0-001.お約束のプロローグ(お前は置いていく!)
代表者が話す。
「みんな集まったな?我々はついにアセンションの許可を取り付けることができた!各自フェイズシフトの準備を進めるがよい。この島は機能を停止し放棄とする。ヤァボ、ホゥザ、計画を頼む」
話の内容がいまひとつ理解しにくいが、おそらくこの島を放棄して移動することを指しているのだろう。
そして代表者が自分に振り向き、衝撃の方針を示した。
「スピカ、お前は置いていく!島は閉鎖とするので大陸に出て行ってもらう!」
「トゥガ、どうしてですか!?なぜウチは連れて行って貰えないのですか!」
「まだお前の精神は拙い!よってお前は対象外となった」
「十分高いと思いますが…」
スピカは戸惑う。
「それは我々が与えた知識と技術だけだ」
トゥガは静かに答える。
「この世界で生きていくのに十分な教育をしてやったのに贅沢だぞ!」
「孤児のお前を今まで育ててやったことに感謝すべきだ!」
「お前の存在に我慢していたんだ!」
「お前に我々と一緒にいる資格なんてないぞ!」
「今のお前ははっきり言って不良品だな!」
今まで優しかった人達の態度が豹変する。
「お前たち…」
トゥカが苦笑しながら島民に発言する。
「無理に合わせなくても良い」
「感謝してる………つもりです。もっと従順になりますので、どうか連れて行ってください!」
スピカからの表情からはいまいち感情は読み取れないが言葉は必死だ。
「そうではない。お前は十分すぎるぐらい素直だ。だが、欲求や判断力の先の思考力や感情…いわば心というものが足りず、我々が向かう新たな地はそんな心が薄ければとても生きていくには厳しいのだ」
「それは置いていく理由には苦しいと思いますが…」
「本当だ。お前はなぜ生きている?何をやりたくて今まで生きてきたのか?我々の言うことを全て聞くことがお前のやりたかったことか?心の声に耳を傾けたことはあるのか?」
「いえ、まだよくわからないです」
「もちろんお前の記憶の回復も大事だが、何より自らの意思が大事なのだ!だが、どうしても我々と共にしたいというのであれば最後のチャンスをやろう。呪われた大陸に出て300日間過ごせ!」
「何をすれば正解なんでしょうか?」
「それはお前自身が大陸に出て、何かを感じ、それを考えるだけでなくどう気持ちで受け止めて、思考と感情の狭間で行動に移すことだ。抑制している感情をもっと剥き出しにしてみろ!人間は感情が過ぎる場合があるが、お前はまるで感情のない機械人形だ。もっと大胆に行動してみろ!時には世界を揺るがす程度の事はやっても良いだろう。戻ってきた時にどれだけ成長したか審査してやろう」
「移動は300日後ですか?」
「くどい!審査は300日後に行うとだけ知れば良い!」
「……………わかりました」
スピカは不承不承答える。
「だが緊急時にはお前が心の底から連れてきたいと思う人間がいれば帯同させても良い。審査はお前だけなので安心するが良い。だが一生戻らないと思えば、審査までに戻らなくても良いぞ?」
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会話後の一瞬で転移術をかけられ、どうやら大陸の海岸に飛ばされたようだ。
なぜか今まで訓練で使用した兵装や道具をあらかた持たされていた。
「これからどうしよう?」
今までは島で言われるがままに奉仕に価値の中心を持って生きてきた。出される課題や厳しい訓練にも耐えてきた。
だが、島民の罵倒を思い起こすだけで久しく忘れていた悲しい感情が小さな灯となって心が僅かに揺さぶられる。
スピカはトゥガの最後の発言を吟味していたが、やがて小さな感情・気持ちを重視してわがままに生きてみようと決めた。