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ベビーカー

作者: デクテール

ご無沙汰です

道の脇にベビーカーがある。

まるで工場から突然ワープしてきたかのように新品のきれいなベビーカーだ。

今にも雨が降り出しそうな日曜の昼下がり。

母親は……いない。

なぜこんな所に置き去りなのだろう。

散歩の途中で急用ができて母親はどこかに行ってしまった。

こんなに雨が降りそうなのに散歩?

いや、それよりも。

どこの世の中に道端に赤ちゃんを置き去りにしてどこかへ行く母親が居るだろうか。

赤ちゃん?

そうだ。

中に赤ちゃんがいるとは限らないんだ。

なぜ新品のベビーカーが単体で放置されているのかは分からないが赤ちゃんの放置よりよほど穏やかな出来事だ。

つまらないことではらはらした自分が滑稽で笑みがこぼれる。

私はベビーカーに背を向けてもと来た道を引き返しだした。

なぜ?

なぜベビーカーの中身を確かめない?

厄介事に巻き込まれるのが嫌だから?

違う。

なぜベビーカーの横を通り過ぎない?

なぜ引き返す?

口元には笑みが浮かんだまま。

首筋を冷たい汗が流れ落ちる。

何を考えているんだ。

ただ引き返すだけだ。

ただの気まぐれだ。

何も起きてない。

不意に後ろからけたたましい赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

やっぱりあのベビーカーの中には赤ちゃんがいるんだ。

ぽつり、ぽつり、雨が降り出した。

泣き声がいっそう強くなる。

意を決して振り返る。

可愛らしいピンクのベビーカー。

デフォルメされた天使が描かれている可愛らしいベビーカー。

いよいよ雨が強くなる。

さらに強くなる泣き声。

母親は何をしている。

母親は『いる』のか?

柔らかなピンクが水を吸って黒ずんできた。

雨のかからないところに移動させなければ。

その前に足を。

本能の告げる得体の知れない恐怖に竦んだ私の足を動かさなければ。

唐突に泣き声が止んだ。





ジャリ




後ろから足音がした。

振り返るまもなく私のすぐ横を真っ黒な何かが通り過ぎた。

通り過ぎる時どぶ川の臭いがした。

私は転げるようにして逃げ帰った。

雨は止みそうに無い。



アレはきっと母親だ。

アレが近づいた時ベビーカーから無数の細長い手が溢れ出て、まるで赤ちゃんのようにアレに向かって手を伸ばしたから。


母親は『いた』。

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