6.この国の服とは
マヤはダンカンから特徴を聞きながら、洞窟の床に似顔絵を描いていった。ダンカンは特徴を捉えるのが結構下手でマヤはちょっとイラッとしてしまったのは内緒だ。
「で、これでどうだ?似てるか?」
「おお、そっくりだ。マヤは凄いな。」
「よし、では行ってくる。」
「あ、待て。」
「なんだ。」
「その格好で行くのか?人目にたちすぎるぞ。」
「そうなのか?もしかして、皆ダンカンのような格好をしているのか?」
「そうだ。それでなくてもマヤは目立ちすぎる。どこかで着るものを調達しよう。」
「うーん。着馴れぬものは動きにくそうなんだが。私は目立つか?」
「めちゃくちゃ目立つ。まず美人過ぎる。」
「私は美人か?知らなかった。」
こんな美人見た事ないぞとダンカンが小声で呟くのを聞き、マヤは声を上げて笑った。
「そうか、私は美人だったのか。初めて知ったな。」
「鏡を見ないのか?どこから見ても美人だろうが。」
「鏡、鏡か。見ないな。興味が無い。」
「でも、その髪、丁寧に手入れされているように見えるぞ。」
「爺が毎日櫛でとかしてくれていた。もうその爺も居ないが。」
「悪い。悲しい事を思い出させてしまったな。」
「いや。いい。爺の事は大好きだった。いつでも思い出したい。」
「大切な人だったんだな。」
「たった一人の家族だった。」
麻耶は矢二郎を思い浮かべるように遠くを見つめた。当分矢二郎の元へは行けそうにない。どうか自分を見守って欲しい。そういう思いだった。
「それで、服をどうやって入手する?」
「盗むしかないだろうな。店で買えば足がつく。」
「よし。ではどこに行けばいいか指示をくれ。」
マヤはダンカンと森に近い村の手前までやって来た。
なるほど、ダンカンの言う通り、ロープに洗濯物が吊るされている。村の人間は反対にある田畑に働きに行っているようで、人目は無さそうだ。
「待っていろ。俺が盗って来てやる。」
「いいのか?見つかれば私よりも不味いだろう?」
「しかし、マヤはこちらの服が分からないだろう?」
「それはそうだな。でも適当に身につければ良いのではないか?」
「駄目だろう。服には下着も上着もある。区別がつかず下着ばかり取ってきても困るからな。」
「下着と上着では見た目が違うだろう?」
「マヤの所はどうなんだ?」
「男は褌等の下履を履くが、女は襦袢だけだな。」
「襦袢とはなんだ?」
「今着てるものと似ている。もっと薄くて体に馴染むものだ。」
ダンカンはマヤの小袖姿をまじまじと見直した。あれ?これと一緒?下、スカスカ?
思わず想像したら顔が熱くなってきた。これは早く服を着せなければと妙な義務感に襲われる。
「どうした、ダンカン。顔が赤いぞ。熱があるのではないか?無理せず、私に任せろ。」
「いや、いい。俺が行く。お前は決してここから出るな。絶対出るなよ。」
「そんなにしつこく言わなくても大丈夫だ。お前が戻って来るまでここで待つ。」
「そうしてくれ。」
ダンカンは両手で頬を叩き、気合いを入れ直して村に足早に向かった。人目に触れないよう身を屈め、女性用の下着と男性用の上着数着を手早く盗ると、代わりに残った洗濯物のポケットに金貨を一枚入れた。
この国で、金貨一枚あれば、4人家族が二ヶ月は食べて行ける。これで新しい服を買って欲しい。
誰にも見られることなく、無事に村を離れると、ダンカンは洞窟に戻ってきた。マヤに服を差出し、自分も服を着替える。
「ダンカン、これはどう着たら良いのだ?」
ダンカンはこれが下着で、先に身につけること、上着はその上に着ることを教えて、着替えの間、洞窟の外に出た。
そうしないとマヤはダンカンの目を気にもせず、着替えを始めようとしたからだ。
── 少しは照れてくれよ。俺が恥ずかしいだろ!
矢二郎に全ての世話を焼かれていた麻耶には分からない。
ダンカンは少しだけ胸の奥がザワつくのを感じた。