輪を嵌めた。硬質なカチンと言う音だけが部屋の中に響いた。




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