7.新しい仲間を求めて
ダンカンが暫く空を見上げながら洞窟の外に座っていると、後ろから麻耶に声をかけられた。
「待たせたな。これで良いのだろうか?」
「見せてみろ。」
振り返ってマヤを見、声を失った。麻耶の腰まであった黒髪がバッサリと短くなっている。切ったのか?あの美しい髪を?それとも好きに長さが変えられるのか?
麻耶はダンカンの目線に気づいて、ああと頷いた。
「髪は切った。」
「どうして……。」
「世話をしてくれる爺が居なくなったので面倒だ。」
髪を切って、粗末な村人の服を着た麻耶は、倒錯的に美しい。コイツ本当に美形だな。目立ちすぎるだろう。しかし、実力は自分の目で確認済みだ。今更助力を断るつもりも無い。仕方が無い。
「思ったより動きやすいな。私は気に入ったぞ。」
「うん。まあ、サイズもちょうど良かったみたいだな。」
「ああ。じゃあ、行こうか。」
「行こう。」
ダンカンは気分が高揚してくるのを感じた。明るく笑う麻耶を見ていると何でもできる気がしてくる。これ迄の悲愴感が払拭されていく。
そして、麻耶とダンカンは相棒として、その人生の第一歩を踏み出した。
それは人も金も、何も無い一歩だったが、何も失う事の無い故の力強い一歩でもあった。
ダンカンと麻耶はザインが兵を置く街に紛れ込んだ。街はかなり大きい街だったので、街外れの安宿に上手く宿をとる事ができた。
勿論、麻耶もダンカンもフードを目深に被っている。風雨を防ぐために旅行者が良く身につけるものだ。怪しまれる事は無い。
街を歩きながら、ダンカンはふと小さな違和感を感じた。足音が聞こえる。今まで麻耶からは足音が聞こえて来なかった。
麻耶の歩き方は不思議で、足音も立てず、歩幅も意識できない滑るような歩き方だった。
しかし、今は周りを歩く人々と変わりない。足音を立て、子どものような弾む足取りだ。
ダンカンが足元を見ている事に気づいた麻耶は笑顔を向ける。
「どうだ?」
何がどうだなのかは言わない。麻耶の目がキラキラと面白そうに光を放つ。
「驚いた。」
声を忍ばせて、イタズラが見つかった事が楽しくて仕方ないように笑う麻耶から、ダンカンは目が離せない。
「こんな事は基本だ。覚えておけ。もっと驚かせてやる。楽しみにしてろよ。」
「待て待て、喋り方まで変えるのか?それにそれは男言葉だろう。」
「当然だろう?この服は男の服だ。」
「それはそうだが。俺はあの喋り方が気に入っているんだ。」
「馬鹿か?可笑しいだろう?」
ダンカンは反論出来ずに口を閉ざした。コイツはどんな育ち方をしたんだと考える。ダンカンの事は聞くが、麻耶は自分の事は言わない。知っていることはただ一つ。麻耶にとって大切な人だった『爺』がもう居ないと言うことだけ。
それなら自分はこれからの麻耶の『爺』になろう。そう思った。