ぼっち希望は望まない!
残暑も次第に過ぎていき、青々しかった木々の葉も最近は霞がかったり早いものだともう若干赤や黄色に染まったりしつつある。
俺はといえば、秋を通り越して冬まで来ている。いや、まぁ年中冬なんですけどね。なんなら自分から冬をつくっているまである。
周囲に溶け込まず、俺はぼっちを謳歌している。
とりあえず、ぼっち必需品であるイヤホンまを装着してそれから読みかけの本を開く。
これで完全シャットアウト。並みの人間ならこれで完全に話しかけてこない。そう、並みの人間なら。
数ページめくり、ようやく本の世界に入れるくらいの時、不意に片方のイヤホンを外された。
狙ってんのか……もうちょっと待っててくれない?今いいところだから。
少し怪訝そうな顔をして見せたつもりだが伝わっていないのか、彼女は笑顔でこちらを見ている。
「おっはよー秋月君!」
毎度の事ながらいい笑顔だ。全国笑顔選手権大会とかで優勝できるレベル。なんでその顔を俺に向けちゃうの?惚れてうっかり告って死んじゃうよ?俺。
「……おう」
「テンションひく!」
「いつも通りだろ」
「それはそれで良くはないんだけど……」
彼女、夏見葵との一連の挨拶を行う。最初の頃は頷き返すだけだったのに、今ではだいぶ緩くなってしまったな……いや、これはもはや陽キャの仲間入り!?困ったなーこれだから人気者は困るぜ!…………まぁはい。そんなことはありませんて分かってますけどね。よし、今日からまた気を引き締めてぼっちしようかな!
そっと心の中で拳を高く掲げる。
宣言したからには何かしら行動を取らないと信用を得られない。これ重要。ちなみに待っているだけだと信用どころか友達すら出来ない。ここテストに出るぞー。
などと下らないことを考えていた刹那、こちらに何かが向けられる。この感じ、プレッシャーか!
機動戦士ごっこする余裕もないくらい熱い視線?を感じる。
辺りをキョロキョロとしてみるもそれといった人は見当たらなく、気付けばその感じもなくなっていた。
何だったんだ?そんな警戒されたり、恨まれたりするようなことしてないと思うんだけどなぁ。俺はぼっち。無害だよ。
まぁ唯一の懸念といえばこいつなんだよな。
「おーい、大丈夫ー?」
彼女は俺の目の前でひらひらと手を振り、俺は意識を戻す。
「あ、おう……」
この人、自分が結構目立つこと知らないのかしら。それともわざとかな?結局は俺を貶めようとしてんのかな。やだ、この子いつからそんな悪い子になって。そんな子に育てた覚えはありません!…………そうだね。育ててないね。仮に育てたとしたら恨まれても仕方ない気がしてくる。こんな人だからね、俺って。
一人で勝手に気を落としていると、不思議な顔で、いやこれは軽蔑?若干引かれてる?ように訝しげな表情をしている。
何でもないと、軽く返し席を立つ。とりあえずはトイレにでも逃げ込もう。
として、俺はぼっちの習慣を取り戻すと決める。
彼女からのがれ一人トイレの方へと向かう廊下は各教室の賑やかしが聞こえてくる。その喧騒に身を潜め誰の気にもとまらないようにするりするりと人並みを抜けていく。ははは!これぞぼっちの得意技。集団でチンタラ歩いている奴らには会得出来ない芸当!しかもぼっち、これに付随し、人よりも歩くスピードがおよそ一.五から二倍くらい速い。これもう競歩とか出れそうですね。
しかし、今こうして俺が結構意識しながら速くかつスムーズに人の波を避けているのにはスペックの他に理由がもちろんあった。
………………
やっぱり視線というかプレッシャーというかが俺を襲っている。それからさも自然に逃げているのだ。
なんだよ……とうとう人気者にでもなってしまったか?でもなんか怖いなぁ、振り返るの怖いなぁ。
とりあえずトイレに逃げ込む。
手前の教室の時計は次の授業五分前を差していた。
よし、もうそろそろいいだろう。
案の定、周りに人はいなく時計を覗くともうあと一分。やっば!もう、なんなんだよほんと……。
さっきの感に文句垂らしつつ、足早に教室へと戻っていった。…………入っても見られたのはのは夏見さんにだけでした。
なんだよ、もうほんとに授業サボれるレベルじゃん!そして夏見さん。あんたは見るな。俺の隠密が他の者にバレるから。