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黒髪の戦乙女  作者: ダイフク
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2.見知らぬ世界


海に飛び込んだはずの麻耶姫は、目を覚ました所が、山の中である事に驚いた。


ありえない。ここは何処だ。


身につけていたのは姫とは思えない小袖。家の中なので、刀は身に帯びていない。懐に忍ばせた暗器のみ。

山の中となれば、獣も出るかもしれない。

一度死のうとして死ねなかったせいなのか、もう一度死のうとは思わなかった。きっと矢二郎も叱るだろう。

まだ何も成していない。せめて、なにかなさねば、矢二郎の恩に報いる事もできない。


麻耶姫は空を見上げた。周りは既に夜の帳がおり、細い月が弱い光を照らしている。

耳を澄ませば遠くで剣戟の音がした。人がいる。

矢二郎に教えられた体術で、気配を絶ち、木々を渡り、音のする方に近づいた。


木の上から見下ろすと、一人の男に複数の男達が斬りかかっていた。男達は見たことの無い物を身につけ、見た事のない武器で、戦っている。腕は襲われている男が一番だが、相手が多すぎる。十人はいるだろう。徐々に傷が増え、押されているようだ。

それなら、押されている男を助けてみよう。今いる所のことを教えてくれるかもしれない。


麻耶姫は袂から紐を取り出し、髪をひとつに括ると、クナイを両手に握り、音もなく木から飛び降り、男に致命傷を負わせそうな男の腕を切り裂いた。


襲っていた男達は全員覆面をしている。


──顔を隠すのは悪者だろうな。それなら遠慮は要らぬか?


突如現れた麻耶姫に覆面の男達は動揺したが、一人だと見くびったのか二人ばかりが麻耶姫の方に近づいて武器を向けてきた。


「危ない。逃げろ!」


不思議に言葉がわかる。襲われていた男が必死に麻耶姫を助けようと近づこうとして、阻まれている。


「この男達は殺しても良いのか?」


落ち着いた声音で確認したが、それに煽られたのか、近づいてきた男達が武器を振り上げて突進してきた。


「襲うなら、相手の力量を測れ。愚か者め。」


麻耶姫は滑るように二人の間を抜けた。何が起こったのか彼らは二度と知ることは無い。麻耶姫のクナイは二人の首の後ろの急所を一突きし、二人は音もなく倒れていた。


「次に死にたいものは誰じゃ?」


男達に動揺が走った。誰にも麻耶姫の攻撃は見えなかったからだ。ただすれ違った。そのようにしか見えなかった。


静かに麻耶姫が一歩進むと、男達は三歩下がった。さらに一歩進むと、男達は逃走して行った。

麻耶姫はその後姿を見送りながら、襲われていた男を見た。


「無事か?」

「ああ。助かった。感謝する。」

「構わない。」


間近で見ても男の服装は見たことが無い。ここは日ノ本では無いのかもしれない。


「ひとつ聞く。ここはどこだ。」

「どこって……アナルシア帝国だが。どこから来たんだ?」


言葉は通じるが、聞いた事の無い国だった。どうやら神隠しのように、見知らぬ所に来てしまったらしい。


「見慣れない姿だが、行くあてはあるのか?」

「無い。」

「では、俺と来ないか?お主のような腕のたつものに同行して貰えると助かる。頼む。」


男は姿勢を正すと麻耶姫に向かって頭を下げた。

どうせ行く所もない。ついて行ってみよう。そう、麻耶姫は思った。


「行く所もない。同行しよう。」

「助かる。俺の名前はダンカンだ。」

「麻耶だ。」

「麻耶か。今夜は暗くて、お互い顔がよく見えないな。明るい場所に着いたら改めて自己紹介させてもらう。」

「わかった。」

「では、急ぐぞ。」

「うん。あ、そうだ、ダンカン、私は金を持っておらぬ。私が金を手に入れるまで、金をかしては貰えぬか?」

「金を持たずに旅をしているのか?それも子供一人で?」

「そうだ。」

「金の心配はするな。大丈夫だ。お前は俺の命の恩人だからな。全て面倒を見るぞ。」


ダンカンは楽しそうに笑った。笑い声が少し矢二郎に似ている気がして、麻耶は少し切なくなった。


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