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ユートピア 番外編倉庫  作者: 吉田 要
第Xmas部 Jingle Bells
2/2

XXX Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!

20/12/25

*本話は本編と全く繋がりの無いパラレルワールドの話です。本編と辻褄の合わないところなどありますが、ご了承ください*

*キャラ崩壊等もあります*


21/1/3

移植しました。

 もう何日くらいこうしているだろうか。緊張疲れで任務中とはいえ、寝てしまいそうである。

 一方でこうした長旅には慣れているらしく、オリエッタとペトロニーユは延々と途切れることなく話し続けていた。

 ・・・いい加減、聞くしかない。聞かねばこのままずっと旅をしていそうである。遠くてもせめて目的地だけ・・・

「・・・あの」

「着いたみたいね!」

 いざっと思った瞬間、馬車が止まりオリエッタが嬉しそうに言った。

 運というか、間というか、自分の悪さにハァとため息をついていると、御者が開けるのを待ちきれなかったのか、興奮気味のオリエッタがバンッと戸を開けて馬車から飛び出した。

 すぐに身も凍るほどの冷気が馬車の中へ吹きつけてきた。あまりの寒さに思わず身を震わせる。

「オリー!はしゃぎすぎですよ!」

と、すぐにペトロニーユが唇を尖らせた。

 本来は御者の開けた戸からまず私が一番初めに出て、安全を確認し、後に二人が降りるはずだったのだが、思わぬアクシデントである。

 どうしようかと顔をだんだん青くする私に、ペトロニーユが笑って背中を押した。

「主役は私たちだけじゃないわ」

 どういうことだと首を傾げながら、急かされるままに馬車を降りる。

 前を見てハッとした。


 見える範囲全てに一面の銀世界が広がっていた。


 勿論はっきりと見えているわけでは無いが、印象の強い一色位なら私の目にも映る。

「これは・・・」

「クリスマスプレゼントだよ、ジェーンへの」

 いつの間にか横に立っていたフェリクスがそう言って笑った。

「・・・私への・・・?」

 改めて視界一杯に広がる雪原に目をやった。顔に吹きつけ、鼻の頭を赤く染める風に、どこまでも美しい銀色。

 懐かしい故郷と同じ風景がそこには広がっていた。

 ああ・・・

 静かに息を吸った私の横で、フェリクスが雪に膝をついて意味ありげにこちらを見上げた。

「お気に召していただけましたか?姫」

「ああ。ありがとう・・・」

 頷いた私にフェリクスも嬉しそうに笑った。

「ふむ。余の前で随分と熱いではないか」

「へ、陛下!」

 いつの間にか後ろに立っていたエヴァンジェリスタ二世に慌てて首を垂れる。

 そんな私たちに彼はカッカッカと笑うと、「よいよい」と手を振った。

「余とて浮かれぬ日が無い訳ではない。今日は無礼講だ。ホレ」

 バムッとフェリクスの顔に雪玉が当たる。ハッハッハと高らかに笑うエヴァンジェリスタ二世に、今度はペトロニーユが雪玉を投げつけた。

「・・・余は皇帝だぞ・・・!」

「あら、無礼講と仰ったのはあなたですよ、陛下」

 思わずプッと笑いだしてしまった私の後頭部にバスッと雪玉が当たった。

「よそ見ぃ?」

「殿下・・・やってくれましたね!」

 雪を掬ってブンっとオリエッタに投げつける。

 次第にその雪合戦の輪は広がっていき、スヴェンやカーラ、果てにはしぶしぶついてきたようである法王フィオレンツォ七世まで巻き込まれていた。

 こんな夢中になって雪で遊ぶのはいつ以来だろう。

 ドサッと雪に倒れ込みながら、私は頭の底に眠った懐かしい記憶を思い起こした。

「・・・フフ、最高のクリスマスプレゼントだな」



 結局のところ、ここダキア総督領リュヴォビドへ来たのは、皇室及び教会上層部による丘の上にそびえる古城での休養とクリスマスを祝うためであった。本当は今年はビュザスでクリスマスを迎えるはずであったが、フェリクスの提案を受けたオリエッタの要望とエヴァンジェリスタ二世の同意によってこうしてそれが実現したというわけだ。

 よもや自分の放った「雪が懐かしい」という言葉がここまで大きくなると思っていなかった私にとって、それは恐れ多いとともにまたとてもうれしかった。

 夜になるとリュヴォビド城での大きな晩餐会が開かれ、近衛兵も多くが参加した。

「あのねぇ、こんなこと本当にないわよ。本当にないの。わかるぅ?」

「わかる、そんなに何度も言わないで」

 いつもは人形のように真っ白な顔を真っ赤に染めて、ベロンベロンになったアンナが私にしつこくじゃれてくる。

「むふー。あなたが幸せ者でよかったわぁ~!」

「嬉しいのはわかったからそんなに揺さぶるな」

 ガシッと両肩を掴まれて揺さぶられると、強いとはいえ私も酒が回ってくる。

 呑むたびにこうして絡み酒になるアンナを、さてどうしたものかと思っていると、隣の席にドンッと誰かが腰を下ろした。

 しつこくない爽やかですっきりした香水の匂い。

「メリークリスマス、ジェーン」

「ヴィーラン、風邪はもう大丈夫なのか?」

「おう。まったく、病み上がりの人間をここまで引っ張ってくるかね普通」

 苦笑するヴィーランだったが、その声はもう普通のもので完治したようである。

「ヴィー、先輩にお酌してくれー」

「スヴェンさん、呑み過ぎじゃないですか?」

「この世で最強なのは酒の可能性もある。なら俺は酔い死ぬぞ」

 訳の分からないことを言うスヴェンに、律儀にヴィーランが酌をしてやると、カーラが灰皿にタバコを押し付けながら「バッカばっかね」と笑った。

 宮仕えだ前線派遣だと目まぐるしい毎日を送る私たちにとって、こうしてバカ騒ぎできる機会はこの先、指で数えられるほどしかないだろう。

 ・・・私には出過ぎた幸運かもしれないな

 でも、ここが私の居場所だ・・・!



「昔を思い出すな!ガハハハッ!」

「いつにも増して陽気じゃねぇのよ、ロロさんよ、と」

 うまいうまいとわんこそばのようにビールを次々と飲み干すロロに、エイト=ブラハムが呆れた顔で「歳を考えなさいよ、と」と諫める。ロロは「構わん構わん」と一向に耳を貸さなかったが・・・

「後で倒れても知りませんよ」

「ガハハ!貴嬢は手厳しいな!」

「二人目の酔っ払いまで世話はしきれませんから」

 いつも通りメガネをキラッと光らせながら、顔色一つ変えずティサがワインを飲みながら告げる。目の前にはエスクロフトが突っ伏している。

「ぼかぁ、もう呑めないよォ・・・」

「なんや、弱音吐いて。もうちょいいこうや?」

「ギュンターフィック殿、強要はいけませんぞ」

 エスクロフトに酒を注ごうとするカルヴィンの手をアラルラが止める。「なんや、意外に厳しいねんなぁ」と唇を尖らせるカルヴィンの手から、通りがかったオレスティラがグラスを奪った。

「ああ、こら驚いたわ。君、こういうん参加しぃひんと思ってたわ」

「・・・」

 彼の言葉にも答えず、オレスティラは空になったグラスをドンッと机に置くと食堂から去って行った。

「・・・相変わらず連れひんなぁ」

「最低限の参加はしたって事なんでしょう。とても彼女らしい」

「しゃあないわ。ほな今日は付き合ってもらうで、ラルラ君にティサちゃん?」

 突然話を振られたことに、ポーカーフェイスのティサも流石に微笑を浮かべた。

「・・・酔っ払いの相手はしきれませんね」



 みんなが囲む長机から、少し離れた上座にある席。

「フン、中々な酒だ。最高ではないが悪くない。そう思わんかベル?」

「陛下の前ですよ、もう少し言葉に慎みを持たせたらどうですか、バルテルミ。要は気に入ったということでしょう?」

「お前はその、すこし厳しすぎやしないか?」

 近衛砲兵団長バルテルミはその太った体を揺さぶりながら、抗議の視線をガリガリに痩せた銃兵団長ベルトランに向ける。

「近衛の肉塊と骸骨が安酒の談義で盛り上がるか。いささか滑稽に映るな」

「・・・そう仰られる法王猊下も、先ほどから随分とその安酒をお飲みになっていらっしゃる。お気に召したのでしょうか?」

「・・・口に気を付け給え、ゲクラン伯爵」

 フィオレンツォ七世はその長い白眉の下からベルトランを睨みつけた。もっともベルトランとバルテルミは彼の言葉をまるで気にしていないかのようだったが。

 そんな三人の様子を面白おかしく眺めながら、エヴァンジェリスタ二世は優雅にワイングラスを揺すった。

「分からんのだ、奴等にはこの高貴な酒の味が」

「あなたには分かるの?」

「ああ。血に飢えた戦士の舌でも、毒にまみれた宗教家の舌でも感じられずとも、余の舌で感じられる。・・・もっとも余は戦えんし、宗教も分からんがな」

「それと妻を喜ばせる方法もね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべるペトロニーユに、エヴァンジェリスタ二世はフフと笑った。

「かなわんな、お前には・・・」



 月の光がステンドグラスに差し込み、真っ暗な教会の中を鮮やかに、しかし怪しく彩る。

 城内に併設されたこの教会は、皆が晩餐会を楽しむ食堂と打って変わって静寂に包まれていた。

「・・・ここにいたんですね」

「おやぁ、ラフェンテ卿。生憎と宴は苦手でね」

「また貴方は息を吐くようにウソをつく」

 ブランデーの小瓶を手にしたラフェンテがメインデルトの隣に腰を下ろした。

「嘘も方便って言うだろう?」

「泥棒の始まりとも言いますよ?」

「全く・・・食えないよねぇ、君は」

 メインデルトも葉巻を灰皿において、持っていたウィスキーのボトルを傾けた。

「珍しいですね。ウィスキーを飲む印象はなかった」

「いやぁ、ウィスキーはあんまり好きじゃないからね。普段は飲まないさ」

「今日は飲む気分だと?」

「・・・というか、食堂に置いてあって懐かしくなってね。この銘柄は僕の師がよく飲んでいたんだよ。彼みたいなかっこいい大人になりたくてさ、大して飲めやしないのにかっこつけて飲んでたんだ」

「その気持ちは分かるような気がしますよ。私も初めは得意じゃなかった」

 ブランデーの瓶を揺すりながらラフェンテは苦笑した。

「でも、あこがれるんですよね。かっこいい大人ってのに。・・・柄じゃないですが」

「存外気が合うもんだねぇ、僕らもさ」

 メインデルトの言葉に、ラフェンテは「さあ」と首を横に振った。

「・・・それはどうかわかりませんね。でも・・・こうして貴方と語れるとは思っていませんでした」

「ジェーンちゃんがいなかったら、こんな機会なかっただろうねぇ」

「時折、彼女がガラリと変えてしまうような気がするんです。騎士団や、この国を。・・・良くも悪くもね」

「・・・変わるのが怖いかい?」

「いいえ。それに老兵は若い力を阻むことはできなくても、彼らに知恵を貸すことはできますから」

 暫くの静寂が続いた後、ラフェンテは「さて」と言って席を立ちあがった。

「私は戻りますよ。呑兵衛ばっかりなんだ、カーマイン卿にばかり酔っ払いを任せていたら可哀そうですし」

「おや、そうかい。てっきり僕はまた何か詰問されるものかと」

「そう思っていましたが、やめました。なんたって今日は、クリスマスですから」

 コツコツと足音を響かせてドアまで歩いたラフェンテだったが、思い出したようにメインデルトの方へ振り返った。

「ただ、クリスマスならプレゼントがあっていいかもしれませんね。貴方の目的という名のプレゼントが」

 プッとメインデルトは吹き出して笑った。「君は本当に面白いねぇ」とひとしきり笑った後、彼はニヤリと思わせぶりな笑みを浮かべて言った。

理想郷(ユートピア)のためさ、全てね・・・」



 食堂をこっそりと抜けて通用口から外へ出る。

 アンナの絡み酒からも逃げたかったし、酔いも覚ましたかったし、途中からどこかに消えたフェリクスのことも探したかった。

 昼間と打って変わって無風の雪原は、私の体を肺の奥底からじっくりゆっくりと冷やしだした。一歩間違えれば死ぬかもしれないような寒さだが、それでも今はそれが気持ちよかった。

「・・・なんだ、ジェーンも抜け出してきたのか?」

 声の方に顔を向ける。見えるわけでは無いが、彼がそこにいるのが分かった。

 墨のような惹きこむようで心地の良い匂い。柔らかく優しいが、時に熱くなる声。

「フェリクスがいなくなったからな」

「なんだよそりゃ。そんな恋しかったのか?」

 からかうようにフェリクスが笑うが、私はそんな彼を無性に茶化したくなった。

 今困らせたら、どんな反応をするのだろうか・・・

「・・・そうだと言ったら?」

「ッ・・・!」

 隠すように腕で顔を覆ったフェリクスに逃がさじと距離を詰める。そっと顔を寄せた私から逃げ出す程、フェリクスは意気地がないわけでは無かった。

 彼の吐息が私の顔をフワッとくすぐった。

「まだ、私からのプレゼントは渡していなかったな」

「ジェーン・・・」

 冬の寒さに彼の唇は硬く冷たかったけれど、私の唇を受け止めるのには十分なほど柔らかく、陽だまりのような温かさがあった。

 戦いという最悪の出会いだったのに、ここまでずっと一緒に戦ってくれて、一緒に笑って涙を流して・・・

 ジワッと溢れた涙が頬を伝い、やがて雫となって宙に舞う。

 自分の気持ちに素直になる時が来たのかもしれない

「ありがとう、フェリクス。私は・・・」

 言うんだ

「私は・・・!」

 今・・・!


バアン!

 言葉を続けようとしたその時に後ろで大きく通用口が開けられる音がした。続いて「おろrrrr」というおぞましい声が脳裏に響く。

「うああ、気持ちわ・・・る・・・」

 口元を拭う手を止めて、カーラは今世紀最大の気まずそうな顔を浮かべた。私たちの様子を見て、「失礼しました~」と帰ろうとしたが、さらに通用口から二人出てきた。

「スヴェンさん、ここで吐いたらダメですよ!!もうちょっとですから!!」

「うぅ・・・死ぬぅ・・・」

 ヴィーランに担がれたスヴェンがカーラと同じようにぶちまけるが、その横でヴィーランも状況に気づいて完全に「しまった」という顔だった。

「バカ、早く戻るわよ・・・!」

「分かってますよ!ってスヴェンさん!!」

 小声でひそひそと話すカーラとヴィーランを他所に、スヴェンは私たちに気づいたようで、スッキリとした顔で「おお!」と手を振って近づいてきた。

「なぁに酒の席から消えてんだァ~。もう一杯行くぞオラァ~!」

 ムワァと酒臭い息を吐きながら私たち二人と肩を組む。

 スヴェンはこういう男だ。そしてそう言うところも含めて私たちは彼のことが好きだった。

「お前なぁ・・・」

とフェリクスがため息をついたが、誰からともなく笑いだしてしまった。

 足取りのおぼつかないスヴェンを引きずるようにして帰る。途中カーラが「ごめん」と小声で手を上げた。

「なんなら、あとでそういう場を・・・」

「いや、いいんだ」

 そう言って首を振る私に、カーラはおやおや?という顔をした。

「もうプレゼントは渡してしまったからな。これ以上はまたの機会だ」

「あらあら~」

 「それじゃあ呑むわよ、今日は!」とカーラが背中をバンバン叩く。

 ふと私はここに一人、いるはずの人がいないことに気づいた。

「ヴィーラン、ウィチタはどうした?」



帝都ビュザス 騎士団寮

 人気の消えた寮の一室で、一人寂しく天井を見上げる。ぼやけした視界に映るのは、無機質な木の木目のみ。

 風邪で熱っぽい頭を枕に沈め、ズズっと鼻水を啜る。布団をかけると熱く、剥ぐと寒い、矛盾に苛まれながら、ウィチタは自分のことを呪った。

「どうじで・・・今日はクリスマスなのに・・・」

 クリスマスいかがお過ごしでしょうか。

 これを書いているのが水曜の22時ですので、まだわかりませんが、私自身は恐らくは忙殺されていることでしょう・・・

 去年なら柄でもありませんが、クリスマス会などに呼ばれてよく呑んで騒いだものです。しかし今年はこうしてなんでも自粛ですね。せめて文字の世界だけでも楽しんでいただけたら幸いです。

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