ぼっち希望は上がらない!#3
改めて校内放送で開催の合図が聞こえてくると、それと同時に徐々に校内が騒がしくなっていく。
もちろん郊外からの人も来ているため、いつも以上の賑やかさになるだろう。
俺たちのような飲食店は、常時人の出入りがある種類の店舗だ。その理由は単純明快で、休憩したい人、お腹が空いた人、クラス内の誰かを狙っている人、など多くの需要があり、それが期間中ずっと続くからだ。
そうこう考えているうちにも店先(教室外ドア付近)に人の列ができ始めてきた。
と、その様子を見つつ、彼女たちの帰りを待つことしばし。列後方がざわざわとしだしたため、俺たちもそちらを向く。
その奥には百鬼夜行。ほのかな行灯を灯し(LEDライト)淡く冷気を包むような人魂(セロハンを電球につけたもの)とともにおどろおどろしい怪異。怪異。かわいい。怪異。
その百鬼夜行は通常の、伝説のものよりも幾分も明るく騒がしいものだった。
各々、西洋のあやかしもいれば、日本古来の白装束に長い黒髪を顔の前におろした……あれ、つゆさんか?
衣装はクラスの衣装班が手掛けた力作だとかで、どこぞの安いコスプレの品よりも全然良質で上質なものになっているらしい。
並んでいる人たちに彼らは近づく。
キャストは総勢一五名。その中でも特に注目を集めるのは四、五人だった。
「お待たせいたしましたー!」
「なあ、あの子めっちゃ可愛くね?」
「ていうか他の子もめっちゃいいんだけど!」
「うわぁ、あの人かっこいい!」
「ヴァンパイア様〜〜!!」
中でもやはり日野の人気は圧倒的というか、並んでいた女性客達の心を一瞬にしてわしずかんだ。
お客を通り過ぎてキャストが中へと入る。
流石に一度に全員が接客は難しいのでキャストは交代制で五人ずつということにしている。
一回目の人達が所定位置についたところで、受付担当がドアを開けた。
ぞろぞろと入ってくる。その様子を裏方、隣の準備スペースから覗く。
「……どう? 様子」
「まあ、いいんじゃね? 日野が先導切ってやってくれてるからな。他の奴らもやりやすそうだ」
そう言いつつ振り返る。そこにいたのはねこさんだった。
ねこさんは、その名の通り“ねこ”のような……いや、多分猫又の格好をしている。
丈が短めの袴にはご丁寧に尻尾が二本ついており、気だるげそうにたれている猫耳をつけている。雰囲気はいつものねこさんだから気だるげそうにしているところが逆にあやかしのような雰囲気をも纏わせているようにも思う。
ともあれそんなことは俺の頭の最初に浮かんだことではなく、どちらかと言うと最初に浮かんだ言葉をかき消すために考えたようにほかならない。
「……似合ってるな、可愛……いや」
素で出た言葉だった。
素で出た言葉だからこそ感じる恥ずかしさ。俺はいつからこんなに口が緩くなったのだろうかと頬に若干の火照りを感じながら思う。
「……ありがとう」
いつもの調子で答えるねこさん。彼女は特にダメージを負っていないみたいだ。それはそれでショックだが。まあ、俺程度の人間から言われたとてそんなときめかんか。
「おいおい、何を話しているんだい、お二人さん」
と、前方から来たのは夏見さんだった。
夏見さんは……ミイラか? 所々に包帯をぐるぐると巻き付けている。顔は隠れてはいないものの頭にも、首にも、それから多分ミイラの衣装を着ている。え、衣装班は天才か?
それでもやっぱり目が寄ってしまうのはその体の方だった。
もともと巻き付いているような感じをイメージしたのだろうから、体のラインが出るようになっていて、そのため彼女がもともと持つスタイルがいかに良いものかが表れている。
「なんか楽しそうな話でもしてたのかい? あれ、ねこ顔赤いけど大丈夫?」
「………だ、大丈夫」
「ていうか、お前それで接客する気か?」
なんというか、なかなかにエッッッな衣装であることは間違いないんだが。胸とか衣装のほつれみたいな感じで少し隙間があったりするし。仕様なのかそれ?
しかし、夏見さんは余裕な笑みを浮かべ、ふっふっふと笑ってみせた。
「言うと思ったよ、秋月くん! やっぱり、秋月くんも男の子だからね」
「確かに俺は健全で良識的な男だが、今のは夏見さんへの注意喚起で言ったんだよ」
そう、だから健全じゃないその衣装はやめたほうがいいと思うぞ。
「私が何も対策していないとお思いで? ちゃーんと上着やら装飾品が付くから大丈夫なんだよ!」
どやぁと胸を張る夏見さん。
「じゃあなんでそれ着てこなかったんだよ」
「え? そ、それはその…………」
なに、急に恥じらったような顔されても対応に困るぞ?
ねこさんがそんな夏見さんに近づいてなにかコショコショと小声で伝えている。そのたびに、「ひゃぅ!」とか、「うぅ……」とか、およそ俺が見て良いものなのか分からない声を出すのでこっちまで恥ずかしくなった。
話し終えたのかねこさんはこちらを振り返り、
「………紅、あお、どう思う?」
「え?」
どうっていうのは、彼女の服装についてか?
そう言われて、改めて見ても別に感想は一つ二つくらいしか浮かばない。
「……可愛くて……え、似合ってると思うけど」
「………ふ、ふ〜ん」
なにその微妙な反応。
褒めるのが下手だからな、俺は。仕方がないだろう。
……なんだか空気自体も微妙になってきてしまった。
よければブックマークお願いします




