4.新たなる旅立ち
ダンカンと麻耶は山の中の洞窟に居た。
麻耶は項垂れるダンカンを見ながら、これからの事を思った。どうやらこの男は命を狙われているだけでなく、随分と立場が悪いようだ。
いつ殺されるか分からない。では、自分はどうする?元々矢二郎の後を追おうとしていた身だ。命が惜しい訳では無い。
では、この男を活かしてみるのも面白そうだ。
そう、面白い。矢二郎に教えられたものを全て使って、この男の望みを叶えてみよう。つまらなくなれば去ればいいだけの事だ。
空が明るくなり、洞窟にも光がさしてきた。ダンカンの金色の髪に朝日が当たり、キラキラと輝いた。
聞いた事の無い名前だったが、金色の髪を目にするのも初めてだった。麻耶はその髪を美しいと思った。
「ダンカン。」
「……」
「ダンカン、話を聞かせて欲しい。」
ゆるゆると顔をあげたダンカンの瞳は空のように蒼く、日に焼けた引き締まった顔は整っていた。麻耶は蒼い瞳を見るのも初めてで、その瞳に釘付けになった。この瞳にいつも自分を映して欲しいと思った。
一方、ダンカンも驚いた。変わった喋り方をする、声変わり前の少年だと思っていた。
麻耶は象牙色の肌、癖のない真っ直ぐな水を含んだ様な黒髪。吸い込まれるような黒瞳、見た事も無い神秘的とも言える美少女だった。10歳ぐらいだろうか。話す言葉よりも随分と幼い。
これは駄目だ。こんな少女を自分の運命に巻き込んではいけない。
「マヤ、すまない。ここで別れよう。迷惑をかけた。」
「なぜ?」
「俺は最後まで戦うつもりだ。死んでもせめて僅かでも抗ってやりたい。でもマヤはまだ幼い。これから幾らでも楽しい事もあるだろう。死んで行くだろう俺に付き合わせることはできない。」
「死ぬつもりなのか?」
「状況は悪い。」
「そうか。では、その命、私が貰おう。死んでも良いなら構うまい?」
「どういう意味だ?」
「そなたの話を聞こう。ダンカンは私の駒として使ってやる。あぁ私の事は気にするな。先程の奴ら程度ではかすり傷ひとつ負わぬであろうよ。私はする事が無い。良い暇つぶしだ。面白そうなので、そなたの望みを叶える手助けをしてやろう。」
「自分が何を言ってるか分かってるのか?」
「勿論だ。私はもう子供ではない。ダンカン、そなたは私が何歳だと思っているのだ?」
「10歳かと……」
「……。ダンカンは何歳だ?」
「18だ。」
「なんだ、4つしかかわらぬ。私は14歳だ。」
「え?」
「なんだ。失礼な奴だな。確かに胸は小さいが、これから育つ予定なのだ。」
「いや、そんなつもりでは……。いや、え、14?」
「さぁ、どうする?私の駒となるか?それとも私の助力を得ながら、己の力で運命を切り開くか?私が手を貸す限り、敗北は認めない。腹に力を込めて心して答えるが良い。」
艶然と微笑むその姿にダンカンは呑まれた。体に力が漲って来る気がする。
「わかった。自分の運命だ。自分の力で切り開く。マヤ、俺に力を貸してくれ。」
「心得た。」
ダンカンの顔にも笑顔が広がる。笑ったのはいつ以来だろう。負け戦と卑屈になっていた。まだ自分は何も始めていない。諦める必要は無いじゃないか。
ダンカンはマヤに手を差し出した。分からず首を捻るマヤの手を強く握りしめ、
「よろしく相棒。」
と、言った。ダンカンはその時のマヤの弾けるような笑顔をこの先ずっと忘れないだろうと思った。